鮮烈な赤「ピジョン・ブラッド」

ルビーの赤色は鮮烈な赤色です。ルビー以外の宝石では、この鮮烈な赤色を見ることができません。この鮮烈な赤色ゆえに存在感があり、古くから多くの人達の目を奪い、心を奪ってきました。
宝石業界では、昔からルビーの最高級の色は「ピジョン・ブラッド」である、と言われています。ピジョンは鳩です。ブラッドは血です。ですから、鳩の血の色が最高級のルビーの色ということになります。
鳩は身近にいる鳥です。しかし、ほとんどの人は鳩の血を見たことはないと思います。
鳩を殺傷しない限り、鳩の血を見る機会などありません。身近にいる鳩ですが、簡単に生き物を殺傷することなどできません。ということで、鳩の血を見た人はほぼいない、ということになります。
さらに町中で見る鳩、山にいる鳩、日本の鳩と東南アジアの鳩、そしてヨーロッパの鳩について、血の色は同じでしょうか。現状では鳩の血について知見がありませんので、これ以上の深堀はできません。

ひとつの情報があります。
ヨーロッパのある宝石学者が、ロンドン動物園の協力を得て、鳩の血を入手する機会を得ました。その学者はその鳩の血を見て、「この血の色は、最高級のルビーの色である」と判定したとのことです。
この情報から、やはりルビーの最高級の色は「ピジョン・ブラッド」である、ということは間違いないようです。

見る方向で色が違う?!

ルビーを手にして詳しく観察すると、方向によってわずかな色の違いがあることに気付きます。この色の違いは、カット(切断、研磨)されたルビーを側面から10倍のルーペで観察すると、二つの違った色を見つけることができます。それは紫赤(しせき)色と橙赤(とうせき)色です。前者の色は紫色を帯びた赤色です。後者の色は橙色を帯びた赤色です。
一般に世界のほとんどの人は、純粋な赤色、他の色が混じっていない赤色をより好みます。特に赤色の中に橙色や黄色が混じっていることを好みません。しかし、紫色を帯びた赤色は別で、好ましいと思う人も多いです。
ルビーの原石からルースを切り出すには方向性が重要です。ルースとは、原石を切断、研磨して宝石に仕上げたものを言います。日本語では裸石と呼ばれています。
宝石の研磨職人は、ルビーの原石を丹念に調べて、市場でもっとも高い価格で取引できるように方向を定めます。ルースを正面から見たとき、もっともきれいな色に見えるようにカットします。出来る限り橙色や黄色が混じらないようにカットの方向を定めます。

時には色を犠牲にすることも

しかし、ルビーでの市場価値は色だけではありません。ルビーを正面から見たとき、真中あたりに大きなインクルージョン(内包物、宝石の中に見られる異物)があれば、そのルビーの価格は大幅に低下します。この場合は、そのインクルージョンが正面に来ないように工夫します。少し方向を変えて、インクルージョンが端に来るようにします。
ルビーの原石をカットする宝石研磨職人は、ルビーの最高の色を引き出すように努力しますが、原石に含まれるインクルージョンなどに影響されて、多少、色を犠牲にし、全体を考えて市場価値が上がるように判断をします。

今、ルビーの原石に見られるインクルージョンなどの影響を考慮しない場合、ルビーの原石から最高の色だけを引き出すことだけを考えると、右図に示した矢印の方向が最もきれいな色が見られます。
図の六角柱は一般に見られるルビーの原石の模式図です。
矢印に直角な方向、側面からでは橙色味や黄色味が混じってきます。

不純物「クロム」が発する美しい赤

ルビーの魅力的な鮮赤色は、一体、何に原因して発色しているのでしょうか? それはクロニウム(以下、クロムと表示)と呼ばれる元素が本体に不純物として混入しているからです。
ルビーの本体はコランダムと呼ばれ、アルミニウムと酸素で構成されています。不純物を含まないコランダムは無色透明です。本体にクロムが0.2%ほど混入すると、美しい鮮やかな赤色に発色します。クロムの量が少な過ぎると、ピンク色になります。ピンク色になると、ルビーではなく、ピンク・サファイアという宝石になります。
逆にクロムの量が多過ぎると、透明性が落ちて暗赤色、黒赤色になり、美しさが著しく低下して、商品価値がなくなります。

美しすぎる合成ルビー

美しいと言われる色のルビーを身近で見るには、アクセサリー店などで売られている合成ルビーが挙げられます。合成ルビーとは、天然ルビーとまったく同じ組成物、コランダムで造られています。発色剤も天然と同じクロムです。
合成ルビーは美しいです。美しいルビーを安価に人工的に造ることを目的にして合成ルビーは開発されました。ですから、合成ルビーはサイズが大きく、安価で美しいです。
合成ルビーは世界の数ヶ国で造られています。特に中国の上海地区で毎日大量に造られています。
ここで、美しい天然ルビーと美しい合成ルビーを比較して見ると、両者とも美しいのですが、どこかに差があります。天然ルビーには、不純物としてクロムの他に鉄分などが混入しています。また多少のインクルージョンの存在で透明性が完全ではありません。
一方、合成ルビーは一般にクロム以外の不純物を含みません。含んでいても極めて微量です。インクルージョンもありません。透明性は極めて良好です。
その結果、両者には微妙な差が出ます。天然ルビーは自然美が感じられ、合成ルビーは人工美という感じがします。天然ルビーの色にはどこかに陰りがあります。合成ルビーの色には、陰りが無く、純粋さが全面に出ています。

違いを楽しむ天然ルビー

天然ルビーを産出する国は、ミャンマーやタイ、スリランカ、ベトナムなどです。ルビーという赤色ですが、それぞれの国でわずかに色味が違います。一般的に宝石業界では次のように言われています。
ミャンマー産は最高の赤色、ピジョン・ブラッド色が多いと言われています。タイ産は黒色味の赤色、スリランカ産はピンク色味の赤色、ベトナム産はオレンジ色味の赤色と言われています。
天然ルビーの色は、産出する国々でわずかに色が異なります。地球は宝石を楽しむ私達人類に、均一な贈り物でなく、変化に富む贈り物、微妙に異なる色のルビーを贈ってくれました。