バルセロナの紺碧の空に浮かぶはガウディのサグラダファミリア。カタルーニャ語よりも英語の方が多く耳に入ってくる観光都市バルセロナで、忘れてはならないもう一人の偉大な芸術家がいます。

その名もサルバドール・ダリ。芸術に疎い方でも一度は名前を聞いたことがあるはず!今回はシュールレアリズムの巨匠ダリのあまり知られていないジュエラーとしての側面をピックアップ。ダリってジュエリーを作らせてもすごいんです。

ダリってどんな人だっけ?ガウディにも負けないバルセロナが生んだ芸術家

画家は画家だけにあらず!というわけで、今回はその中でも特に素晴らしい宝飾作品を作ってきた、スペインのサルバトール・ダリについてお話ししたいと思います。

ダリのバイオグラフィーまとめ!偉大な芸術家はやっぱりエキセントリック!

ダリの宝飾作品を語るその前に、まずは彼の経歴からその人生を振り返ってみましょう。

ダリことSalvador Domingo Felipe Jacinto Dalí i Domènech は、1904年カタルーニャの田舎町フィゲラスという街に生まれます。公証人の父と商家出身の母の間に生まれ、特別偉大な芸術家のサラブレットというわけではなく、天才的に画術の才能を幼少時に開花させ周囲を驚かせました。

わずか6歳で絵筆をとり、ピカソの友人で画家のラモン・ピジョーを唸らせ、青春時代はフアン・ニュネスに師を仰ぎ、キャンバスに向かう毎日を過ごします。彼はスペイン芸術の殿堂であるマドリードのサンフェルナンド芸術学校で学び、キュピズム、印象派などの強い影響を受けながら、独特のタッチのスタイルを完成させていくのです。

代表的な彼の作品として、時計が溶けている瞬間を描いた「記憶の固執」は、誰もが一度は見たことがある名品としてあげられます。

彼が紡ぐ作品はいわゆるキュピズムが基盤となっているように見えますが、そこにはルネサンスから脈々と続く繊細な線描と人物描写などにも感化され、制作した時代によって作品が与える視覚効果は随分異なることが分かります。

そんなダリですが、1941年から1970年までスローペースではありますが、宝飾作品を紡ぐようになるのです。天才のインスピレーションの矛先は必ずしもキャンバスである必要はなく、版画、彫刻、オブジェ制作、広告、映画などジャンルを問わない多芸芸術家として活躍していきました。

優越を付ける必要はありませんが、彼の金属工芸センスは驚くべきレベルの作品として認められ、「えっ、これダリが作ったの?」と新鮮な驚きを感じる作品ばかり。

なおダリはこれらの芸術的側面だけでなく、その個性的なルックスや常軌を逸脱した私生活でも注目を集めましたが、それは天才がゆえの言動と思えば納得できるはず。

彼の芸術家としての功績とエキセントリックな逸話を語れば、それだけでこのコラムは終わってしまうので、前置きはここまでにして本題に入りたいと思います。

えっ!?ダリってジュエリーもデザインしてるの?ダリのジュエリーデザインセンスが秀逸!

奇人の天才ダリ、その芸術に対するベクトルは四角いキャンバスから、鍛錬された金属へと向けられたのは、彼が30代後半にさしかかった時。前述の通り、彼は様々なアプローチによる作品を残していますが、現在は39点ほどのジュエリーと27点のデザイン画が残されています。

ここではあまり知られていないダリのジュエリーの本髄に迫ってみましょう!

ダリが金細工に目覚めたその時代と理由

独創的かつゴージャス!一度みたら脳裏から離れない!一言でダリが制作したジュエリーを語ると、多くの方が同じ印象を抱くはずです。

古くから語られることですが画家として大成するその多くは、幼少期に金細工のイロハを叩きこまれた徒弟、または金細工職人の親から教授されたものが多かったそう。つまり金属を鍛錬し細かな線をデザインできる金細工師は、その舞台をキャンバスに移しても、いかんなくその優美なラインを表現可能にしたのです。

彼がジュエリー制作に精を出した理由の一つとして、傾倒したシュールレアリスムグループを彼のファシスト思想の強さがゆえ除名になったことがゆえ。彼のジュエリーは元来のスタイルに、イタリアンルネサンスにも通じる典型的マスターピースの優美さと規律さを表現しているように感じます。

ダリはまずペーパーにデザイン画を描き起こし、まるで取りつかれたかのように、そのデザイン工程に没頭。黄金色に輝いたメタルを基軸に、色鮮やかなフルーツを思い起こす半貴石を多く用いた彼のデザイン画に魂を吹き込んだのは、アルゼンチン人ジュエラーであるCarlos Alemany。

つまりダリのジュエリーはダリ本人が金属を鍛造したわけではなく、彼の綿密な指揮の上、Carlos Alemanyのニューヨークのスタジオで生まれたのです。

ダリはそれぞれのジュエリーで使う半貴石を天才的な色彩感覚で選び、共同制作者であるCarlos Alemanyが骨の折れる彼のデザインを忠実に制作していきました。

ダリの特異なデザインのジュエリーは、まるでファベルジェ工房のようにある種の分業体制で制作され、そして彼らの素晴らしい化学反応がダリのジュエリーに天才的な美しさを生んだのです。

必見!フィゲラスのダリ美術館

ダリのジュエリー作品のコレクションはオークションで落札され個人蔵になっている作品を除き、多くのジュエリーが生誕地フィゲラスのダリ宝石美術館に所蔵されています。

ゴールドとプラチナ、多くの半貴石で埋め尽くされた彼の代表作を挙げてみると、「Evil Eye」と揶揄されるブルーの瞳を模した時計型ブローチ、真っ赤なルージュの如くルビーと歯を模した真珠の共演が斬新な「Ruby Lips」、エリザベス女王戴冠にインスピレーションを得た「The Royal Heart」、まるでルネサンスの磔刑画のようなサンゴを用いたマスターピース「The Angel Cross」などが挙げられます。

これらの素晴らしいジュエリーは彼のデザイン画と共に、バルセロナから片道2時間強のフィゲラスで鑑賞可能なので、ダリの人生の軌跡を知りたい!またはアバンギャルドなモダンジュエリーラブな方にも声を大にしてオススメできます。

モダンブランドのジュエリーに見慣れている方ほど、そのダリの才能の幅に度肝を抜かれることでしょう……。

ダリのジュエリーの国際評価はどれくらい?またどこで購入できる?

ダリの宝石美術館でダリジュエリーの虜になってしまった!という方も少なくないはず。しかし全世界でたった39ピースしか残されていない作品がゆえ、その評価額や購入方法が気になる方も少なくないと思います。

ここでは宝飾史の観点から見る、ダリジュエリーの評価についてお話ししたいと思います。

ダリのジュエリーの市場評価は?

ダリのジュエリーは数が限られているので、市場に出てくることは滅多にありません。ただし欧米のオークションでは、しばしダリのジュエリーが出品されることがあり、その落札額からおおよその市場価格を知ることが可能です。

例えば、サザビーズに出品されたエメラルドとパールによるネックレス「Swirling Sea Necklace」は、100,000~150,000ドルの評価額でしたが665,000ドルで落札。ルビーとダイヤモンドによる「Honey Comb Heart」は68,750ポンドで落札されています。

また代表作の「Evil Eye」は1,055,000ドルという一億の大台を超えた額で落札されており、宝飾業界でも彼のジュエリーがマスターピースの群像として評価されていることは一目瞭然です。

ただし上記の作品は彼が直接的に制作にかかわったピースであり、いわゆる後世の模造作品とは異なります。先日私の住む街の小規模オークションで、シンプルな磔刑図を模したゴールドネックレスが出品されましたが、評価額150~300ユーロで買い手が付きませんでした。

しかしKastonというジュエリーメーカーによる1950年代に作られた作品「Honey Comb Heart」 は、Kastonが著名なジュエラーである点、そしてダリの人気のデザインであることもあり、本物ではないものの5,000ユーロで落札されています。

別の作家、工房によるダリデザインのジュエリーと、ダリ本人が制作に関わったもので大きな評価の差があるのは当然です。しかし、後の時代のものだとしてもダリのジュエリーデザインは21世紀のモダンシーンでも十分通用する特異なセンスがあるため、オークションの評価額を大きく上回る金額で落札される傾向にあります。

複製はダリ美術館でも購入可能

ジュエリーに精通した玄人でもなかなか手が出ないのがダリのジュエリー。しかしフィゲラスのダリ宝石美術館では、彼がデザインしたジュエリーのレプリカをお土産として購入可能です。

もちろんゴールドではなく真鍮、ダイヤモンドの代わりにキュービックジルコニア、半貴石ではなくカラーガラスという安価な素材によるものですが、こちらは人気デザインでも50~500ユーロ程度とお財布に優しい値段設定になっています。

TPOを選ぶデザインではありますが、カタルーニャを訪れた際のちょっと高価なお土産として、または自分へのご褒美にダリデザインのジュエリーを楽しむのも素敵かもしれませんね!

まとめ

ダリのジュエリー、いかがでしたでしょうか?奇抜で奇妙な絵画作品に個性ばかりに目が行きがちですが、こんなにも人の心を奪うジュエリーをあのダリが作っていたなんて意外でした!

宝飾史の中で、ダリの作品はいわゆるキュピズム~シュールレアリスムを構成するマスターピースではありますが、実際のジュエリーは古典的なデザインを彷彿させるピースばかり。バルセロナに訪れることがあれば、是非フィゲラスまで足を運び彼のジュエリーを鑑賞してみても良いかもしれません。