宝石の会話を交わすとき、しばしば「鑑別」と「鑑定」という用語が出てきます。鑑別とは、ある石(宝石)が何であるか、本物か偽物か、天然か合成かなどを判定することをいいます。鑑定はある石の品質評価をすることをいいます。さらに価格算定までをいうこともあります。
ダイヤモンドの鑑別を行う場合、対象は大きく2種類があります。ひとつはダイヤモンドに外観が似ている類似石の鑑別を行う場合です。もうひとつは合成ダイヤモンドの鑑別を行う場合です。

ダイヤモンドの類似石-キュービック・ジルコニア-

外観がダイヤモンド似ている代表的な類似石は、キュービック・ジルコニア(以下、CZと表記)です。アクセサリー店や通販のカタログ、ネットの画面にたくさん見られます。多くの人によく知られた類似石です。
ダイヤモンドの類似石として、CZの他にカラーレス・ジルコン(無色透明ジルコン)やガラスなどが挙げられます。一昔前ではYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)やGGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)などが市場に多く出回っていました。今はCZの全盛時代です。ダイヤモンドの類似石としてCZ以外の石を採り上げる必要がない状況です。そこで、CZとダイヤモンドの識別を中心にして進めます。
CZがなぜこれほどダイヤモンドの類似石として多用されるのでしょうか? ふたつの側面があります。ひとつは比較的安い価格であること。もうひとつは物理的特性(屈折率など)がダイヤモンドに近いことです。物理的特性の中でも重要な項目は、屈折率と硬度です。ダイヤモンドと比較してみます。ダイヤモンドの屈折率は約2.42です。CZの屈折率は約2.15~2.18(不純物として含まれるカルシウムやイットリウムなどの量で変化)です。屈折率の数値が2を越える宝石、類似石は少ないです。
ダイヤモンドの硬度(モース硬度)は10です。CZの硬度は8です。硬度が7以上であれば、日常で使用できる宝石、類似石といえます。
ダイヤモンドのように美しく白く光り輝くには、屈折率が重要です。CZは大きな屈折率を持っており、ダイヤモンドのように輝きます。硬度も大切です。硬度は耐久性に直結しています。

ダイヤモンドと類似石の識別

CZはダイヤモンドに近い物理的特性を持っており、ラウンド・ブリリアント・カット(市場で多く見られるダイヤモンドの形状、以下、この形状にカットされたCZとダイヤモンドのみを取り扱います)されたとき、一目見ただけでは、ダイヤモンドとの識別が難しいです。カットされたCZとダイヤモンドをどのようにして識別したらよいでしょうか? いくつかの識別方法があります。

(1)肉眼とルーペ(10倍)で識別する方法

  1. ガードルの厚さを観察して、比較的厚い場合はCZの可能性が高いです。
  2. ガードルの表面を観察して、スリガラス状の場合はダイヤモンドの可能性が高いです。
  3. ファセット・ラインを観察して、シャープ・ライン(鋭利なファセット・ライン)の場合はダイヤモンドと推測します。
  4. ファセットの対称性が高い場合(左右前後のファセットが等しいこと)はダイヤモンドと推測します。
  5. 赤色直線視認法で赤い線が見えた場合はCZと判定します。ダイヤモンドでは赤い線は見えません。赤色直線視認法とは、白い紙の上に赤いボールペンで直線を引き、その上にCZまたはダイヤモンドを逆さまに置き、赤い直線が見えるか、見えないかで判定します。見えた場合はCZです。見えなかった場合はダイヤモンドです。下の図はCZ(左図)とダイヤモンド(右図)における赤色直線の見え方をはっきり判るように図解しています。
    キュービック・ジルコニア
    ダイヤモンド


この方法はルース(裸石、貴金属に留められていないカットされた石)の場合でも、リングにセットされている場合でも適用できます。ただし、適用できるのは、ラウンド・ブリリアント・カットの石のみです。

(2)専用器具で識別する方法

ダイヤモンド・テスターと呼ばれている器具が販売されています。この器具は石が持つ固有の熱伝導性を利用しています。ダイヤモンドとCZの熱伝導性を比較すると、ダイヤモンドは圧倒的に熱を伝えやすい特性を持っています。ですから、この器具を使用すると、ダイヤモンドとCZを容易に識別できます。

(3)その他の識別方法

ダイヤモンドとCZを識別する方法として、以前から息吹きかけ法や冷蔵庫取り出し法などが知られていました。テーブル面に付着した霧状の水滴がより早く除去されるかで判定します。ダイヤモンドはより熱を伝えやすく、水をはじく特性があるために、付着した霧状の水滴は素早く消えてなくなります。曇り状態のテーブル面が、ダイヤモンドは直ぐに透明なきれいな面に戻ります。
この検査を行う場合は、事前にセーム(セム)革などでテーブル面をきれいに拭いておくことが重要です。

合成ダイヤと天然ダイヤの識別

次に合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドとの識別です。合成ダイヤモンドの製造方法は主に二種類あります。ひとつはHPHT法(高温高圧法)です。もうひとつはCVD法(化学気相法)です。今、急速にCVD法で造られた合成ダイヤモンドが宝石市場に流れて来ています。合成ルビーなどを製造していた企業が、CVD合成装置を数十台も設置して生産拡大を図っています。今後、コスト・ダウンが進み、CVD法による合成ダイヤモンドの価格は予想を越えて下がるものと思われます。合成ダイヤモンドが身近に現れると予想されます。

合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを肉眼や10倍のルーペで識別することは困難です。しかし、両者には合成と天然という明確な特性の差異を持っています。その特性のひとつに短波長紫外線(より短い波長の紫外線)の透過性が挙げられます。合成ダイヤモンドは短波長紫外線を通し易く、天然ダイヤモンドは短波長紫外線を通しにくいという特性があります。この特性を利用して両者を識別する器具はすでに販売されています。
この器具の他にダイヤモンドの結晶成長の差異を検査する装置なども開発されており、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドを識別することは可能です。
CVD法による合成ダイヤモンドは、より大きいサイズ、より高品質、より低価格になって行くと推測されます。多くの宝飾品に合成ダイヤモンドが使われ、私達が普通に目にする時が来ると思われます。
しかし、合成ダイヤモンドと天然ダイヤモンドの識別は可能であり、天然ダイヤモンドの価値は不変と考えられます。

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