ルビーとして扱われていたレッド・スピネル

最近、宝石市場に美しい透明なレッド・スピネルが流通しています。スピネルという宝石は一般の人にとって馴染みが薄いかもしれません。確かに宝石の歴史の中で、レッド・スピネルはルビーの陰に隠れて、多くの人に知られることはありませんでした。
スピネルの存在自体は古くから知られていました。ドイツの鉱物学者であるアグリコーラが1546年にスピネルと命名しました。しかし、多くの人にスピネルの名前が普及することはなかったようです。赤色のレッド・スピネルはスピネルと認知されないで、ルビーとして扱われた長い歴史があります。
レッド・スピネルがルビーとして扱われた背景には、産出地の事情もあります。レッド・スピネルはしばしばルビーと同一地域で産出します。ですから、原石の形状の違い(レッド・スピネルは正八面体、ルビーは六角柱)やわずかな色の違いがあっても、レッド・スピネルをルビーとして取り扱ったものと思われます。
レッド・スピネルとルビーの本質的な違いを知るには、化学組成を明らかにすることが必要です。ルビーの化学組成は比較的単純です。通常、アルミナ(Al2O3)と呼ばれ、アルミニウムと酸素で構成されています。
レッド・スピネルの化学組成はアルミナに酸化マグネシウム(MgO)が付加したものです。レッド・スピネルの化学組成も比較的単純です。
レッド・スピネルとルビーの化学組成が異なることから、両者はまったく違う宝石に分類されます。

本質に迫ると見えてくるルビーとの違い

ここからは、レッド・スピネルの本質に迫り、さらにレッド・スピネルが持つ固有の特性、私達が目でとらえることができる表面特性について話を進めます。

右の図は三層特性図です。本質特性と固有特性、表面特性で構成されています。
先ず本質特性の中に成分の項目があります。レッド・スピネルの成分はアルミナ(Al2O3)と酸化マグネシウム(MgO)が結合したものです。
赤色の発色は微量に含まれるクロム(クロニウム)に原因しています。

次に固有特性の中を見ると、立方晶系という項目があります。晶系とは結晶系のことで、オパールなどを除いて、すべての宝石は7晶系に分類できます。7晶系とは立方晶系、正方晶系、六方晶系、三方晶系、単斜晶系、直方晶系、三斜晶系です。
宝石がどの晶系に分類されるかは、宝石の原石の形を観察すると推測できます。スピネルの原石は正八面体で産出します。正八面体は立方晶系に分類されます。逆に立方晶系に属する宝石の原石は正八面体や立方体の形をして産出します。
立方晶系に属するスピネル以外の宝石の代表としてダイヤモンドが挙げられます。ダイヤモンドの原石は正八面体や立方体(サイコロの形)で産出します。
ある宝石の晶系が判れば、その宝石の光学的な特性が類推できます。立方晶系に属する宝石は、方向を変えて見ても色が変化しない特徴があります。ある宝石がどの晶系に属するかを知ることで、他にも多くの情報が得られます。
固有特性の中に単屈折性という項目があります。単屈折性とは屈折率がひとつのみという意味です。単屈折性という特性は、レッド・スピネルとルビーを識別するときに重要な役割を果たします。ルビーは複屈折性です。ルビーは屈折率をふたつ持っています。
宝石鑑別器具のひとつに「屈折計」があります。この屈折計を使用すると、レッド・スピネルとルビーの屈折率を測定することができます。測定すると、特定の数値が得られ、レッド・スピネルまたはルビーと判定できます。
また、単屈折性はレッド・スピネルの方向を変えて、色を観察したときに色が変化しないことを示唆しています。ルビーは複屈折性ですから、方向を変えて、色を観察すると変化します。ある方向では紫赤色、ある方向では橙赤色に変化します。
さらに固有特性の中に高屈折率と高硬度の項目があります。レッド・スピネルはルビーと同程度の高い屈折率を持っています。ですから、ルビーと同様に良好な「テリ」示します。美しい輝きを示します。
硬度も比較的高いと言えます。レッド・スピネルのモース硬度は8です。ルビーのモース硬度は9です。ルビーはより硬いです。
一般に宝石のモース硬度は7以上が望ましいと考えられています。ですから、レッド・スピネルのモース硬度は必要条件を満たしています。レッド・スピネルは耐久性が充分にある宝石です。
そして表面特性に目を向けると、正八面体(原石)や鮮赤色、単色性、良好なテリ、高耐久性などの項目があります。いずれの項目も固有特性や本質特性の中の項目と深い関係があります。
例えば、レッド・スピネルの原石が正八面体で産出することは、立方晶系に属することから予想されることです。鮮赤色の発色はクロム元素を微量に含むことから予想されることです。その他の項目(単色性など)も固有特性や本質特性の中の各項目と密接に結び付いています。

希少性の高い赤以外のスピネルにも注目

ここではスピネルの代表としてレッド・スピネルを採り上げていますが、スピネルは赤色以外に多様な色で産出します。ピンク色、紫色、青色、茶色などです。特にコバルト元素を微量に含む紫青色のスピネルは魅力的な色で希少性が高い宝石のひとつです。産出量が少なく、コレクター・ストーンのひとつです。
スピネルは1500年代半ばにミャンマーで発見された歴史的に古い宝石です。発見された当初はルビーと識別されていましたが、途中からルビーとして扱われ、スピネルの名前は多くの人に知られることはありませんでした。
今、ミャンマーやタンザニアなどから美しいレッド・スピネルが産出して、市場に流通しています。今後、宝石に興味がある人達にレッド・スピネルの名前が少しずつ浸透して行くものと思われます。