今注目の、赤く透明で美しい正八面体の宝石

多くの人に広く知られている宝石ではないですが、今、レッド・スピネルが注目されています。レッド・スピネルは、美しい赤色をした透明な宝石で、しばしば赤色のルビーに間違われるほどです。
今回はスピネルの形に注目して話を進めます。スピネルの原石は独特の形をして産出します。正八面体の形で産出します。ピラミッドを二つ合わせた形です。

右図は正八面体の描画です。各辺の長さはすべて等しいです。
美しい正八面体の形をしたレッド・スピネルの原石はカット(切断、研磨)を施さなくても、充分に見映えがあり、原石の状態で宝飾品に使われることもあります。
一般にレッド・スピネルは、ルビーと比較してインクルージョン(内包物、異物)が少なく、透明感が優れています。

多くの人にとって宝石の原石を見る機会は少ないと思いますが、特別な形をした原石を見ると、大自然が創り出す不思議な力を感じるかもしれません。

右の写真はレッド・スピネルの原石です。(写真出所:GIA)
このレッド・スピネルの原石はほぼ完全な正八面体をしています。色の濃度もほど良く、美しい赤色です。正八面体という形状を考慮しなければ、ルビーと間違う美しい赤色をしています。

赤い透明の石コロはルビーにしか見えない

レッド・スピネルはルビーと間違われて来た長い歴史があります。両者が産出する国、地域もしばしば同じです。両者の原石の形は正八面体と六角柱という違いがあります。ですから、良好に成長した原石を見れば、両者の違いは明確です。しかし、中世の時代の人々は、ルビーは六角柱や正八面体で産出するものだと解釈していたかもしれません。
現在の宝石学では、レッド・スピネルが六角柱の形状で産出することはない、と言えます。また、ルビーが正八面体の形状で産出することはない、とも言えます。
レッド・スピネルもルビーも常に整った形状の原石で産出するとは限りません。地表近くの原石は、風雨にさらされ、地質学的な時間(数百万年~数千万年)を経て、元の原石の形状が崩れ、ペブル(丸みを帯びた石コロ)で見つかることも多いです。
このようなペブルで発見されると、同じ赤色のレッド・スピネルとルビーを識別することは困難となります。中世の時代の人にとって、赤色のレッド・スピネルのペブルはルビーである、と判断したように思われます。

現代の知見をもってすれば、ルビーとレッド・スピネルは一目瞭然

現在の宝石学では、すべての宝石は7種類に分類されます。宝石(結晶)の外形と内部構造から7種類に分けられます。7種類は結晶系と呼ばれています。次の7晶系があります。立方晶系、正方晶系、六方晶系、三方晶系、単斜晶系、直方晶系、三斜晶系です。
例えば、立方晶系に属する宝石はダイヤモンド、スピネルなどが挙げられます。正方晶系に属する宝石はジルコン、六方晶系に属する宝石はエメラルド、三方晶系に属する宝石はルビーが挙げられます。他の三晶系に属する宝石もいろいろあります。
宝石は属する晶系によって産出する形状が限られます。立方晶系に属する宝石は、正八面体または立方体(サイコロの形)で産出することが多いです。正方晶系に属する宝石は正方柱が多いです。正方柱とは、断面が正方形で柱状に伸びた結晶です。
六方晶系は六角柱が多いです。三方晶系も六角柱の形状で産出しますが、六方晶系の六角柱と細部で少し違いがあります。
レッド・スピネルは立方晶系に属しますので、正八面体で産出することが多いです。一方、ルビーは三方晶系に属しますので、六角柱で産出することが多いです。宝石学から原石を観察すると、レッド・スピネルとルビーはそれぞれ正八面体と六角柱で産出することから、お互いに違う種類の宝石である、と判定できます。
レッド・スピネルとルビーがペブル(丸い石コロ形状)で発見されたとき、形状に基づく判断ができません。この場合、現在の宝石学において、立方晶系の宝石(レッド・スピネルなど)は単色性を示すことが判っています。単色性とは、宝石の方向を変えても色が変化しない性質です。
他方、三方晶系の宝石(ルビーなど)は二色性を示すことが判っています。二色性とは、宝石の方向を変えて観察すると、二つの色が見られる性質です。
レッド・スピネルの方向を変えて観察しても、ボディ色(本体色)の赤色が見られるだけです。ルビーの方向を変えて観察すると、紫赤色と橙赤色の二色が見られます。この違いによってレッド・スピネルとルビーは識別できます。

クッション・カットでレッド・スピネルの美しさを引き出す

市場に流通しているレッド・スピネルのルース(裸石)について、そのカット形状をながめると、数種類に限られています。レッド・スピネルの屈折率はルビーの屈折率に近い数値を持っています。ですから、レッド・スピネルの輝き、テリはルビーに似ています。ルビーのカット形状はステップ・カットが標準的です。しかし、市場においてレッド・スピネルのカット形状はステップ・カットが少ないです。

レッド・スピネルに関わる宝石商は、良く知られているルビーとの差別化を意図して、一般的なステップ・カットを避けているかもしれません。
右の写真は流通しているレッド・スピネルの外観形状を示しています。この写真はクッション・カットです。上から見たクッション・カットの形は、正方形の4隅に小さなR(アール、丸みをつけること)を付け、4辺に大きなRを付ける特徴があります。

全体として優しさ、優美さを演出できます。レッド・スピネルのカット形状はクッション・カットの他にラウンド・ミックス・カットなども見られます。
スピネルという宝石名は一般の人達に余り知られていません。しかし、美しい赤色のレッド・スピネルに出会うと、魅了されるかもしれません。
レッド・スピネルは古くから王侯貴族、宝石愛好家に所有されて来ましたが、ルビーと間違われていた歴史があります。今、レッド・スピネルの新しい鉱山が発見され、美しい赤色の宝石として多くの人々の目に触れる機会が増えると思われます。