すみれ色の青い宝石

良質のアイオライトは、外観がブルー・サファイアやタンザナイトに似ています。紫色が強いアイオライトではアメシストにも似ています。
アイオライトは比較的産出量も多く、価格も手頃ですから、容易に入手できる宝石として人気が出てきました。
アイオライトの色は紫青色(紫色を帯びた青色)を中心に青色、青紫色、紫色、褐色、無色などで産出します。アイオライトの名前はドイツの地質学者ウェルナーによって命名されました。アイオライトのアイオはギリシャ語で紫色を意味します。ライトは石という意味です。
アイオライトはいくつかの別名があります。アイオライトの光学的特性を詳しく研究したフランスの地質学者コルデイエに因んで、鉱物業界ではコーディエライトと呼ばれています。
また、アイオライトは強烈な多色性(方向を変えて観察すると、色が変わって見える現象)を持つことから、ダイクロアイト(二色の石)とも呼ばれています。
アイオライトの日本語訳として、明治期の鉱物学者達は「菫青石(きんせいせき)」という単語を充てました。アイオライトの色は、菫(すみれ)の花に似ていると想いを巡らし、苦労しながら新たな単語を創出しました。

右の写真は菫(すみれ)の花です。青色味を帯びた紫色をしています。植物の花は透明感がありません。
一方、多くの宝石は透明感があります。ですから、植物の花と鉱物の宝石とでは、同じ色相でも受ける感じが異なります。しかし、相違はあってもアイオライトを花にたとえると、やはり菫の花が妥当と思われます。
大地から産出するアイオライトの色は様々です。良質のブルー・サファイアに似ていることもあります。

ブルー・サファイア、タンザナイトとも似ている

右下の写真はアイオライトですが、見た感じはブルー・サファイアのようです。上から見ただけでは識別が困難です。(写真出所:GIA)
アイオライトの発色原因は鉄元素によるものですが、鮮やかな青色は鉄元素とチタン元素によると推測されています。
鉄元素は本体の組成や構造によって発色が変化します。鉄元素は青色や水色、紫色、黄色、褐色などの発色原因となります。
青色の中に紫色が強く出ているアイオライトは、一見するとタンザナイトのように見えます。右の写真は青紫色のアイオライトです。(写真出所:GIA)
タンザナイトは美しさと希少性から高価格の宝石になっています。一方、アイオライトは比較的豊富に産出していますので、より安価です。
アイオライトの色について特筆する現象があります。それは強い多色性を示すことです。
多色性とは、方向を変えて宝石を観察すると、色が違って見える現象のことです。方向を変えると二つの色が見える二色性、そして方向を変えると三つの色が見える三色性があります。

特徴的な三色性をもつアイオライト

アイオライトは三色性に属します。右の表は多色性の例を示しています。いずれも強い多色性を示す宝石の例です。アイオライトの項目を見ますと、三色性として青色、紫青色、淡黄色と記載されています。
アイオライトをテーブル面から観察すると、青色または紫青色が見られます。次に側面から観察すると、淡黄色が見られます。淡黄色はほとんど無色に見えるかもしれません。側面から観察して、淡黄色(または無色)が見られたら、アイオライトとほぼ判断できます。アイオライトは強い三色性を示す宝石の代表的な例です。

上の表には、アイオライトの他にアンダリュサイトが三色性の例として挙げられています。この石も強い三色性を示します。表には二色性の例としてルビーやブルー・サファイアが挙げられています。両宝石とも強い二色性を示します。

多色性(二色性と三色性)の強弱は、強、明瞭、弱の三段階に分けられます。強い多色性を持つ宝石を観察する場合、比較的簡単に多色性であることを探すことができます。しかし、多色性が明瞭や弱の宝石を観察するときは、多色性であることを簡単に探すことはできません。少し経験が必要です。

アイオライトは時に外観が赤色味を帯びることもあります。上の写真はブラッドショット・アイオライトと呼ばれる宝石の例です。(写真出所:etsy)
ブラッドショットとは「充血した」という意味です。確かにこの宝石には血の色のような赤い異物がたくさん見られます。この赤い異物は赤鉄鉱です。見る角度によってキラキラと光る珍しさがあります。宝石愛好家が所有したい宝石のひとつです。

本稿は無断転載禁止です。ヴィサージュジャパン 株式会社