様々な発色をするスフェーン

スフェーンの名前は一般の多くの人に余り知られていません。しかし、宝石に興味がある人にとって、強いキラキラ感、華やかさがある宝石として人気があります。
スフェーンは多様な色で産出します。黄緑色、黄色、緑色、茶色、黒色、赤色などです。
発色原因は主に微量に含まれる鉄元素です。鉄元素が比較的少ない場合は黄色や緑色に発色します。鉄元素が比較的多い場合は茶色や黒色となります。

右の写真では緑色を基調にして、黄色や黄緑色の分布が見られます。(写真出所:Etsy)

 

右の写真は黄茶色のスフェーンで、鉄元素が比較的多いと推測されます。(写真出所:Etsy)
スフェーンの発色原因は鉄元素の他にクロム元素やバナジウム元素、マンガン元素、セレン元素、エルビウム元素などが影響していると推測されています。

 

鮮やかな緑色や濃い緑の発色にはクロム元素やバナジウム元素が関与しています。右の写真はクロム・スフェーンと呼ばれており、クロム元素によって鮮やかな緑色に発色しています。(写真出所:gemsociety)
赤色やピンク色の発色にはマンガン元素、セレン元素、エルビウム元素が関与していると推測されています。

強いファイア効果をもたらす分散値

スフェーンが持つ独特のキラキラ感は、ファイア効果、ダブリング現象、高屈折率、多色性が複合的にからんでいると考えられています。世界の宝石の書籍、専門家は特にスフェーンの強いファイア効果の影響を指摘しています。
ファイア効果は虹色効果のことです。物理の世界では「分散(ディスパージョン)」と呼ばれています。中学や高校でガラス・プリズムの実験を経験された方も多いと思います。ガラスプリズムに光を当てると、反対側の白い壁に虹色が映し出されます。上から順に赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色が現れます。
ファイアの強さ、分散値は数値で表現できます。スフェーンのファイアは相当に強いです。ダイヤモンドよりも強いです。各宝石の分散値を示すと、下の表の通りです。

分散値は赤色系の光(687nm)での屈折率と青色系の光(431nm)での屈折率の差と定義されています。
右表の分散値を見ると、0.280という突出した数値を持つ宝石はルチルです。その次に0.051のスフェーンが続いています。分散(ファイア)の標準としてダイヤモンドをイメージすると判り易いです。
ダイヤモンドを上から観察すると、黄色や青色などの色がファセットに見られます。これがファイアです。
右表の第4位にジルコンが挙げられています。第5位にペリドットあります。数値は0.020です。
ファイアは宝石の本体に色がついていると、判りにくいです。ペリドットは黄緑色の本体と低い数値(0.020)のためファイアを感じることはほとんどありません。

 
スフェーンの場合、黄緑色や緑色の本体でも強いファイアのため、数個所のファセットに赤色やオレンジ色が発現します。スフェーンの外観のキラキラ感、華やかさにファイアが大きく影響しています。

キラキラ感を増幅する複屈折量

スフェーンのキラキラ感や華やかさにファイアが影響していますが、その他の要因としてダブリングも挙げられます。ダブリングとは、テーブルを通して裏側のファセット・ラインが二重に見える現象のことです。ファセットの形と色が二重に見えることで、スフェーンのキラキラ感、華やかさがより増幅されます。

ダブリングの強さは宝石自身の複屈折量に依存しています。複屈折量とは最大屈折率と最小屈折率の差を言います。スフェーンを含めていくつかの宝石の複屈折量を右表に示しています。
右表の第1位にカルサイト(方解石)が挙げられています。カルサイトは新聞紙の上に置くと、文字が二重に見えることで知られています。
第2位にスフェーンが挙げられています。数値としては0.120です。相当に大きい数値です。ダブリング(複屈折量)の標準的な宝石はペリドットです。この石の数値は0.036です。
スフェーンは強いダブリング効果を持つことから、ファセットの形と色が二重に見えて、スフェーンによりキラキラ感、華やかさを与えています。また、スフェーン自身は高い屈折率を持っているので、ファセットの表面で光りが強く反射され、より輝きが増します。テリが増します。

 
スフェーンのキラキラ感や華やかさは、スフェーン特有のファイア、ダブリング、高屈折率から生まれています。スフェーンは黄緑色、緑色などの地色(本体色)の中に部分的に赤色やオレンジ色が見られる特異な宝石です。

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