マルチ・カラーが魅力のフローライト

フローライトは多彩な色で産出します。多彩な色を持つ宝石としてトルマリンが知られています。フローライトもトルマリンと同様にさまざまな色が見られます。
フローライトの一般的な色は紫色、青色、緑色、黄色、無色などです。時にピンク色、赤色、褐色、白色、黒色などが見られます。フローライトは日本語で蛍石(ほたるいし)と表示されます。
そして、フローライトはしばしば色帯(帯状の異なる色が接する状態)を伴って産出します。紫色と青色、紫色と緑色などのバイ・カラー(2色)、または紫色と青色と黄色などのマルチ・カラー(複数色)で産出することがあります。

右の最上段の写真はフローライトの原石を薄く切断して、光を透過させた状態を示しています。いろいろな色が年輪状に連なっていることが判ります。紫色や緑色、青色、黒色などが繰り返し現れています。マルチ・カラーの典型的な例です。
右の中段の写真はマルチ・カラーを示すフローライトのルースの例です。茶色や黒色、淡青色、灰色、紫色などが見られます。
最下段の写真は淡紫色や濃紫色、白緑色などを示すフローライトのルースの例です。色の数から判断すると、バイ・カラー(2色)と言えます。


自然環境が生み出す魅力的なカラー

フローライトがマルチ・カラーやバイ・カラーを示すことは、フローライトの結晶が成長する過程で環境(温度、圧力、濃度、不純物)が激しく変化したと推測されます。
環境が安定していると、単一の色を示すフローライトの結晶が得られます。
フローライトのモース硬度は4で、比較的低いです。また劈開(へきかい)が顕著なため、衝撃を受け易いリングに使用されることは少ないです。劈開とは、一定の力を加えると特定の方向で割れる結晶の特性のことです。
一般的にフローライトはアクセサリーとして使われることが多いです。マルチ・カラーのフローライトはアクセサリーとして魅力的な素材と言えます。天然素材にこだわりを持つデザイナーやメーカーの方にとって、フローライトは硬度が低く、劈開の特性を持っていても、マルチ・カラーの天然素材としての魅力があると思われます。
フローライトの色は、マルチ・カラーでなく単色もあります。紫色や青色、緑色、黄色などのひとつの色で占められた結晶も産出します。

右の上段の写真は緑色のグリーン・フローライトを示しています。下段の写真は青色のブルー・フローライトを示しています。

発色要因の分析

フローライトはなぜ多様な色を示すのでしょうか?フローライトの発色原因は次のように推測されています。
(1)不純物による発色
多くの宝石は不純物を含むことが原因で発色しています。例えば、赤色のルビーはクロム元素(Cr)を微量に含むことで赤色に発色します。
フローライトの多くの色も微量に含まれる不純物によって発色している、と推測されています。
フローライトに含まれる不純物は、マンガン(Mn)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)などです。マンガンはオレンジ色、黄色、赤色に発色させます。
銅は青色、緑色に発色、イットリウムは紫色に発色、ジルコニウムはオレンジ色、赤色に発色させます。
(2)格子欠陥による発色
フローライトを構成する原子は規則正しく格子状に配列しています。しかし、放射線や熱を受けると、格子の乱れ(原子や電子の欠落など)が起こり、光が均等に透過しなくなります。その結果として発色します。例えば、濃い紫色はフッ素が部分的に欠落したことによると推測されています。
(3)複合要因による発色
フローライトの多彩な色は、不純物や格子欠陥が複合的にからんで発色していると考えられています。

和名「蛍石」の由来にもなったフローライトの特徴

フローライトに紫外線(長波紫外線)を当てると、ほとんどの場合は紫青色または青色の蛍光を示します。蛍光の原因は微量に含まれるユウロビウム(Eu)やイッテリウム(Yb)によると推測されています。
フローライトを火炎に当てると、火花を出して細かく砕けます。この様子が蛍のように見えることから、日本では蛍石と呼ばれるようになった、と言われています。
フローライトの語源はラテン語の「流れる」から派生しています。フローライトと鉄鉱石などを混ぜて加熱すると比較的低い温度で溶け合います。フローライトは溶剤としていろいろなものを「溶かす」、「溶かして流れる」という意味を持っています。
イギリスで産出する紫色や緑色、青色、黄色、黒色などの縞模様を持つフローライトは、「ブルー・ジョン」と呼ばれて、花びんや置物などに加工され、ヨーロッパで人気があります。
フローライトはトルマリンと共に多彩な色で産出ことが知られています。多彩な色の縞模様を持つフローライトは、生成過程で環境が周期的に変化したことを物語っています。

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