人々を魅了する縞模様をもつ鉱石

世界的に有名なブランドのジュエリーにもマラカイトが使用されています。マラカイトは比較的入手できる手頃な価格の素材です。マラカイトはジュエリーやアクセサリー業界に関係する人達には知られていますが、一般のユーザーには余り知られてないかもしれません。
マラカイトを一目見ると、その強烈な模様に魅せられる人も多いと思われます。濃い緑色と淡い緑が曲線状に周期的に繰り返す模様はまるで美術品のようです。

不純物に基づく色ではない「自色宝石」

マラカイトは世界中の銅鉱山がある周辺で産出します。マラカイトは銅(Cu)と深い関わりを持っています。その化学組成[Cu(OH)CO]は銅を主体に構成されています。マラカイトの緑色はこの銅元素に原因しています。マラカイトの化学組成は銅で構成され、この銅によって緑色に発色しています。このような宝石は「自色宝石」と呼ばれています。
自色宝石は宝石の中で比較的珍しい存在です。自色宝石はマラカイトの他にターコイズ(トルコ石)、ペリドットなどがあります。
自色宝石に対応する用語として「他色宝石」があります。ほとんどの宝石は他色宝石に属します。他色宝石とは微量に含まれる不純物によって発色している場合を言います。
例えば、ルビーやブルー・サファイア、エメラルドなどが挙げられます。ルビーの赤色は本体であるコランダム(Al)にわずかなクロム(Cr)元素が混入することによって生じます。青色のブルー・サファイアはコランダムにわずかな鉄(Fe)元素とチタン(Ti)元素が混入することによって生じます。
緑色のエメラルドは本体であるベリル[BeAl(SiO]にわずかなクロム元素が混入することによって生じます。クロム元素は混入する本体の組成(構造)によって色が変化します。コランダム(ルビーの本体)では赤色、ベリル(エメラルドの本体)では緑色となります。
他色宝石は不純物が含まれないと無色透明です。自色宝石は不純物が含まれていても含まれて無くても色の変化はありません。

マラカイトのような自色宝石は色(緑色)がほとんど変化しない、という特徴があります。一方、他色宝石は不純物の種類によって色が大きく変化します。色が大きく変化する他色宝石としてトルマリンが挙げられます。トルマリンはマンガン(Mn)元素を微量に含むと、赤色のルベライトになります。微量のバナジウム(V)を含むと、緑色のグリーン・トルマリンになります。不純物の種類(元素)によって色が大きく変化します。

マラカイトを構成している銅元素は、本体に不純物として混入している場合、本体を青色または緑色に発色させます。パライバ・トルマリンの美しい緑青色や青緑色も銅元素によって発色しています。
銅が金属の結晶として本体に存在する場合は暗赤色や褐赤色に発色します。長石の中に金属銅が小さな板状に分布していると、キラキラ輝くサンストーンになります。

特徴的な曲線状の縞模様

マラカイトは濃い緑色と淡い緑色、そして黒緑色と白色の細い帯または線で構成されています。その帯びと線の幅を測定すると、ひとつのマラカイトの試料において帯の幅は1ミリ~0.5ミリほど、線の幅(太さ)は0.1ミリ~0.3ミリでした。
幅がある黒緑色の帯をルーペで観察すると、肉眼では黒緑色の一色に見えますが、数本の淡緑色の線がその帯の中に見られました。

マラカイトは曲線状の緑色の縞模様を持つことが特長です。緑色の濃淡が周期的に現れる特異な模様を持っています。この濃淡の縞が周期的に見られることは、マラカイトが生まれるときの環境が周期的に変化していたことを意味しています。
マラカイトの縞と縞の境界はグラデーションでなく、比較的明瞭な境界となっています。境界がはっきりしていることは、環境がかなり急変したことを意味しています。
環境の条件として、溶液の温度、圧力、組成、不純物濃度、時間などが挙げられ、これらの条件下でマラカイトの組成の中に銅元素が余分に取り込まれたり、不足になると推測されます。余分に取り込まれると濃い緑色に発色、不足すると淡い緑色または白色になると推測されます。

薄い緑の条痕色がマラカイトの証

マラカイトは絵の具の材料として使われたこともあります。マラカイト・グリーンという色名(日本工業規格に規定)もあります。マラカイトを砕いて粉末にすると、薄い緑色になります。
鉱物の世界では、鉱物の判定方法のひとつとして「条痕色(じょうこんしょく)」の観察があります。条痕色の観察方法は、素焼きの白い陶磁器にマラカイトを押しつけてこすり、現れる色を見ることです。マラカイトの条痕色は薄い緑色です。
色を持つすべての宝石の条痕色が色を持つとは限りません。例えば、赤いルビーの条痕色は白い色です。エメラルドも白色となります。ほとんどの宝石の条痕色は白色です。
条痕色が色を持つ宝石(貴石)や半貴石は、マラカイトの他にラピス・ラズリが挙げられます。その石の条痕色は青色です。

1980年代にロシアで合成マラカイトが造られました。緑色の濃淡の縞模様を示し、外観は天然石に酷似しています。天然マラカイトそのものが比較的安価ですから、強いて識別する必要がない、という専門家もいます。一方で天然石のみを扱うメーカーや販売者にとっては、合成マラカイトを区別したいということになります。
天然マラカイトと合成マラカイトを正確に識別するには専門的な器具が必要です。両石に含まれる微量成分を分析する必要があります。
リン(P)やニッケル(Ni)について微量成分の量(ppm、百万分の一)を検出することで識別が可能です。または微量に含まれるマグネシウム(Mg)と亜鉛(Zn)の比率、コバルト(Co)とバナジウム(V)の比率を調べることで天然マラカイトと合成マラカイトを識別することが可能です。

本稿は無断転載禁止です。ヴィサージュジャパン 株式会社