色帯(しきたい)
ひとつの石の中に複数の色が異なる帯(筋)や色の濃淡を持つ帯(筋)が見られる状態をいいます。帯の幅は広い場合、あるいは狭い場合があります。狭い場合は筋、線のように見えることもあります。
色帯のひとつの例としてマラカイト(孔雀石)が挙げられます。マラカイトは緑色の濃淡を持つ石です。濃い緑色と薄い緑色が帯状となって幾重にも連なっています。
フローライトも色帯を伴って産出します。紫色や青色、緑色、黄色などが帯状に連結して美しい模様を生み出すことがあります。
フローライトの色が帯状に変化していることは、結晶成長の過程で一定の時間毎に環境(温度、圧力、成分、不純物など)が激変したことを物語っています。
多彩色
フローライトはトルマリンと共に多彩色を持つ石として知られています。フローライトは紫色や青色、緑色、黄色など多彩な色が見られます。
フローライトの発色原因は不純物と格子欠陥に因ると推測されています。不純物や格子欠陥が無い場合は無色透明です。
フローライトの中に微量の不純物、例えばマンガン(Mn)元素が含まれると黄色や橙色、赤色に発色します。
この他、銅(Cu)元素が含まれると青色や緑色に発色、イットリウム(Y)元素では紫色に発色、ジルコニウム(Zr)元素では橙色、赤色に発色します。
濃い紫色の発色は格子欠陥に因ると推測されています。フッ素(F)原子が欠落して光が部分的に吸収され、濃い紫色になると推測されています。
劈開(へきかい)
フローライトは強い劈開を示す石として知られています。劈開とは、ある石に一定以上の力を加えると、特定の方向に平行に割れる性質のことです。劈開は結晶の特性のひとつとして挙げられます。
フローライトの劈開の方向は8面体(ふたつのピラミッドの底面を合わせた形)の面に平行に現れます。ですから、劈開する面は4方向あります。
劈開が生じる強弱は、完全(強)、明瞭(並)、不完全(弱)などと表現されます。強い劈開の石をジュエリーやアクセサリーに使う場合には、貴金属などで破損を避けるデザイン処理が必要です。
強い劈開を持つ石でも日常使用で簡単に割れるわけではありません。劈開はある特定の方向に割れる性質を持っているので、その特定の方向に力、衝撃が加わらない限り簡単に割れることはありません。
実際にダイヤモンドは顕著な劈開を持つ宝石であると言われています。しかし、日常使用で破損に至るケースはほぼありません。
トパーズも強い劈開を持つ石として知られています。その結晶の伸長方向に直角に劈開が起こります。カッター(研磨工)はトパーズの劈開方向を熟知していますので、日常使用で破損に至らないように、テーブル面を伸長方向の角度からわずかに傾けてカットしています。
フローライトの場合、ステップ・カットなどに加工するときに特別な角度、方向を付けることはないと思われます。
蛍光発色
フローライトは日本語で「蛍石(ほたるいし)」と呼ばれています。フローライトを火炎の中に入れると砕けて火花を出し、その火花が蛍のように見えることから蛍石と呼ばれるようになった、と言われています。
一方、フローライトに紫外線を照射すると青色の蛍光を発します。フローライトは蛍光発色する石として知られています。
蛍光とは、紫外線などの短い波長の光(ブラック・ライト)を石に当てると、より長い波長(可視光線)の光を発する現象を言います。
宝石業界で使われているブラック・ライトには2種類の波長があります。ひとつは短波長紫外線、もうひとつは長波長紫外線です。それぞれの波長は254nmと365nmです。(nm、ナノメーターとは極端に小さいものを表すときの単位です。1nm=10-9メーター)
石の種類によって短波長紫外線と長波長紫外線を使い分けます。フローライトに長波長の紫外線を照射すると、青色の蛍光色を発します。短波長紫外線ではかなり弱い青色を発します。
ダイヤモンドに長波長紫外線を照射すると、青色、緑色、黄色などの蛍光色を発することが多いです。ダイヤモンドが蛍光発色する特性を利用して、他の類似石(キュービック・ジルコニアなど)との識別に蛍光検査が行われることもあります。ダイヤモンドは、短波長紫外線に対してはかなり弱い発色、検知できないほどです。
合成フローライト
フローライトの分散は非常に小さいです。分散とは光の波長の種類によって屈折率が異なる現象のことです。分散が大きいと虹色が見られます。
光学レンズには小さい分散の素材が使われます。フローライトは最適な素材のひとつに挙げられます。フローライトの分散値は0.007です。ダイヤモンドの分散値は0.044です。
天然フローライトはインクルージョンなどを含むためにレンズ用途に適しません。そこで、内部欠陥のきわめて少ない合成フローライトが求められました。
宝石市場に合成フローライトが出回る機会はほとんどないです。しかし、ピンク色の合成フローライトが出ているとの報告もあります。