存在感のある縞模様は、マラカイト本体が生み出している
濃い緑色と淡い緑色そして黒い緑色が周期的に繰り返す縞模様は、数ある宝石の中でも強烈な存在感を誇示しています。マラカイトの縞模様は自然が創り出した芸術品のような印象を与えます。
縞模様を示す石は、マラカイトの他にアゲートやロードクロサイトなどがあります。しかし、いずれもマラカイトと肩を並べるほどの強烈な縞模様ではありません。
マラカイトの緑色は銅(Cu)元素に原因しています。宝石の色は一般に不純物の存在に原因しています。例えば、ルビーの赤色は不純物として含まれるクロム(Cr)元素に原因しています。ブルー・サファイアの青色は不純物として含まれる鉄(Fe)元素とチタン(Ti)元素に原因しています。
一方、マラカイトの緑色は銅元素に因るものですが、この銅元素は不純物として含まれるものでなく、マラカイトの本体を構成しています。
ルビーやブルー・サファイアの本体はコランダム(工業界ではアルミナと表示)であり、クロムや鉄、チタンで本体が構成されている訳ではありません。
不純物によって発色している宝石は他色宝石と呼ばれています。マラカイトのように本体を構成している元素で発色している宝石は自色宝石と呼ばれています。
ほとんどの宝石は他色宝石です。自色宝石は少ないです。自色宝石はマラカイトの他にターコイズ(トルコ石)やペリドットなどがあります。
マラカイトの本質を組成から探る
マラカイトの本質を探るには、その化学組成を知ることが第一歩となります。次にマラカイトの固有特性や表面特性を知るという手順になります。ここでは三層特性図という様式を利用してマラカイトの多様な特性を探っていきます。
右図は三層特性図を示しています。先ず本質特性を見ると、銅成分を含む化学組成が表示されています。マラカイトの化学組成は比較的シンプルです。銅の他に酸素と水素、炭素です。
次に固有特性を眺めると、微細結晶集合体という項目があります。マラカイトは1ミクロン~50ミクロンの針状、板状の結晶が集積したものです。針状や板状の結晶が同じ方向に集積すると、その方向の強度は相対的に弱くなると推測されます。

この微細結晶の集合体は、表面特性の不透明につながります。また成長環境の変化によって周期的な縞模様を形成することにつながると思われます。成長環境は濃度、温度、圧力、酸化還元などの要素が考えられます。
固有特性の中に銅元素発色という項目があります。マラカイトの緑色は銅に原因しています。銅元素は緑色の他に青色に発色させることもあります。パライバ・トルマリンの美しいネオン・ブルーは銅元素に原因しています。
岩絵具は、宝石でできている
そして固有特性の中に条痕色(じょうこんしょく)という項目があります。この条痕色とは、白い陶磁器(素焼き)の板にマラカイトをこすりつけた時に見られる色のことです。この色によって鉱物名(宝石名)を判定できることもあります。マラカイトの条痕色は薄い緑色です。
多くの宝石の条痕色は白色となります。例えば、赤色のルビーの条痕色は粉末状の白色となります。ブルー・サファイアもエメラルドもダイヤモンドも白色の条痕色となります。
条痕色が有色を示す石や金属について、右の表にいくつかの例を示しています。
ラピス・ラズリは青色です。ターコイズ(トルコ石)は淡い青色となります。
貴金属について、金の条痕色は黄金色となります。
条痕色が有色を示す石は絵具の材料にもなります。表面特性の中に岩絵具という項目があります。岩絵具は日本画にも使われて来ました。緑色や青色の原料であるマラカイトやラピス・ラズリなどの粉末は高価でした。近代になって合成の有機色素が開発され、各種の色の材料が安価に入手できるようになりました。
有機色素は経年変化、劣化が起こる傾向にあります。しかし、岩絵具は経年による変化や劣化がほぼ無いために、今でも重宝されています。

固有特性の中に低硬度という項目があります。マラカイトのモース硬度は4前後です。
ですから、耐スリ傷性は低いと言えます。日常的な使用で表面に大小のスリ傷が発生しやすいです。
しかし、マラカイトは不透明ですから発生したスリ傷は目立ちにくいです。真上から見ても、スリ傷の発生は容易に判りません。斜めからの光の反射でようやく確認できるほどです。貴金属などの金属にセッティングされたマラカイトについては、スリ傷が発生する確率は大幅に低くなるものと推測されます。