硬さともろさがフローライトの弱点

フローライトはトルマリンと同様に多彩な色で産出することが知られています。多彩な色は魅力に富みますが、フローライトはネガティブな特性も持っています。
ひとつは硬度が比較的低いことです。モース硬度は4です。耐スリ傷性がやや劣ることです。モース硬度はひっかき硬度と言われるように、2種類の異なる硬度の石同士をすり合わせたとき、スリ傷がどちらに発生するかで硬度の程度を判定します。フローライトは硬度が4ですから、日常使用でややスリ傷が発生しやすいといえます。
もうひとつのネガティブ特性は「劈開」が生じ易いことです。劈開とは、一定以上の力を加えると、ある特定の方向で割れ易い性質のことです。
フローライトは硬度と劈開の点でネガティブ特性を持っていますが、多彩な色の魅力があることで、アクセサリー素材としてペンダント・トップやイアリングなどに多用されています。

原石の形も宝石の魅力

フローライトは多彩色という魅力の他に原石の形にも魅力があります。原石を加工しないで、そのまま活用することもあります。
原石の形は結晶系によって決まります。すべての宝石(非結晶を除く、例えばオパールなどは除く)は7種類の結晶系に分類されます。どの結晶系に分類されるかは、結晶自身の原子配列の状態で決まります。7種類の結晶系は次の通りです。あわせて、その結晶系に属する代表的な宝石の例も挙げています。
(1)立方晶系:ダイヤモンド、フローライトなど。
(2)正方晶系:ジルコン、ルチルなど。
(3)直方晶系:トパーズ、ペリドットなど。
(4)六方晶系:エメラルド、アパタイトなど。
(5)三方晶系:ルビー、トルマリンなど。
(6)単斜晶系:クンツァイト、スフェーンなど。
(7)三斜晶系:ラブラドライト、ターコイズなど。

フローライトが属する立方晶系とは

フローライトは立方晶系に属します。ここでは主に立方晶系について話を進めます。この晶系に属する宝石の形はサイコロや正八面体で産出します。

サイコロの形は右図(a)に示したように正方形が6面あります。フローライトは立方体で産出することが多いです。
立方晶系に属する宝石は、次図(b)に示したように正八面体で産出ことも多いです。正八面体は2つのピラミッドを底辺で合わせたような形です。ダイヤモンドは立方体よりも正八面体で産出する割合が多いです。
立方晶系に属する宝石は、立方体や正八面体の他に下図(c)に示したように四角形が24面で産出することもあります。この形はガーネットなどで見られます。

ある宝石がどの晶系に属するかが判明すると、多色性などの性質が判ります。多色性とは、石の方向を変えて観察すると、色が変わる現象のことです。
立方晶系の宝石は多色性という性質がありません。フローライトは立方晶系ですから、多色性がありません。
別な視点から、立方体や正八面体などの原石の多色性について、原石の方向を変えて観察しても色の変化はありません。
立方晶系以外の晶系(6晶系)の多色性について、いずれも多色性があります。ただし、光軸方向では多色性がありません。一般に光軸方向は結晶の伸長方向と一致しています。
例えば、ルビーの原石は六角柱状です。側面の柱に平行な方向が伸長方向で光軸です。ルビーは2色性を示す宝石です。
ルビーの原石を側面から観察すると、赤色と紫赤色(または黄赤色)の2色が見られます。光軸方向(六角形断面に直角方向)から観察すると、赤色のみが見られるだけです。

フローライトの原石の特徴

次に実際に産出したフローライトの原石を示します。右上の写真は紫色のバイオレット・フローライトです。立方体の形であることが判ります。
右下の写真はオレンジ色のオレンジ・フローライトの原石を示しています。立方体をした数個の結晶が見られます。
市販されている正八面体をしたフローライトの原石は、強い劈開を持つこの石の特性を利用して加工されたものが多いと推測されています。

原石の形(立方体や正八面体など)を残してアクセサリーに仕上げることもありますが、ステップ・カットを施すこともあります。ステップ・カットの場合、この石には強い劈開の性質がありますから、4隅に斜めのカットを行って、全体としては八角形になります。
ステップ・カットの他にフローライトに対してクッション・カットも施されます。このカットは大きな半径を持つ4つの曲線で構成されています。外からの強い衝撃を緩和するように工夫されたカット・スタイルです。

まとめ

フローライトは低硬度と強い劈開を持つ石ですから、基本的にはリング(指輪)の使用は避けた方が無難です。ペンダント・トップやイアリングなどでの使用が推奨されます。
フローライトの原石の形は立方体や正八面体です。シンプルな形ですが、多彩な色の原石をアクセサリーに仕上げる魅力も秘めています。フローライトは硬度と劈開というネガティブな特性を持ちますが、今後はもっと活用されて行くと思われます。

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