紅い宝石と言うものは、ルビーを筆頭にそれは大きな存在感を放ち、もはやレッドジェムと言えばルビーがまず思いつく、それくらい私たちにとっても馴染みの深い宝石です。しかし宝飾史の中でそのルビーと懐を分かち合うように区別されず、そして大変重宝されてきた宝石があるのをご存知でしょうか?

今回はルビーにも負けない激情の炎を思わせる色合いの宝石、スピネルについて解説していきたいと思います。

あなたは違いが分かる?ルビーとスピネルの違いについて

スピネル、この宝石はルビー以上に珍しく、なおかつルビー同等に人気の高い宝石としても知られています。しかしその色合いの類似性から、しばしルビーと間違われ、その発見自体も18世紀と非常に遅い悲劇の宝石でもあるのです。

ここではまずスピネルの特徴から、その意味と伝説を交えながら、ルビーとスピネルの切っても切れない逸話についてもご紹介していきたいと思います。

スピネルという宝石の特徴

私個人的にも非常にグッと心を惹かれる宝石がスピネルです。ダイヤモンドと同様の正八面体の結晶で産出するのが特徴で、棘を表わすSUPINAからそのネーミングが付けられました。

まるで色鮮やかな金平糖のようなざらつきのある表面、それは生まれたままの結晶だけでも絵になる非常に美しい宝石なのです。

スピネルはルビーやサファイアなどのコランダムと同様に非常に硬い硬度であることでも知られており、そのモース硬度は8!一方向に割れやすい劈開性も弱いため、ジュエリーにも加工しやすい宝石と言えるでしょう。

スピネルは動脈を流れる赤、まるでルビーのような色合いを呈しますが、実は色相豊かなカラースピネルが産出され、ブルー、パープル、グリーンにブラック、そしてカラーレスなど、含有する元素によってそのカラーは異なります。

スピネルはミャンマー、タンザニア、ベトナム、マダガスカル等で採掘されますが、基本的に産出量は多くなく希少石の一つとして認識されています。

黒太子のルビーとスピネル

スピネルは変成岩の中からコランダムの宝石と一緒に産出するため、ルビーまたはサファイアとの混同とは切っても切れない歴史を歩んできた宝石なのです。コランダムとスピネルが異種であると明確に認識されたのは1783年と遅く、コランダムとの類似性がゆえ、その存在が長い間埋もれてしまっていたのです。

特に有名な事例はイギリスのロイヤルコレクションを構成する非常に重要なクラウンジュエリー、「黒太子のルビー」です。それは立派な王冠に鎮座するスピネルは、勿論それが制作された14世紀にはスピネルと認知されることなく、怪物級の170カラットを誇るルビーであると信じられてきました。

このようなルビーとレッドスピネルの混同事例はあちらこちらで報告されており、それがそのままスピネルを語る上で欠かせない逸話として現代に伝わっているのです。

スピネルの伝承とその意味、石言葉

スピネルはペリドットに加え8月の誕生石として知られていますが、そのカラーヴァリエーションにより、それぞれが固有の誕生日石にも設定されています。(例えば10月25日はレッドスピネル、4月17日はグリーンスピネルなど)

なお興味深い伝承として前述の黒太子のルビーに使用されているスピネルは、百年戦争の際にヘンリー5世の兜に燦然と輝き、そして幾多もの命の危険から守った宝石として語り継がれてきました。

フランスやスペインなど周辺各国との血生臭い戦争ばかりに明け暮れていた当時のイギリスと共に歴史を刻んできた石が、黒太子のルビーであり、今では英国王室の守護神としてこのスピネルが大切に保管されています。

そんな事例を反映してかはわかりませんが、スピネルは古くから身を守るお守りとして身に着けられており、その石言葉は「安全」だそうです。

指輪にピアス、それともネッツクレス?スピネルジュエリーを楽しむ為の注意点

ルビーには知名度も人気も追いつきませんが、スピネルには根強いファンも少なくなく、中でも上質なラズベリーレッドのスピネルは非常に人気が高くなっています。

ここではそんなスピネルをもっと楽しもう!をテーマにスピネルジュエリーを選ぶ際の注意点やお手入れ方法に関して解説していきたいと思います。

合成スピネルも多く存在している!

スピネルはルビー以上に産出量が少ないため、市場にはベルヌイが開発したベルヌイ法による合成スピネルも多く混在しています。合成であっても化学的、物理的性質は天然のものと同様ですが、価値は天然物に劣ることは言うまでもありません。

特に青~緑系の合成スピネルが多く、最近ではハッとするような冴えたレッドの合成スピネルも出てきており、その鑑定は困難を極めます。人気が徐々に上がってきているスピネルなので、その購入の際には特にスピネル販売実績が多く、信頼がおける業者から購入することを強く推奨いたします。

色が濃すぎる場合は充填処理の可能性も?

スピネルはルビーやサファイアなどで行われるような加熱処理は行われていませんが、その色合いを強くするためのフラクチャー充填処理がごくまれに行われることもあるようです。

フラクチャー充填処理がされるとその色合いは向上しますが、デイリーユースによって充填部分が抜け、色が落ちてしまう事も考えられます。

その絶対数は多くないものの、そのような化学処理が施されたスピネルもあるため、合成スピネル同様に購入の際には細心の注意を払わなければなりません。

スピネルの手入れに関して

前述でも触れましたがスピネルはモース硬度も高く、その靭性、劈開性に関しても問題のない安定感があるので、特別なケアや意識するべきことはありません。
勿論激しい衝撃が生じやすい環境では外すべきですが、日常的に装着する分は通常のメガネ拭きなどで優しく拭く、またぬるま湯や石鹸水での洗浄から、超音波洗浄機の使用も可能なので、そのお手入れ方法に関してはあまり神経質にならずに済むのも嬉しいですね!

まとめ

スピネルはルビーと比べても若干深みのある、まるでラズベリー~ブラックベリーのような味わい深い赤が自慢の宝石です。しかし赤色を呈するレッドスピネル以外にも、オレンジ、パープル、ブラックなど様々な色合いを見せてくれるため、様々なカラーのスピネルを楽しめるのも見逃せません。

ルビーやサファイアなどの貴石と比べても、その流通価格も抑えられる傾向にあるので、その美しさと同様に割安感もおすすめできるポイントになってきます。

硬度も高く、なおかつ安定性にも優れているので、神経質にならずに着用できるフットワークの軽さも自慢なので、付けっぱなしでその美しさを堪能できるのも嬉しいですね!

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