スフェーンとペリドットの見分け方

外観がスフェーンに似ている石(類似石)としてペリドット、合成グリーン・キュービック・ジルコニア、グリーン・ジルコン、デマントイド・ガーネット、ツァボライトなどが挙げられます。
類似石の中で特にペリドットは市場にたくさん流通しており、スフェーンとの鑑別は日常的に遭遇することです。宝石に精通されている方にとっては、スフェーンとペリドットの識別は肉眼でもできます。さらに10倍のルーペを用いると確定できます。
スフェーンもペリドットも基本色は黄緑色です。黄緑色を中心にして市場では美しい緑色の石も見られます。スフェーンの外観的な特徴はキラキラ感や華やかさです。
他方、ペリドットはスフェーンと比較して華やかさはありませんが、落ち着いた緑色系の宝石です。
スフェーンのキラキラ感や華やかさの原因は、高分散や高複屈折量などによると考えられます。これらの特性についてスフェーンとペリドット、その他を比較すると、下表の通りです。

表の第1番目にスフェーンの分散、複屈折量の数値が示されています。分散は宝石業界でファイアと呼ばれています。分散の数値が高いほど、ファイアが強く現れます。
複屈折量は宝石を観察するとき、ダブリングとして現れます。ダブリングとはテーブルを通して裏側のファセット・ラインを観察したとき、ファセット・ラインが二重に見えることです。複屈折量の数値が大きいほど、ダブリングが明瞭に見えるようになります。

先ずスフェーンとペリドットの分散について、数値を比較すると、スフェーンの分散値はペリドットの数値の約2.6倍です。この数値の差異は、実際に現物(宝石)を観察したとき、スフェーンでは強いファイアを感じるが、ペリドットではほとんど感じないということになります。
スフェーンに見られるキラキラ感や華やかさはファイアが原因のひとつと考えられています。このファイアがスフェーンとペリドットを識別する場合のひとつの目安となります。

スフェーンとグリーンキュービック・ジルコニア

続いて各類似石の分散をながめると、グリーンCZはかなり高い数値を持っています。CZとはキュービック・ジルコニアのことです。無色透明のCZはダイヤモンドのイミテーション(模造石)として知られ、市場にたくさん出回っています。緑色のグリーンCZも早くから市場に流れていました。
このCZの分散値は表に示したように0.060と高く、強いファイアが見られます。このファイアがCZに美しさ、華やかさを与えています。グリーンCZは魅力的な石です。
スフェーンとグリーンCZは共に強いファイア示します。外観だけでは両石を識別しにくいことがあります。そこで、複屈折量に注目して表をながめると、スフェーンの複屈折量の数値は0.120です。一方、グリーンCZの複屈折量は0.000と表示されています。すなわちグリーンCZの複屈折量は存在しないのです。グリーンCZはひとつの屈折率しかありません。複屈折ではありません。ですから、複屈折量は存在しません。
複屈折量が無いということは、ダブリングも無いということになります。肉眼または10倍のルーペでスフェーンとグリーンCZを観察すると、前者では明瞭なダブリングが見られます。他方、グリーンCZではダブリングが見られません。ダブリングを観察することで、両者を容易に識別できます。

スフェーンとグリーンジルコン

表の第4番目にグリーン・ジルコンが挙げられています。この宝石も市場に流通しています。分散値は0.039です。強くはないですが、ファイアが見られます。
スフェーンとの識別は、ダブリングを観察することが有効です。複屈折量を見ると、その値は0.000です。ですから、ダブリングは観察されません。
ここで、宝石に興味を持って居られる方は疑問に思われるかもしれません。ジルコンはダブリングが見られる宝石として知られており、ダブリングが観察されないとはおかしい、と思われるかもしれません。
確かにジルコンはダブリングを持っていることが普通です。しかし、グリーン・ジルコンは例外です。グリーン・ジルコンは、ジルコン内部に含まれるウランやトリウムによって結晶構造が破壊され、地質学的な年代を経て、非結晶に変化してしまったのです。
スフェーンとグリーン・ジルコンのダブリングを観察することで、両者を識別することができます。
表の第5番目にデマントイド・ガーネットが挙げられています。この宝石の分散値を見ると、0.057でスフェーンよりも少し高いです。強いファイアを示します。
スフェーンとの識別は、複屈折量の違いに注目すると容易です。ガーネットは複屈折量を持たない宝石に分類されています。
インクルージョン(内包物、異物)について、特にロシア産のデマントイド・ガーネットには非常に特異的な「ホース・テール(馬の尻尾)」インクルージョンが見られます。
ですから、10倍のルーペを用いてこのインクルージョンの存在を確認することも鑑別に有効です。
表の第6番目にツァボライトが挙げられています。グリーン・ガーネットとして市場で人気がある宝石のひとつです。スフェーンとの識別は、複屈折量の有無、ダブリングの有無をチェックすることです。

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