レッド・スピネルとルビーを見分ける

スピネルの色は多様です。赤色やピンク色、青色、紫色、緑色、褐色、黒色などの色が産出します。ここでは最も人気がある赤色のレッド・スピネルに絞って話を進めます。
レッド・スピネルは外観がルビーに似ています。このために古くからレッド・スピネルはルビーとして扱われて来ました。確かにレッド・スピネルとルビーは同じ地域から産出します。
きれいに成長した原石において、レッド・スピネルとルビーの形は大きく異なります。ですから、比較的容易にレッド・スピネルとルビーを識別することができます。前者は正八面体の形で産出します。後者は六角柱で産出します。お互いにまったく違う形状で産出します。
美しい形をした原石も地質学的年代(数百万年~数千万年)を経ると、風雨にさらされ、流水に流されて原石の表面が削られ、元の形状が消失してしまいます。そして、ペブルの形になってしまいます。ペブルとは石コロという意味で、丸いコロコロした形状のことです。
ペブルは岩石と衝突しながら漂流し、表面は削られてスリガラス状(曇り状)になっています。ですから、形状からレッド・スピネルとルビーを鑑別(識別)することはできません。また、内部もはっきり観察できませんので、手掛かりが少ないと言えます。
ベブルの状態でレッド・スピネルとルビーを鑑別するには、比重を測定することがひとつの方法です。前者の比重は3.6です。後者の比重は4.0です。
比重の測定には、重さと容積を測定して比重を算出する比重測定器を利用します。また特殊な重液を利用することもあります。
比重を測定できない環境の場合、ペブルに強い光源のペンライトを当てて、透過して来る光の色を観察します。レッド・スピネルとルビーでは透過して来る光の色が異なります。ペブルの方向を変えて、色を観察します。前者では方向を変えても、色は変化しません。どの方向から観察しても、レッド・スピネルのボディ・カラー(本体の色)、赤色が見えるだけです。
後者では方向を変えて観察すると、二色が見られます。その二色は紫赤色と橙赤色です。この現象は二色性と呼ばれています。肉眼で二色性を観察しにくい場合は、小型で携帯できる「二色鏡」と呼ばれる器具を使うと簡単です。

右の写真は二色鏡の外観を示しています。この二色鏡をのぞくと、正方形の窓が二つ見えます。そしてこの二色鏡の前に宝石を接近させて、二つの窓の色を観察します。レッド・スピネルを観察すると、二つの窓の色は同じです。一方、ルビーを観察すると、二つの窓の色は異なります。ひとつの窓の色は紫赤色、もうひとつの窓の色は橙赤色に見えます。二色鏡を使うと、両者を比較的容易に識別できます。

レッド・スピネルとルビーがルース(裸石)の場合、または貴金属にセットされている場合、方向を変えて宝石の色の変化を観察します。肉眼で観察しても変化をとらえることはできます。10倍のルーペを使うとよりはっきりと変化をとらえられます。
レッド・スピネルは単屈折性の宝石ですから、方向を変えて観察しても色の変化はありません。ルビーは複屈折性の宝石ですから、方向を変えて観察すると、色の変化があります。紫赤色と橙赤色が見られます。
カットされた宝石に対しても「二色鏡」という小型器具を使うと、識別(鑑別)が容易になります。この器具を目に近付けて中をのぞくと、正方形の窓が二つ見えます。そして、二色鏡の前に宝石を置いて中をのぞきます。
レッド・スピネルを二色鏡で観察すると、二つの窓の色は変わりません。レッド・スピネルのボディの色(本体の色)が二つの窓に見られます。ルビーを二色鏡で観察すると、二つの窓の色が異なって見えます。ひとつの窓の色は紫赤色、もうひとつの窓の色は橙赤色が見られます。二色鏡を使用すると、比較的容易にレッド・スピネルとルビーを見分けられます

鑑別者を悩ませる合成レッド・スピネル

レッド・スピネルの鑑別において、最も頭を悩ませることは合成レッド・スピネルが市場に流通していることです。そして、天然レッド・スピネルと合成レッド・スピネルの特性が極めて酷似していることです。両者を識別することはなかなか困難です。
合成にはいくつかの方法があります。初期にはベルヌーイ法と呼ばれる方法でレッド・スピネルが造られていました。この方法で造られたレッド・スピネルは屈折率などにわずかな違いがあり、識別は比較的容易です。
しかし、最近ではフラックス法や引き上げ法でレッド・スピネルが製造されており、このスピネルの特性は天然レッド・スピネルに極めて似ています。ですから、一般的に使われる屈折率測定や比重測定で得られた数値では識別できません。
フラックス法や引き上げ法で造られたレッド・スピネルの鑑別は、専門の鑑別機関に依頼して詳細な解析を経ることが必要と思います。
最近の合成レッド・スピネルの鑑別は難しいのですが、10倍のルーペ観察で天然レッド・スピネルと判定できる手掛かりがときどきあります。その手掛かりはスピネルの中に見られる八面体のインクルージョンです。
この八面体の小さな結晶はスピネルです。ですから、レッド・スピネルの中にスピネルの結晶が存在していることになります。八面体の結晶が確認できれば、天然レッド・スピネルと判定できます。合成レッド・スピネルには八面体のインクルージョンは存在しません。
その他、レッド・スピネルの鑑別においてレッド・ガラスも候補に挙げられます。レッド・ガラスは古くから市場に出回っています。レッド・ガラスではしばしば泡(バブル)や脈理(スワール、水の中に蜂蜜を落としてかき混ぜるときに見られるモヤモヤ感)が観察されます。これらの存在はガラスの決定的な証拠です。

ルビーに匹敵する魅力を持つスピネルは今後大注目

レッド・スピネルは一般の人にはあまり知られてない宝石です。しかし、高い透明度を持つ赤色は魅力的です。徐々にレッド・スピネルの名前が知られて行くと思われます。
硬度は8です。ルビーの硬度は9です。レッド・スピネルの硬度はルビーよりワン・ランク下ですが、硬度8は耐久性において充分な数値です。日常の使用で安易にスリ傷が発生することはありません。

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