多色性

アイオライトの特徴のひとつに多色性が挙げられます。アイオライトは強い多色性を持つ宝石として知られています。
多くの宝石は多色性を示します。多色性には強弱があります。一般に3段階に分けられています。それは「強」と「明瞭」と「弱」です。
多色性は宝石の方向を変えて観察すると、色が変わって見える現象ですが、「明瞭」や
「弱」の宝石については慣れないと判りにくいです。「強」になると、多色性は判りやすくなります。下の表は多色性が「強」の宝石について、現れる色を示しています。

この表を見ますと、多色性の項目は二色性と三色性に分かれています。
宝石は種類によって二色が現れる場合と三色が現れる場合に分けられます。
表の第1番目にアイオライトが挙げられています。
宝石名 多色性
二色性 三色性
アイオライト 青色、紫青色、淡黄色
アンダリュサイト 赤色、緑色、黄色
ルビー 紫赤色、橙赤色
ブルー・サファイア 青色、緑青色

アイオライトは三色性を示す宝石です。その三色は青色と紫青色と淡黄色です。アイオライトを鑑別するとき、詳しく三色を探すことは少なく、側面(ガードル部側)から観察して淡黄色が見られたら、アイオライトと判断できます。
外観が青色または紫青色で側面から観察したとき、淡黄色が見られたら、アイオライトと判定できます。アイオライトは強烈な多色性を持つ宝石として知られています。
表の第2番目にアンダリュサイトが挙げられています。市場に余り流通していませんが、この宝石も強い三色性を示します。
表の第3番目と第4番目はよく知られている宝石です。これらは二色性に分類されています。ですから、方向を変えて観察すると、表に示すような二つの色相が見られます。

別名

アイオライトはいくつかの名前を持っている珍しい宝石です。アイオライト自身はギリシャ語で紫色を意味するアイオと石を意味するライトに由来しています。
宝石業界ではアイオライトと呼ばれていますが、鉱物の分野ではコーディエライトと呼ばれています。このコーディエライトは、アイオライトの光学的特性を詳しく研究したフランスの地質学者・コーディエ(1777年生~1861年没)に因んでいます。
さらにアイオライトはダイクロアイトと呼ばれることもあります。二つの色を持つ石という意味です。アイオライトは実際には三色性ですが、方向を変えて容易に見られる色は紫青色(または青紫色)と淡黄色の2色ですから、二つの色を持つ石と呼ばれたように思われます。
そしてアイオライトはウォーター・サファイアと呼ばれることもあります。外観がサファイアに似ていることに起因しています。サファイアの前に付いているウォーターの意味合いは、明確ではありません。薄い青色のアイオライトを意味しているかもしれません。あるいは河川で発見されるアイオライトを意味しているかもしれません。

固溶体

固溶体とは、2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一な固体になっているものです。アイオライトはコーディエライトとアイアン・コーディエライトが溶け合って均一な固体になっています。
宝石業界において、固溶体の例はペリドットが知られています。ペリドットはフォルステライトとファイアライトが溶け合って均質な固体になったものです。
類似の化学組成を持つもの同士は固溶体を形成しやすいです。ペリドットを形成しているフォルステライトとファイアライトの化学組成を見ると、下の表のようによく似ています。マグネシウム(Mg)と鉄(Fe)の違いだけです。

ペリドット
端成分 フォルステライト ファイアライト
化学組成 Mg2SiO4 Fe2SiO4

同じようにアイオライトの化学組成を見ると、下の表の通りです。同様にマグネシウムと鉄の違いだけです。

アイオライト
端成分 コーディエライト アイアン・コーディエライト
化学組成 Mg2Al4Si5O18 F22Al4Si5O18

固溶体の特性として二つの成分(それぞれ端成分と呼ばれている)が混じる割合で、光学的性質(屈折率など)や物理的性質(比重など)が変化します。
ペリドットの緑色は鉄(Fe)元素に原因しています。アイオライトの青色や紫青色も鉄元素に原因していると考えられます。同じ鉄元素でも本体の構造によって発色は異なります。アイオライトの発色には鉄元素以外にもチタン(Ti)やマンガン(Mn)が関与していると考えられています。

近似屈折率

アイオライトは紫色が優勢になると、外観がアメシストにも近くなります。鑑別機関で宝石を鑑別する場合、しばしば屈折計を使用して宝石の屈折率を測定します。屈折率の値は各宝石で固有です。ですから屈折率を測定することで宝石名が判ります。
そこで、アイオライトとアメシストを鑑別するためにアイオライトの屈折率を測ると、1.53~1.55の値が得られます。一方、アメシストでは1.54~1.55の数値が得られます。専門家の間では、アイオライトとアメシストは近似の屈折率を持っていることが知られています。屈折率で両石を判定する場合は要注意です。

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