パラサイト・ペリドット

パラサイト・ペリドット(Pallasitic peridot)とは、隕石の中に存在するペリドットのことです。パラサイトはドイツの博物学者、探検家のパラス(Pallas)に由来します。1772年、彼はロシア産の隕石中にペリドットを発見しました。
パラサイトという単語は多くの人に寄生虫という意味で知られています。この寄生虫という意味の単語のつづりは「parasite」です。ですから、ペリドットの前に付けられているパラサイト(Pallasite)と表現は同じですが、両者はまったく違う意味です。
隕石という単語は広く知られていますが、改めて隕石を定義すると、宇宙空間の固体物質が地球表面に落下したものです。隕石は大きく次の3種類に分けられます。石質隕石と鉄隕石と石鉄隕石です。宝石質のペリドットが見つかるのは石鉄隕石です。
隕石から得られるペリドットの原石を切断、研磨してルースに仕上げると、ほとんどは1カラット以下の小粒になります。しかし、小粒でも高い稀少性を有していますので、かなり高価です。
ここで、この地球外ペリドット(パラサイト・ペリドット)と地球産ペリドットを識別できるのか、という問題が浮かび上がります。両者とも外観の色は似ていて、識別はできません。しかし、微量成分を分析すると、両者は識別できることが報告されています。(文献:Gems & Gemology、Fall 2011)
文献によると、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)の含有率に大きな違いが見られます。例えば、ニッケルについて地球外ペリドットでは8.53~112ppm、地球産ペリドットでは1770~4070ppmという数値です。ppmとは百万分の1という意味です。両者に大きな差があります。
また、コバルトについて地球外ペリドットでは4.37~19.6ppm、地球産ペリドットでは84.8~147ppmという数値です。両者にかなりの差があります。
さらにインクルージョン(内包物、異物)に注目すると、地球産ペリドットには見られないインクルージョンが地球外ペリドットに見られます。(文献:Gems & Gemology、Spring 1992) 文献によると、地球外ペリドットでは十字に交差した針状のインクルージョンが見られると報告されています。
一般のユーザーには地球外と地球産のペリドットを識別できませんので、流通しているほとんどのパラサイト・ペリドット対して鑑別機関や研究機関の証明書が添付されています。

ダブリング

ペリドットの特徴のひとつにダブリングが挙げられます。ダブリングとは、ある宝石の正面のテーブルからバック・ファセットを観察したとき、ファセット・ラインが二重に見える現象のことです。
バック・ファセットとはテーブルの裏側、反対側のファセットという意味です。ファセット・ラインとはファセットとファセットが接する個所のライン(線)を意味します。
ダブリングの観察は鑑別に極めて有効です。ペリドットのダブリングは標準的な位置付けです。10倍のルーペでダブリングの観察を練習する場合、ペリドットが標準石として用いられます。
ダブリングが容易に観察できる宝石と観察が容易でない宝石があります。ダブリングの大小は宝石の複屈折量に依存しています。複屈折量とは、最大の屈折率から最小の屈折率を引いた数値をいいます。

ダイヤモンドやガーネットを除いて、ほとんどの宝石は屈折率を複数(二つまたは三つ)持っています。
宝石の種類によって、それぞれ複屈折量が異なります。いろいろな宝石や鉱物の複屈折量を示すと、右の表の通りです。複屈折量の数値が大きいほどダブリングがはっきり見えます。
カルサイト(方解石)は余りにも数値が大きく、新聞紙の上にカルサイトを置くと、文字が二重に見えます。カルサイトのダブリング現象は中学校や高等学校の教科書に紹介されています。
右の表の第2番目にスフェーンがあります。スフェーンは、最近、人気が出て来た宝石です。この数値ですと、肉眼や10倍のルーペで比較的容易にダブリングの存在を確認することができます。
第3番目のジルコンもダブリングを示す宝石として知られています。この数値であれば、容易にダブリングを検出することができます。

第4番目にペリドットがあります。10倍のルーペでダブリングを検出する練習にペリドットが使われます。ペリドットのダブリングを検出できるようになれば、この数値より大きい複屈折量を持つ宝石は容易にダブリングを検出できます。この数値より小さい複屈折量を持つ宝石に対しては、方向を変えて根気よく観察すれば、ダブリングを見つけることができます。

自色

ほとんどの宝石の色は不純物に原因しています。ルビーの赤色は本体のコラダム(無色透明)に微量のクロム元素が混入することで発色しています。ブルー・サファイアの青色は本体のコランダムに微量の鉄元素とチタン元素が混入することで発色しています。
ところが、ペリドットは不純物の混入とは関係なく、黄緑色に発色しています。ペリドットは自分自身の組成の中に鉄元素が含まれており、自分自身で発色している珍しい宝石です。このような宝石は「自色宝石」と呼ばれています。対比語として「他色宝石」があります。宝石のほとんどは他色に属しています。自色宝石はペリドットの他にターコイズ(トルコ石)が挙げられます。

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