チタン含有宝石

組成としてチタン元素を含有する宝石は比較的少ないです。チタン元素を含む宝石は、スフェーンの他にルチルやベニトアイトなど限られています。スフェーンはチタン元素を含むことから、特にチタナイトとも呼ばれています。
スフェーンに含まれるチタン元素によって、スフェーンの特有な性質、高分散や高複屈折量、高屈折率などが生じると推測されています。
スフェーンを手に取って見ると、キラキラ感や華やかさ持つ宝石という印象を受けます。組成として含まれるチタン元素が、スフェーンに特異な性質を生じさせています。

高分散と高複屈折量

スフェーンは強いファイアや強いダブリングを持つ宝石として知られています。ファイアは虹色効果のことで、本体(ボディ)に赤色や橙色、黄色、緑色などの色相が見られる現象をいいます。強いファイアはスフェーンの高分散に原因しています。
ダブリングは、テーブルを通して裏側のファセット・ラインを観察したとき、そのラインが二重に見える現象のことです。強いダブリングはスフェーンの高複屈折量に原因しています。

右の表は、スフェーンと外観が似ている緑色系の宝石や類似石について、分散と複屈折量の数値を示しています。
スフェーンの分散の数値は0.051です。この数値は宝石の中でも高い位置にあります。分散の数値の目安としてダイヤモンドが挙げられます。ダイヤモンドの分散値は0.044です。この程度の数値であれば、本体に虹色が見られます。

スフェーンの分散値はダイヤモンドよりも高いですから、高分散に属する宝石といえます。高分散ですから、本体に虹色が見られます。しかし、スフェーンの場合、本体のボディ・カラーによって虹色が減じてしまいます。
右上の表において、スフェーンに近い数値を持つ類似石や宝石としてグリーンCZやデマントイド・ガーネットが挙げられています。緑色のCZ(キュービック・ジルコニア)は魅力的な石です。デマントイド・ガーネットは宝石愛好家に人気がある宝石のひとつです。

高屈折率

高屈折率の定義は明確でないですが、通常の屈折計で測定できる上限の屈折率をひとつの目安とします。これを目安としますと、高屈折率は約1.80以上となります。

右の表は高屈折率を持つ宝石の屈折率とよく知られているいくつかの宝石の屈折率示しています。
スフェーンの屈折率は第3番目に位置し、1.915~2.050の数値です。この数値は高屈折率といえます。
第2番目のダイヤモンドは高屈折率を持つ宝石として知られています。さらにそのダイヤモンドを上回る屈折率を持つ宝石もあります。
例えば、表の1番目に挙げられているルチルです。屈折率の数値はダイヤモンドよりも高いです。

高屈折率は外観の「テリ」に影響を与えます。テリは宝石の表面の輝きです。高屈折率は宝石により輝きを与えます。スフェーンは宝石の中でも上位に位置する高屈折率を持っています。ですから、スフェーンは強いテリを持ち、輝き放つ宝石といえます。

低硬度

宝石の三条件のひとつに「硬度」があります。硬度は宝石の耐久性に直結しています。

世界の宝石業界で使われる硬度はモース硬度です。ドイツの鉱物学者モースが提唱した硬度を表す尺度です。
最も硬い硬度を10としてダイヤモンドを標準石にしました。最も軟らかい硬度を1としてタルク(滑石)を標準石にしました。
硬度の数値が大きいほどスリ傷などが発生しにくいです。宝石に必要な硬度の目安として硬度7以上が望ましいとされています。右の表はスフェーンを含めて主な宝石の硬度を示しています。
スフェーンの硬度は5.5です。クォーツの硬度7よりも小さい(低い)です。

ですから、他の宝石と比較してスフェーンはスリ傷などが発生しやすく、耐久性が充分と言えません。それゆえ、スフェーンはリングとして使うよりもペンダント・トップやイアリング、ピアスとして使うことが推奨されます。どうしてもリングとして使いたいユーザーに対して、宝飾品のデザイナーはスフェーンを衝撃から守るためのデザイン処理、工夫が必要です。

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