尖晶石

スピネルの日本名(和名)は尖晶石(せんしょうせき)です。尖(せん)は「とがっている」という意味です。晶は「結晶」という意味です。
スピネルという英語も「とがっている」という意味を持っています。ラテン語のスピナ(spina)やイタリア語のスピネッラ(spinella)が語源と言われています。語源自体も「棘(とげ)」や「とがっている」という意味を持っています。
スピネルはなぜこのような「とがっている」という意味を持つようになったのでしょうか。それはスピネルの原石を観察することで、うかがい知ることができます。
整った自然環境(条件)の下において、スピネルの原石は見事な正八面体で産出します。人工的に研磨したような幾何学的な美しい形状で産出します。正八面体とはすべての辺の長さが等しい状態をいいます。
ピラミッドを二つ、底辺で合わせたような形状です。正八面体には6ヵ所の尖端が存在します。そして平らな面が八面あります。平らな面は結晶の証しです。尖(とが)った結晶、ということで尖晶石と名付けられました。

黒太子のルビー

スピネルのことを解説したほとんどの宝石の書籍には、黒太子(こくたいし)のルビーについて記載されています。宝石に興味がある多くの人は、「黒太子のルビー」という言葉を目で見たり、耳で聞いているかもしれません。宝石業界においては、歴史的に世界的に有名な言葉です。
英国王室の王冠の中央に赤い大きな宝石がはめ込まれています。この赤い宝石は長くルビーと信じられて来ました。ところが、ある時にルビーではなく、レッド・スピネルであることが判明しました。衝撃的なニュースとして話題になり、有名となりました。
黒太子とは、14世紀後半に活躍したイギリスのエドワード皇太子のことです。この皇太子は戦場で黒い鎧(よろい)を着ていたことから「黒太子」と呼ばれていました。
エドワード皇太子は、スペインの王族から大粒のルビーを譲り受け、この宝石を戦場に帯同していました。その後、この宝石はルビーとして英国王室の王冠に使用されましたが、最終的にはレッド・スピネルと判定されました。

単屈折性

空気中を進んで来た光が宝石の表面に当たると、宝石の中に入りますが、このときに真っ直ぐ進むのではなく少し曲がります。光が宝石の中で曲がることを屈折といいます。
そして、光は宝石の中でひとつの方向に曲がって進む場合とふたつの方向に分かれて曲がって進む場合があります。前者は単屈折性の宝石と呼ばれています。後者は複屈折性の宝石と呼ばれています。すべての宝石は単屈折性と複屈折性の2種類に分類されます。
ある宝石が単屈折性か複屈折性かを知ることは、鑑別に有用な情報を得ることになります。単屈折性の宝石は方向を変えて観察しても、色の変化はありません。一方、複屈折性の宝石は方向を変えて観察すると、色が変化します。
レッド・スピネルは単屈折性の宝石です。一方、同じ赤色のルビーは複屈折性の宝石です。ですから、前者は方向を変えて色の変化を観察しても、変化は見られません。後者では色の変化が見られます。紫赤色と橙赤色が認められます。
宝石のことをより深く知ろうとする人にとって、単屈折性や複屈折性という現象を把握することは有用です。

トライゴン

レッド・スピネルはしばしば美しい正八面体の形状で産出します。まるで作為的に人工的に研磨されたような形です。この正八面体の表面を肉眼または10倍のルーペで観察すると、小さな三角形が見られることもあります。

この三角形はトライゴンと呼ばれています。右図は八面体の表面に見られるトライゴンを描画したものです。図中に見られる小さな三角形(トライゴン)は本体の三角形と逆向きになっています。三角形の頂点が逆向きです。
右下の写真はスピネル原石の表面に見られるトライゴンを顕微鏡(40倍)で観察したものです。(写真出所:GIA)
この写真では見事な三角形をしたトライゴンが多数見られます。トライゴンは窪み(凹み)で浸食された跡です。
正八面体の結晶が生成した後に周りの環境(溶融液、温度、圧力、時間)に影響され、浸食されたと推測されています。

バラエティ

バラエティとは、日本語で「変種」と呼ばれ、同じ組成でいろいろな色が見られることを言います。一般的に引き合いに出されるバラエティの例は、ルビーとサファイアです。両宝石の本体は「コランダム」と呼ばれる同じ組成で構成されています。コランダムの本体は無色透明です。この本体にクロムという元素が微量に入り込むと、赤色のルビーになります。微量の鉄とチタンが入り込むと、青色のブルー・サファイアに変化します。
スピネルも多様な色に変化します。最も人気が高い赤色のレッド・スピネル、そしてピンク色のピンク・スピネル、青色のブルー・スピネル、緑色のグリーン・スピネル、茶色のブラウン・スピネル、黒色のブラック・スピネルなど多様な色で産出します。
いろいろな色はお互いにバラエティ同士と呼ばれています。スピネルのバラエティの中で、コバルト元素によって発色した紫青色のコバルト・スピネルは希少性が高く、コレクター・ストーンとして人気があります。

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