ムーンストーンなどの独特の輝きはどこからくるのか

ムーンストーンやラブラドライト、サンストーン、アマゾナイトなどの本体は長石と呼ばれている鉱物で構成されています。特にムーンストーンやラブラドライトは他の宝石で見られない光の干渉による独特の光学的性質を示します。
ムーンストーンに見られる独特の光学的性質はアデュラレッセンス、ラブラドライトに見られる独特の光学的性質はラブラドレッセンスと呼ばれています。これらの特異な光学的性質は本体を構成する長石と深く関わっています。
長石は大地を構成する重要な鉱物です。長石は20種類ほどありますが、宝石に関係する長石は主に3種類です。その3種類は正長石(カリウム長石)と曹長石(ナトリウム長石)と灰長石(カルシウム長石)です。これらの長石は相互に混じり合って、いろいろな名称の鉱物をつくり出します。

右図は3種類の長石が混じり合う範囲と混じり合って生まれる各種の鉱物名を示しています。
正長石と曹長石が混じり合ってサニディンなどが形成されます。
ほとんどのムーンストーンはサニディンに属します。
サニディンの組成は正長石と曹長石が混じり合ったものを言いますが、正長石が優位です。

ムーンストーンの虹色はシャボン玉と同じ?!

正長石と曹長石の薄層が交互に積層したサニディンでは光の干渉が起こり、ムーンストーンとなります。この薄層の厚さは光の波長に近いです。
光の波長に近い薄層が接していると、光の干渉現象が起こります。光の干渉現象が起こると、薄層の厚さによって虹色効果が出てきます。干渉による虹色効果は、身近な例としてシャボン玉が挙げられます。シャボン玉は水の薄層と空気が接している状態です。
水の薄層の厚さが光の波長に近くなると、赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色などの7色が見られます。
ムーンストーンにおいて高温度ではサニディンの領域で正長石と曹長石が混じり合っています。しかし、温度の低下と共に両長石が分離し、薄層となって交互に積層します。
この薄層の厚さが光の波長に近くなると、光の干渉現象で虹色に発色します。しかし、少し厚いと白色、乳白色になります。ムーンストーンの中には淡い青色を示すものもあります。このブルー・ムーンストーンでは通常よりも薄層がわずかに薄いと推測されます。
薄層の成分は基本的に正長石と曹長石で構成されています。一方、アルカリ長石と曹長石で構成されているという報告もあります。アルカリ長石とは正長石と曹長石の混合体を言います。混合体は専門語で固溶体と呼ばれています。
薄層が接して光の干渉が起こるには、異種素材が接しているという条件も必要です。正長石と曹長石は組成が異なります。アルカリ長石と曹長石も組成が異なります。組成が異なることは屈折率が異なることを意味しています。屈折率が異なると、光が反射します。その結果、光の干渉現象が起こります。

ラブラドライトの閃光も光の干渉によるもの

ラブラドライトの特異な光学的性質もムーンストーンと同様に長石の薄層に原因していると考えられています。前述の三角図において、ラブラドライトは曹長石と灰長石中間辺りに鉱物として名を連ねています。
ムーンストーンの場合、ムーンストーンという鉱物が存在するわけでなく、特異な光学的効果を示す長石(正長石と曹長石の混合体)をムーンストーンと称しています。
一方、ラブラドライトは自身が鉱物名であり、特異な光学的効果を示す長石(曹長石と灰長石の混合体)でもあります。
ラブラドライトは曹長石と灰長石が高温度で溶け合い、低温に移る過程で分離して薄層を形成します。異なる組成の薄層が接していると、光の干渉現象が起こり、発色します。
ラブラドライトの薄層は曹長石と灰長石で構成されていますが、アンデシンという長石とカルシウムに富んだラブラドライト長石で構成されているという報告もあります。
ラブラドライトの特異な光学的性質は長石の薄層構造(薄層の互層、ラメラ構造)に原因していると考えられています。しかしラブラドライトの閃光は薄層だけでなく、インクルージョン(内包物、異物)が大きく影響していると推測されています。
薄層に平行に並んだインクルージョンで光が反射され、ある方向でキラリと光る閃光が発生すると考えられています。

長石が積み重なって生まれる独特の光

ムーンストーンは正長石と曹長石の混合体です。ラブラドライトは曹長石と灰長石の混合体です。両石とも主に2種類の長石で構成されていますが、厳密には3種類の混合体となっています。
前述の三角図において、外側の三角形の内側にも三角形が描かれています。この内側の三角形まで組成が広がります。例えば、ムーンストーンは主に正長石と曹長石の混合体ですが、部分的に灰長石も混入していることになります。
またラブラドライトは主に曹長石と灰長石の混合体ですが、部分的に正長石も混入していることになります。
三角図において、正長石と灰長石はほとんど混合体を形成しないことを意味しています。
例えば、正長石が50%、灰長石が50%の混合体は存在しないことを意味しています。
ですから、三角図の中に正長石と灰長石の系列の鉱物はありません。
ムーンストーンやラブラドライトの本体は長石です。さらに3種類の長石が極めて薄い層を形成していることが判明しています。長石の薄層によって光が干渉して、淡い柔らかな特異な光学的効果が生み出されています。

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