宝石としては珍しいチタンを含む石

スフェーンの組成に注目すると、宝石の中でも珍しい元素を含んでいます。それはチタン元素です。チタン元素で構成されている宝石は、スフェーンの他にベニトアイトやルチルが挙げられます。ベニトアイトは青色の希少石です。コレクター・ストーンとして知られています。ルチルは不透明で産出することが多く、宝石として使用されることはほとんどありません。合成ルチルはダイヤモンドのイミテーションとして使われた時期がありました。しかし、キュービック・ジルコニアの登場で合成ルチルは市場から消えてしまいました。
スフェーンは酸化カルシウム(CaO)と二酸化チタン(TiO2)と二酸化ケイ素(SiO2)で構成されています。スフェーンを構成しているチタン元素がスフェーンに特異な光学的特性(高複屈折量や高分散など)をもたらしていると推測されます。

キラキラ感や華やかさはどこからくるのか

スフェーンのルースや宝飾品を手にとって見ると、他の宝石では見られないキラキラ感や華やかさに気付きます。スフェーンが持つ特異な光学的特性や特異な外観について、三層特性図を参考にしながら掘り下げていきます。三層特性図は本質特性と固有特性と表面特性で構成されています。

本質特性での注目点は成分として二酸化チタン(TiO2)を含んでいることです。この二酸化チタンがスフェーンに特異な光学的特性をもたらしています。
固有特性の中に高複屈折量の項目があります。複屈折量とは最大屈折率と最小屈折率の差をいいます。この数値が高い(大きい)とよりダブリングが顕著に現れます。表面特性の強ダブリングの項目に該当します。

さらに固有特性の中に高分散の項目があります。この高分散は表面特性の強ファイアに結びついています。ファイアとは虹色効果のことです。スフェーンのファイアはダイヤモンドよりも強いです。しかし、スフェーンは黄緑色などの本体の色(ボディ・カラー)によってファイアが減じられます。
スフェーンに見られるキラキラ感や華やかさは、高複屈折量や高分散の特性によって生まれています。
固有特性の中に高屈折率の項目があります。スフェーンの屈折率はダイヤモンドよりも小さいですが、宝石の中ではかなり高い数値です。高屈折率は外観のテリ(輝き)に影響を及ぼします。スフェーンは強いテリを示します。
本質特性の中に不純物の項目があり、スフェーンは不純物として鉄(Fe)やクロム(Cr)を含みます。鉄やクロムの含有率によって黄緑色や黄色、緑色、褐色、灰色、黒色など多彩に変化します。

傷つきやすいスフェーンの硬度は?

再び固有特性に目を移すと、低硬度という項目があります。宝石の硬度は世界的にモース硬度で表示されます。モース硬度はドイツの鉱物学者・モースによって考案された硬度を表すひとつの指標です。
モース硬度の数値は1から10まであります。硬度1はタルク(滑石)が指標石で、硬度10はダイヤモンドが指標石です。
スフェーンの硬度は5~5.5と表示している文献が多いです。方向によって0.5の幅、変化があることを示しています。スフェーンの硬度は宝石の中でも低い位置にあります。モース硬度5の指標石は燐灰石(アパタイト)、モース硬度6の指標石は長石(フェルスパー)です。ですから、スフェーンの硬度は燐灰石と同等または長石を下回るほどということになります。
宝石業界において、宝石に必要な硬度は一般に7以上と考えられています。モース硬度7の指標石は石英(クォーツ)です。クォーツは身近な石として多くの人に知られています。六角柱状の透明なこの石に魅せられて、小学生や中学生、高校生が鉱物に興味を持つことも多いと言われています。
クォーツは長石(フェルスパー)と共に大地を構成する重要な鉱物です。クォーツの微粉はいたる所に存在し、装身具の宝飾と接する機会が多く、宝石の表面にスリ傷を生じさせる原因と考えられています。

特性を活かしたジュエリー加工

クォーツのモース硬度は7です。このクォーツが宝石にスリ傷を生じさせると推測されていますので、宝石の硬度は7以上が望ましいと言えます。
スフェーンの硬度は5~5.5です。硬度が7以下ですので、宝飾として身に付けていると、スリ傷が発生し易いと考えられます。
しかし、直ぐにスリ傷が発生するわけではなく、状況に大きく依存します。リングとペンダント・トップ(またはイアリング、ピアス)とでは宝石が受ける衝撃の程度は大幅に異なります。
リングとペンダント・トップの宝石が受ける衝撃の差について、具体的な数値は文献にありません。日常の使用状況を想像すると、リングの宝石は直接にものと接触したり、打撃が加わったりします。一方、ペンダント・トップの宝石はフリーに動く状態にあり、接触時の力や打撃を受ける力は極端に弱いと推測されます。
ですから、スフェーンを宝飾品として商品化する場合はペンダント・トップ(イアリング、ピアス)が望ましいと言えます。
ユーザーの要望でリングに仕立てる場合には、宝飾デザイナーはスフェーンの硬度を考慮して、貴金属でスフェーンを最大限に保護するように工夫する必要があります。
スフェーンは硬度が低いというネガティブな特性を持っています。しかし、チタン元素を有する珍しい宝石で、そのチタン元素によってキラキラ感や華やかさが生み出されている魅力ある宝石です。

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