童話『青い鳥』を読んだことのある方は多いでしょう。しあわせは探すものではなく身近にあるもの。というテーマは有名です。なかば教訓のようにも使われる物語ですが、「青い鳥」の本当のテーマは少し違ったようです。
また原作者であるメーテルリンクはどのような人物だったのでしょう。「青い鳥」の真のテーマとメーテルリンクについて調べてみました。

ノーベル文学賞も授与されているメーテルリンク

「青い鳥」で一躍有名になったモーリス・メーテルリンク。1862年、ベルギーのヘントという地で誕生します。フランス語を話す裕福なカトリック信者の家庭に生まれました。ヘント大学法学部に進学しますが、法律を学ぶかたわら、詩や短編小説を書いていたようです。
大学を卒業すると、グレゴワール・ル・ロワとパリにむかい、7ヶ月をすごします。パリ滞在中に当時流行していた象徴主義運動の活動家、詩人のヴィリエ・ド・リラダンやジャン・モレアスと知り合い、のちの人生に強く影響します。
1886年に「七詩聖」「若きベルギー」という文芸誌に詩を発表するようになり、1889年に「温室」という詩集を出版して文壇デビューを果たしました。同じ年に「マレーヌ姫」という戯曲を発表し、この作品が高く評価されたことで一躍有名になりました。
しかし、もっとも大きな成功はやはり「青い鳥」でしょう。1907年に出版されたこの作品の成功により、1911年にはノーベル文学賞も授与されています。
私生活では1895年から1918年まで歌手であり、ルパンの生みの親でもあるモーリス・ルブランの妹、ジョルジェット・ルブランと恋人関係にありました。しかし、1919年にルネ・ダオンと結婚します。
1932年にはベルギーの国王アルベール1世から伯爵位を授爵され、メーテルリンク伯となりました。
第二次世界大戦中はナチスを避け、リスボンに逃れ、そこからアメリカに渡っています。ナチスドイツを嫌ったメーテルリンクは、遺言にドイツとその同盟国であった日本には決して版権を渡さぬようにと書き記しています。
1949年にフランスのニースで86歳で亡くなりました。

神秘主義者としても有名だった

メーテルリンクは青い鳥での幻想的な作風というイメージがあるかもしれませんが、フランスで当時流行していた象徴主義にかなり影響されていました。象徴主義という運動は、主に文芸でさかんでしたが、芸術とは観念的、象徴的であるべき、という考え方です。その前にあった自然主義への反発だったとされていますが、象徴主義は現実的な自然主義とは違い、物事を忠実に描かず、理想社会を描く、という趣旨だったようです。
象徴主義の作家や芸術家には神秘主義者も多くいたようです。神秘主義とは霊的な世界を探求する人々のことですが、メーテルリンクは神秘主義者としても有名でした。イタコのように霊媒に霊をおろす、降霊会にもよく参加していたようです。そのメンバーの中には、シャーロックホームズの原作でも有名なコナン・ドイルもいました。
「青い鳥」での神秘的な描写は、霊的な探求からきているのでしょう。のちに死後の世界のことを書いた著作を多く残しています。

「青い鳥」の本当のテーマ

そのようなバックグラウンドのあった「青い鳥」ですが、ストーリーを覚えていますか?
『クリスマスの前夜、チルチルとミチルの兄妹が、手にすると幸福になれるという幸せの青い鳥を探しもとめ様々な国を旅しますが、捕まえようとすると死んでしまったり、捕まえたと思ったら色が変わったりして、捕まえることができませんでした。しかし、目をさますと、青い鳥は兄妹がもといた木こり小屋の鳥かごの中にいたのです。』
簡単にかいつまむと、このようなストーリーでした。このことから、しあわせは遠くにあるものではなく、自分の身の回りにあるものだ、というようなことがテーマだとされましたが、皆が知っている「青い鳥」は、メーテルリンクの奥さんが子供用に書き直した物語のようです。
メーテルリンクの原作の主題は「死と生命の意味」でした。実のところ原作では、最後、青い鳥によって病気の隣人はしあわせになりますが、そののち青い鳥は逃げてしまいます。そして、チルチルが読者に対して「青い鳥がいたら、つかまえて僕たちに返してくれませんか」と、呼びかけるところで物語は終わります。
このことは「青い鳥」が、身の回りにしあわせはあるのだ、という単純な教訓話ではなく、もっと深いことを示していることのあかしです。
「青い鳥をもとめて、旅したことは決して無駄ではなく、数々の経験を経たのちに、本当のしあわせの意味を知る。それこそが生きる意味ではないか」
また、最後に青い鳥が逃げてしまうことも象徴的です。
「しあわせとは、手にしたと思った途端に消えてしまうもの。捕まえたり、自分のものにしたりすることはできず、ただ、それをもとめて生きることがしあわせに至る道である」
このようなことをメーテルリンクは物語にこめたのではないでしょうか。

クリスマスに、本当のしあわせについて考えてみる

この物語がクリスマスの前夜からの一夜の物語であることも象徴的です。博愛を説いたキリストの降誕日と、隣人のしあわせのために青い鳥をもとめたチルチルとミチルが重なります。本当のしあわせとは、自分だけのものではなく、誰かをしあわせにすることでいっそう増すものなのかもしれません。
クリスマスの夜に、ひとり、自分の青い鳥について考えてみてはいかがでしょうか。来る素晴らしい新年にむけて、本当のしあわせを手にするため。「青い鳥」のスピリットを心に秘めて。
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