小石状の原石を宝石に変える職人の技

外観がタンザナイトやブルー・サファイアに似ていることから、アイオライトを買い求めるユーザーが少しずつ増える傾向にあります。
アイオライトはスリランカで古くから知られていた石でした。この石に正式に名前が付けられたのは1809年のことでした。ドイツの地質学者・ウェルナー(1749年生~1817年没)が「アイオライト」と命名しました。
アイオライトの産出国はスリランカやマダガスカル、インドなどです。これらの国々で産出するアイオライトの原石の形状は小石状の塊が多いです。

右の写真はアイオライトの原石の形状を示しています。地質学的な年代(数百万年~数千万年)を経て、幾何学的な原石が丸みを帯びた塊状に変化したものです。
宝石の研磨職人は、アイオライトの小石状の原石から最も価値が上がる色を引き出さなければなりません。

多色の方向性を見極める

アイオライトは強い多色性を持つ石として知られています。ある方向では紫青色を示し、ある方向では淡黄色(または無色に近い色)を示します。
このように方向を変えると、色が変わる現象は多色性と呼ばれています。アイオライトは多色性が強いので、原石の方向を定めないで、適当にカット(切断、研磨)すると、最良の色が得られないことになります。
多色性は二色性と三色性に分けられます。二色性は方向を変えると二色が見られます。三色性は方向変えると三色が見られます。二色性を示す宝石の例はルビーが挙げられます。紫赤色と橙赤色の二色が見られます。三色性を示す宝石の例はアイオライトが挙げられます。紫青色と淡黄色と青色が見られます。
三色性を示す宝石において、方向を変えて三色を探すことは容易でありません。ですから、通常、すぐに見られる二色のみで石を判定します。アイオライトの場合、三色性(紫青色、淡黄色、青色)ですが、比較的容易に観察できる二色、紫青色と淡黄色(または無色)を観察できれば、この石はアイオライトであると判定できます。

右の描画は理想的に成長したアイオライトの形状を示しています。アイオライトの最高の色は結晶の伸長方向に対して平行に見たときに得られる、と言われています。ですから、テ
ーブル面が伸長方向に対して直角になるようにカットされます。結晶が伸びている方向に平行に上からのぞくと、最高の色が見られます。

伸長方向に対して直角方向から見ると、淡黄色(または無色透明)に近い色が見られます。欧米の資料ではこの色をストロー・イエローと表現しています。麦わらの淡い黄色という意味です。この方向から見ると、淡い黄色ですから色としての魅力はありません。

石の個性を生かす様々なルース

市販されているアイオライトのルースの形状は様々です。ルースを上から見たときの形状はシェイプと呼ばれています。アイオライトのシェイプはいろいろ見られます。

右図はいろいろなシェイプを示しています。丸い形状のラウンド、楕円形状のオーバル、正方形のスクエア、長方形のレクタンギュラー、三角形のトリリアント、全体が丸みを帯びたクッションなどがあります。
クッションについて、角(4隅)は小さいR(曲率、半径)をつけます。辺(4辺)は大きなRをつけます。
ルースに仕上げるにはシェイプの他にどのようなファセット(平らな研磨面)または非ファセットの構成にするかを決めなければなりません。
ファセットまたは非ファセットの構成には基本となる三種類があります。ブリリアント・カットとステップ・カットとカボッション・カットです。
シェイプとファセット(または非ファセット)を組み合わせると、いろいろなカット・スタイルが考えられます。

例えばダイヤモンドについて、市販されているほとんどのダイヤモンドはラウンド・ブリリアント・カットです。ブリリアント・カットは高い屈折率を持つ透明な石の特性である輝きを最大限に引き出します。
アイオライトでは、例えばオーバル・ステップ・カットなどが見られます。アイオライトなどの色石に対しては、ステップ・カットが適用されます。ステップ・カットは色を最大限に活かすと評価されています。ステップ・カットとシェイプを組み合わせて、アイオライトのルースは市場でいろいろな形状が見られます。
アイオライトの生命線は色にあります。ですから、研磨工はより美しい紫青色や青色を引き出すために小石状の塊を丹念に調べてテーブル面の方向を決定します。同時にインクルージョン(内包物、異物)が目立たないように、そしてより大きな重さ(より大きなカラット)になるように努力します。

市販されているアイオライトのルースには特異な形状もあります。右の写真は細長いオーバルの形状をしています。ユーザーの好みはあると思われますが、区別化、存在感はあります。アイオライトは比較的安価な石ですから、原石を所有するオーナーや研磨工にとって、いろいろな形状に挑戦できる石と言えます。

アイオライトはまだ多くの人に知られてない宝石です。紫青色や青色の魅力ある宝石です。タンザナイトやブルー・サファイアと比較して手頃な価格で入手しやすい宝石です。今後、少しずつ広まって行くものと思われます。

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