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はじめに
「サファイア」と聞いて、あなたが思い浮かべるのはどんな色ですか? おそらく、吸い込まれるように深く、澄み切った「青色」ではないでしょうか。確かに、サファイアはその鮮烈な青色で世界中の人々を魅了し、宝石の代表格として君臨してきました。
しかし、もし「赤いサファイアもあるんですよ」と言われたらどうでしょう。そして、その赤いサファイアには「ルビー」という特別な名前が与えられているとしたら…? 実は、サファイアの世界は私たちが思うよりもずっとカラフルで、驚くべき秘密に満ちています。
この記事では、「サファイア=青」という常識を覆し、その色の多様性の謎に迫ります。なぜサファイアには様々な色があるのか、なぜ赤色だけがルビーと呼ばれるのか、その科学的な理由を分かりやすく解き明かします。さらに、サファイアの王道であるブルーサファイアの理想の色や、幻の宝石「パパラチア」の正体まで。宝石の色の世界の奥深さを、ぜひお楽しみください。
- サファイアが青以外にも多彩な色を持つ理由
- なぜ「赤いサファイア」が「ルビー」と呼ばれるのか、その科学的な背景
- ブルーサファイアの理想の色と、隠された色の秘密
- 特別な名前を持つ「パパラチア・サファイア」とは何か
サファイアは色の宝石箱!青だけではない多彩な世界
サファイアは青色のイメージが非常に強いですが、実際にはオレンジ、イエロー、グリーン、ピンク、バイオレットなど、赤色を除くほとんどすべての色が存在します。これらの青以外のサファイアは、総称して「ファンシーカラーサファイア」と呼ばれ、それぞれが独自の魅力を持っています。
そのため、国際的な宝石の命名ルールでは、色を明確にするために「色の名前+サファイア」と表記するのが正式です。例えば、青色なら「ブルー・サファイア」、黄色なら「イエロー・サファイア」となります。単に「サファイア」と言うと、どの色を指すのか厳密には特定できないのです(ただし、慣習的にブルーサファイアを指す場合が多いです)。
なぜ赤色だけが特別?「赤いサファイア」=ルビーの秘密
では、赤色のサファイアはどう呼ばれるのでしょうか。ルールに従えば「レッド・サファイア」となるところですが、赤色のものにだけは「ルビー」という特別な名前が与えられています。これは、サファイアとルビーが、鉱物学的に全く同じ「親」から生まれた兄弟のような存在だからです。
その親とは、「コランダム」という酸化アルミニウムから成る鉱物です。純粋なコランダムは無色透明ですが、その結晶が成長する過程で、ごく微量の不純物(元素)が混入することで、魔法のように様々な色に変化します。
- 無色のコランダム + 微量の鉄(Fe)とチタン(Ti) → 深い青色のブルーサファイア
- 無色のコランダム + 微量のクロム(Cr) → 鮮やかな赤色のルビー
右の虹色のスペクトル図を見てください。この中で、左端の「赤色」に発色したコランダムだけが「ルビー」と呼ばれ、それ以外の橙色から紫色までのすべての色は「サファイア」として分類されるのです。歴史的にルビーが非常に価値のある宝石として扱われてきたため、このような特別な区別がなされています。

サファイアとルビーは、どちらも「コランダム」という鉱物から生まれる。赤色のコランダムだけが「ルビー」と呼ばれ、それ以外の色はすべて「サファイア」となる。
サファイアの王道「ブルー」の魅力と隠された色
多彩な色を持つサファイアファミリーの中でも、やはり最も愛され、象徴的な存在なのがブルーサファイアです。その深く、気品のある青色は、他のどの宝石にも代えがたい魅力を持っています。
しかし、一つのブルーサファイアを注意深く観察すると、実は純粋な青色だけでできているわけではないことに気づきます。宝石を傾けて側面(ガードル部)からルーペで覗くと、しばしば緑色を帯びた青色(緑青色)や、黄色を帯びた青色(黄青色)が隠れているのを見つけることができます。これは「二色性」と呼ばれる、サファイアが持つ光学的な性質です。
熟練のカッターは、この二色性が宝石の正面(テーブル面)からは見えないように、原石をカットする角度を緻密に計算します。なぜなら、サファイアの価値は、いかに純粋で均一な青色に見えるかで大きく左右されるからです。
ブルーサファイアの理想の色は、しばしば「コーンフラワーブルー(矢車菊の青)」と表現されます。右の写真のような、わずかに紫がかった、柔らかで深みのあるベルベットのような青色です。
この色は、かつてインド北部のカシミール地方で産出されたサファイアの代名詞でしたが、現在ではほとんど採掘されていません。近年では、マダガスカルなどで産出されるサファイアの中に、このコーンフラワーブルーに匹敵する美しいものが見つかっています。

ブルーサファイアの理想の色は「コーンフラワーブルー」と称される。側面には緑や黄色が混ざった「二色性」が見られ、これが天然の証の一つでもある。
特別な名を持つサファイアたち
サファイアファミリーの中には、ブルーやルビーの他にも、特別な名前で呼ばれるスター選手がいます。
幻の宝石「パパラチア・サファイア」
近年、知名度と人気が急上昇しているのが「パパラチア・サファイア」です。「パパラチア」とは産地スリランカの言葉で「蓮の花」を意味し、その名の通り、ピンクとオレンジが奇跡的なバランスで混ざり合った、言葉では言い表せない美しい色合いをしています。産出量が極めて少なく希少なため、天然の美しいものは非常に高値で取引されます。市場には合成石も多く出回っているため注意が必要です。
光の筋が走る「スター・サファイア」
宝石の内部に含まれる針状のインクルージョンによって、光を当てると6条の光の筋(スター)が現れるサファイアもあります。これは「スター効果(アステリズム)」と呼ばれ、半透明で少し白みがかった石に見られる希少な現象です。透明感や色の鮮やかさとは別の次元で、その神秘的な現象自体に価値が見出されます。
まとめ
「サファイア=青」というイメージは、この宝石が持つ多彩な魅力のほんの一面に過ぎません。その正体は、コランダムという鉱物を親に持つ、色の宝石ファミリーです。赤色だけに「ルビー」という特別な名前が与えられ、ピンクとオレンジの狭間に「パパラチア」という奇跡が生まれる。そして、王道であるブルーサファイアでさえ、その内部には別の色を秘めているのです。宝石の色とは、単なる色彩ではなく、その石が地球の中でどのような奇跡的な出会いを経てきたかを示す、壮大な物語なのです。
- サファイアは多色:青が代表的だが、赤以外のほとんどの色が存在する。
- ルビーとの関係:サファイアとルビーは、どちらも「コランダム」という鉱物から生まれる。赤色だけがルビーと呼ばれる。
- ブルーの魅力:理想の色は「コーンフラワーブルー」。側面から見ると緑や黄色が混ざった「二色性」が観察できることがある。
- 特別なサファイア:ピンクとオレンジが混ざった「パパラチア」や、光の筋が現れる「スターサファイア」なども存在する。
