はじめに

宝石に興味がある人なら、「キャッツアイ」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。その名の通り、猫の瞳のようにミステリアスな一筋の光が浮かび上がるこの現象は、多くの人々を魅了してきました。しかし、「キャッツアイ」と一言で言っても、その種類や品質は様々です。

この記事では、数あるキャッツアイ・ストーンの中でも特に評価の高い「クリソベリル・キャッツアイ」に焦点を当てます。なぜクリソベリルが「キャッツアイの王様」と呼ばれるのか、その秘密から、他のキャッツアイ・ストーンとの違い、さらには究極の希少石「アレキサンドライト・キャッツアイ」まで、その奥深い世界を専門家の視点で詳しく解説します。

この記事で分かること
  • キャッツアイが生まれるための「2つの絶対条件」
  • なぜ「クリソベリル」がキャッツアイの王様と呼ばれるのか
  • 究極の希少石「アレキサンドライト・キャッツアイ」とは
  • クリソベリル以外の様々なキャッツアイ・ストーンの種類と特徴

キャッツアイの王様「クリソベリル」の魅力

キャッツアイ効果を示す宝石は、クォーツ、アパタイト、トルマリンなど数多く存在します。しかし、宝石業界で単に「キャッツアイ」と言えば、一般的に「クリソベリル・キャッツアイ」を指します。なぜなら、市場で最も高い評価を受け、その美しさが他の追随を許さないからです。

右の写真はクリソベリル・キャッツ・アイを示しています。(写真出所:GIA)
一本の白い細い光の線が現れています。本体の色は暗色味、黒色味を帯びていますが、光条ははっきり出現しています。
本体の色は蜂蜜の色が最高と評価されています。蜂蜜の黄色が最高と言われています。この他の色としては緑黄色、緑褐色、黄褐色、褐色などが産出します。

クリソベリル・キャッツアイの写真

クリソベリル自体が、ベリリウム(Be)元素を含む比較的希少な鉱物であり、その中でもキャッツアイ効果を示すものはさらに希少性が増します。その価値は、シャープな光条(こうじょう)と、独特の地色によって決まります。

キャッツアイが生まれるための「2つの絶対条件」

キャッツアイ効果が現れるには、宝石が2つの絶対条件を満たしている必要があります。

条件内容詳細
条件1:内部構造針状インクルージョンの存在細長く、直線的なインクルージョン(内包物)が、1方向に平行に、かつ高密度に分布していること。
条件2:カットカボッション・カットドーム状の山形にカットされていること。ファセットカットでは効果は現れない。
表1:キャッツアイ効果の出現条件

特に重要なのが、条件1のインクルージョンの「質」です。より細く、より密に分布しているほど、光条はシャープで明瞭になります。ムーンストーンに見られるようなぼんやりとした光とは異なり、キャッツアイでは切れ味の良い一条の光が高く評価されます。

この章のポイント
美しいキャッツアイには、質の良い「針状インクルージョン」と「カボッション・カット」が不可欠。

究極の希少石「アレキサンドライト・キャッツアイ」

クリソベリル・キャッツアイの中でも、さらに希少なものが存在します。それは、光源によって色が変わる「変色効果」を併せ持つものです。

クリソベリル・キャッツ・アイの中にはアレキサンドライトをあわせ持っている石もあります。希少中の希少です。右の写真はアレキサンドライト・キャッツ・アイを示しています。(写真出所:GIA)
右の写真の左側は太陽光(または蛍光灯)の下では緑色系に発色します。ペンライトの下では紫色系に発色します。

アレキサンドライト・キャッツアイの写真

この「キャッツアイ効果」と「変色効果(アレキサンドライト効果)」という、二つの特殊効果を同時に示す宝石は「アレキサンドライト・キャッツアイ」と呼ばれ、宝石コレクター垂涎の的となっています。その価値は、通常のクリソベリル・キャッツアイを遥かに凌ぎます。

クリソベリル以外のキャッツアイ・ストーンたち

クリソベリル以外にも、様々な宝石がキャッツアイ効果を示します。それぞれに個性的な魅力があります。

各キャッツ・アイ・ストーンの色について、クォーツ・キャッツ・アイは右上の写真のように黒灰色から灰色です。光条は少し幅が広くぼんやりしています。
右下の写真はアパタイト・キャッツ・アイです。本体の色は黄褐色です。光条はシャープですが、この石では下部で少し乱れています。アパタイト・キャッツ・アイの色はこの他に青色、緑色もあります。

クォーツ・キャッツアイの写真
アパタイト・キャッツアイの写真
  • クォーツ・キャッツアイ:灰色や黒灰色が多く、光条は比較的幅広く穏やか。
  • アパタイト・キャッツアイ:黄色や青、緑など多彩な色。光条はシャープなものも。
  • ネフライト・キャッツアイ:深みのある暗緑色が特徴。
  • トルマリン・キャッツアイ:ピンクや赤など、トルマリンならではの豊富なカラーバリエーション。
  • アクアマリン・キャッツアイ:淡い水色に、ぼんやりと優しい光条が浮かぶ。
  • タイガーアイ(虎目石):黄褐色と褐色の縞模様が特徴。光条は揺らめくように見える。

まとめ

キャッツアイ効果は、地球の奇跡ともいえる特殊な内部構造を持つ宝石にのみ現れる、稀有な現象です。その中でもクリソベリルは、シャープな光条と美しい地色で、まさに「王様」と呼ぶにふさわしい風格を備えています。しかし、他の宝石が示す個性的なキャッツアイもまた、それぞれに深い魅力があります。この知識を元に、ぜひあなただけのお気に入りの「猫の目」を見つけてみてください。

この記事のまとめ
  • キャッツアイの王様:一般的に「キャッツアイ」と言えば、最高品質の「クリソベリル・キャッツアイ」を指す。
  • 出現条件:「質の良い針状インクルージョン」と「カボッション・カット」の2つが必須。
  • 究極の希少石:変色効果を併せ持つ「アレキサンドライト・キャッツアイ」は別格の存在。
  • 多様性:クォーツやトルマリンなど、様々な宝石に個性的なキャッツアイが存在する。
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