「ジルコン」と聞いて、皆さんはどんな宝石を思い浮かべますか?
「キュービックジルコニアと似ている名前だし、人工石かな?」と思った方、それは大きな誤解です。実はジルコンは、古くから人々に愛されてきた“れっきとした天然石”。その輝きはまるでダイヤモンドのようで、色もブルーやカラーレスにとどまらず、赤褐色や緑、黄色、ピンクなど多彩です。
また、ジルコンには合成石が存在せず、すべてが天然。市場での流通量も豊富で、品質に優れたものはジュエリーにおいて主役級の存在感を放ちます。
この記事では、ジルコンの本当の姿と魅力を、豊富な色彩バリエーション、歴史的背景、人工石との違いなどの視点から、わかりやすく解説します。ジルコンの見方がきっと変わるはずです。
- ジルコンの代表的な色と輝きの特徴
- キュービックジルコニアとの違い
- 歴史的背景と加熱処理の秘密
- ジルコンが再注目される理由と今後の展望
ダイヤモンドのように輝く天然石
ダイヤモンドのような強い輝きを放つ青色のブルー・ジルコンは、根強い人気があります。また、カラーレス(無色透明)・ジルコンは、天然石であることから、天然石のみを取り扱う宝飾品メーカーのオーナーやデザイナーにとって、メイン・ストーン(中石)を引き立てるサイド・ストーン(脇石)として多用されています。
比較的低価格帯の商品を開発する場合、サイド・ストーンにダイヤモンドを採用することは価格面で難しいことです。そこで、カラーレスのジルコンやトパーズなどがダイヤモンドの代わりに検討されます。
ジルコンの合成石は流通していません。合成石とは、天然石と同じ成分を持ち、人の手によって造られたものをいいます。ジルコン自体は比較的簡単な成分ですから、実験室レベルでの合成は難しくないと推測されます。
市場に合成ジルコンが流通していない理由は、合成ジルコンを工場で生産してもビジネスとして成立しないからだと思われます。充分に市場に供給できる量の天然ジルコンが埋蔵されています。そして、主要な宝石(ダイヤモンド、ルビーなど)と比較して、より低価格で取り引きされていますので、合成石製造企業にとっては対象外の天然石といえるかもしれません。
ジルコンは、数ある宝石の中でも、古くから知られていた宝石のひとつです。1700年代にスリランカでカラーレス・ジルコンが発見され、当初、ダイヤモンドとしてヨーロッパに持ち込まれました。
しかし、徐々にダイヤモンドと異なる特性を持っていることが判り、ダイヤモンドのように輝くこの新しい石に対して、1783年、ジルコンという名前が与えられました。
ブルー・ジルコンは、ビクトリア時代(1837年~1901年)に人気があった宝石です。カラーレス・ジルコンは、1900年代初期にヨーロッパでダイヤモンドの代用宝石として広く使用されました。
項目 | ジルコン(カラーレス) | ダイヤモンド | トパーズ(カラーレス) |
---|---|---|---|
素材の種類 | 天然石 | 天然石(稀に合成も流通) | 天然石 |
輝きの特徴 | ダイヤモンドに近い強い輝き | 非常に強い輝き(高屈折率) | 比較的控えめな輝き |
価格帯(一般的) | 比較的安価 | 高価格帯 | ジルコンと同程度 |
主な使用シーン | サイドストーン、メイン石も可 | メインストーン中心 | サイドストーン |
合成石の有無 | 市場には出回っていない | 一部あり | 一部あり |
天然ジルコンは強い輝きと実用性を兼ね備える。
ブルー、カラーレスだけじゃない魅力的な色
ジルコンの色について、ブルー(青色)、カラーレス(無色)の他にいろいろな色が見られます。最も多く産出する色は赤褐色です。そして緑色、黄色、紫色なども産出します。
右の写真(写真:GIA)はいろいろな色のジルコンを示しています。左上から順に青色、無色、赤褐色、緑色、黄色、ピンク色です。
現在、宝石市場で最も多く流通しているジルコンの色はブルー(青色)です。ダイヤモンドのような輝きを持つ魅力的な宝石です。他のブルー系の宝石、例えばブルー・トパーズやアクアマリンでは見られないような輝きをブルー・ジルコンは放ちます。
著名な宝石学者のクンツ博士(アメリカ)は、かって「ジルコンは宝石市場でもっと広く使われるべき宝石である」と発言していました。確かにジルコンは多彩な色に富み、輝きがあり、価格は比較的安価であることから、広く普及しても不思議ではありません。
赤褐色など多彩なカラーバリエーションも魅力。
人工石のキュービック・ジルコニアとは、全く別物!
多くの消費者にこの天然産のジルコンが余り知られていない理由のひとつにキュービック・ジルコニア(以下、CZと表示)の登場が挙げられます。
今、世界の多くの女性はCZのことをどこかで聞いて知っていると思います。そして、CZは人工石(人の手によって造られた石)であり、天然石でないことも知っています。
このCZの登場によって天然産のジルコンは、少々、誤解、被害を受けています。ジルコンとキュービック・ジルコニアは互いに表現が似ています。
ですから、多くの消費者にキュービック・ジルコニアの別名がジルコンである、との誤解を招いています。ジルコンはキュービック・ジルコニアのことであり、人工石であるという誤解を生んでいます。天然産ジルコンは被害を受けている宝石です。
すべてのジルコンは天然産であり、人の手によって造られたものはありません。ですから、天然石のみを取り扱う宝飾品メーカーのオーナーやデザイナーは、ジルコンにもっと目を向ける時機かもしれません。
現在、ネット販売やカタログ通販に赤褐色のジルコン商品が見られます。最も産出量の多いジルコンの色は赤褐色です。
ダイヤモンドでは、数年前からブラウン・ダイヤモンドが盛んに広告宣伝されています。このような市場が形成されていますので、ジルコンのレディッシュ・ブラウン・カラー(赤褐色)も少しずつ市場が広がるかもしれません。
今、市場で見られるほとんどのブルー・ジルコンやカラーレス・ジルコンは、赤褐色のジルコンを加熱処理して得られたものです。赤褐色のジルコンを加熱処理すると、ブルー(青色)やカラーレス(無色)になることは古くから知られていました。
その加熱処理条件は、還元状態(酸素が不足している状態)の下で900度から1000度に1時間半~2時間保持して自然に冷やすと、青色や無色が得られます。
また、酸化状態(酸素が充分にある状態)の下で同様の加熱処理を行うと、黄金色や無色、時に赤色が得られます。
加熱処理の歩留(加熱処理前の赤褐色の石数と処理後に得られる良品の石数の割合)はかなり低く、50%以下と言われています。濁った青色や濁った無色が大半で、商品にならない不良品です。
色名 | 説明・特徴 | 市場での流通状況 |
---|---|---|
ブルー | ダイヤモンドのような輝き。加熱処理で得られる | 多く流通 |
カラーレス | 無色透明で上品な印象。サイドストーンに最適 | 多く流通 |
赤褐色 | 最も多く産出。加熱で青・無色に加工されることも | 多い(加工前が中心) |
緑色 | 稀少。やや落ち着いたトーン | やや少ない |
黄色 | 明るく温かみのある色 | やや少ない |
ピンク | 柔らかく愛らしい印象 | 非常に稀少 |
紫色 | 上品で個性的な印象 | 稀少 |
ジルコンは人工石とは成分も性質も異なる天然石。
ジルコンは歴史ある美しい天然石
ジルコンは12月の誕生石として、タンザナイトやトルコ石とともに名前を連ねています。ビクトリア時代(1800年代半ばから1900年代初頭)に流行したブルー・ジルコンが、再び復活するかどうか、注目されるところです。
現在、世界で流通しているジルコンの約80%はブルー・ジルコンです。アメリカ宝石業界のひとりのアナリスト(解析者)は、宝石市場でもっとジルコンが普及する可能性を指摘しています。
誕生石としての地位や市場評価も高まりつつある。
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まとめ
ジルコンは、その名前が「キュービックジルコニア」と似ているがゆえに、誤解されやすい宝石です。しかし、その正体は、ダイヤモンドに似た強い輝きを放つ、天然由来の魅力的な宝石。特にブルー・ジルコンはビクトリア時代から人気があり、現代でも約80%のジルコンがこの色で流通しています。
さらに、加熱処理によって多彩な色を持つ赤褐色ジルコンがブルーやカラーレスへと変化する特性や、すべてが天然産であるという点も、大きな魅力です。市場で見かけるジルコンの多くはこの処理を経たもので、製品としての完成度も高く評価されています。
今後、ジルコンの再評価が進むことで、手ごろな価格と高い美しさを兼ね備えた宝石として、より多くの人々に愛されていく可能性があります。
- ジルコンは天然石であり、人工石ではない
- ブルーやカラーレス以外にも豊富な色彩が存在
- キュービックジルコニアとはまったくの別物
- 歴史的にも人気があり、再注目されている宝石