宝石と聞いて「エメラルド」や「アクアマリン」を思い浮かべる方は多いでしょう。しかし、これらの美しい宝石たちが「ベリル」という共通の“素”から生まれていることをご存じですか?
本記事では、宝石のプロの視点から、ベリルとは何か、そしてその変種たち――エメラルド、アクアマリン、さらには希少なレッド・ベリルに至るまでを丁寧に解説します。鉱山ごとの特徴や、洗浄の注意点といった実用的な情報も取り上げています。

宝石をもっと深く知りたい方・天然と合成の違いに関心のある方に向けて、ベリル・グループの用語を読みやすくまとめました。ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

この記事で分かること
  • ベリルの基本的な特徴と組成
  • エメラルドやアクアマリンとの関係性
  • ベリルの代表的な産地とその特徴
  • 超音波洗浄の注意点と理由
  • サンタマリア・アクアマリンとその違い
  • レッド・ベリルの希少性と魅力

ベリル

宝石の中でベリリウム(Be)という元素を持っているものは非常に少ないです。宝石店等で見られるベリリウムを含む宝石は、二つしかありません。ひとつはクリソベリルです。もうひとつはここで採り上げているベリルです。
クリソベリルという名前は、少々聞きなれないかも知れませんが、アレキサンドライトやキャッツ・アイの本体を構成しているものです。本体のクリソベリルはベリリウムという元素を含んでいます。
ベリルはエメラルドやアクアマリン、モルガナイトなどの宝石の本体を形造っているものです。ベリルはベリリウムやアルミニウム、ケイ素、酸素で構成されています。
不純物を含まないベリルは無色透明です。このベリルに微量のクロム元素が不純物として混じると、緑色のエメラルドに変身します。微量の鉄元素が不純物として混じると、水色のアクアマリンに変身します。微量のマンガン元素が不純物として混じると、淡い紫色のモルガナイトに変身します。
ベリルはエメラルドやアクアマリン、モルガナイトなどの本体を構成する重要なものです。そのベリルはベリリウムという元素を含む特徴があります。

宝石名不純物元素色合い
エメラルドクロム(Cr)緑色
アクアマリン鉄(Fe)水色
モルガナイトマンガン(Mn)淡い紫色(ピンク)
ピュア・ベリルなし(不純物なし)無色透明
この章のポイント
エメラルドやアクアマリンのもととなる鉱物。

変種(バラエティ)

エメラルドもアクアマリンも色は異なりますが、本体は同じ組成(本体を構成しているいくつかの元素の割合)です。同じ組成はベリルと呼ばれています。
本体は同じで、含まれる不純物によって色が変わる現象は変種(バラエティ)と呼ばれています。そしてエメラルドとアクアマリンは変種同士と呼ばれています。
この他に変種はルビーやブルー・サファイアにも見られます。コランダムという本体にクロムが混じると、赤色のルビーになります。鉄とチタンが混じるとブルー・サファイアになります。

この章のポイント
色の違いは不純物による変種現象。

ムソー鉱山とチボール鉱山

ベリル・グループ・ストーンの代表的な宝石のひとつとしてエメラルドが挙げられます。このエメラルドの主要な産地は南米のコロンビアが知られています。世界のエメラルドの50%~60%は、コロンビアで採掘され、供給されています。
そのコロンビアの中でエメラルドを産出する鉱山としてムソー(Muzo)鉱山とチボール(Chivor)鉱山は、宝石業界の人に広く知られています。良質のエメラルドを産出する鉱山として有名です。

この章のポイント
エメラルドの主要産地はコロンビア。

超音波洗浄

めがね店の店頭でしばしば超音波洗浄機を見かけます。顧客へのサービスの一環として店頭に超音波洗浄機を設置しています。顧客自身が持っているめがねを自由に無料で洗浄できます。めがねに付着した汚れを簡単に除去してくれます。手軽さが受けて、広く普及しています。
右の写真は、卓上型の超音波洗浄機の外観写真です。価格は比較的安価です。
この超音波洗浄機にエメラルド入れて、洗浄することは危険です。要注意です。極上のエメラルドを除いて、多くのエメラルドはオイル処理が施されています。

オイル処理とは、エメラルドの小さな割れにオイル(セダーオイル、松ヤニ)を染み込ませ、その小さな割れを目立たなくする処理のことです。
エメラルドは他の宝石と比べてインクルージョン(内包物、小さな割れや異物など)が多いです。そのために古くからエメラルドに対して透明度を向上させる目的でオイル処理が施されてきました。このオイル処理は世界の宝石業界で容認されています。
エメラルドの表面に付着した汚れを落とすために、超音波洗浄機にエメラルドを入れると、エメラルドに施されていたオイル処理のオイルが取り除かれてしまいます。
すると、白い濁りが発生します。透明度が低下します。洗浄前の美しさが失われてしまいます。
失われた美しさを取り戻すために、再びオイル処理を施せば、元の美しさになります。しかし、元の状態に戻すにはかなりの技術が必要です。近くの知り合いの宝石店に持ち込めば元に戻る、というように簡単にことは運びません。
エメラルドの洗浄は、安全のために歯ブラシで軽くこする程度に留めたほうが無難です。超音波洗浄機は使用しないでください。

この章のポイント
エメラルドには超音波洗浄は禁物。

サンタマリア・アクアマリン

ベリル・グループ・ストーンの代表的な宝石は、エメラルドやアクアマリンです。このアクアマリンについて、アクアマリンの水色は一般に薄いです。
今、宝石業界ではブルー・トパーズが大量に流通しています。このブルー・トパーズとアクアマリンをどのようにして識別するのか、一般の顧客の人は迷ってしまいます。
ひとつの目安としてブルー・トパーズはアクアマリンよりもかなり色が濃い、ということが言えます。濃いブルーは、ブルー・トパーズであり、アクアマリンではない、という目安でほとんど当ります。
しかし、濃い色のアクアマリンもあります。それがサンタマリア・アクアマリンです。
ブラジルのミナス・ジェラス州サンタマリア鉱山で産出したことから、このように呼ばれています。
その後、濃い色のアクアマリンはアフリカのモザンビークでも発見されました。この石はサンタマリア・アフリカーナ・アクアマリンと呼ばれています。
現在、濃い色のアクアマリンは産地に関係なく、サンタマリア・アクアマリンと呼ばれています。マダガスカルやタンザニアなどでも濃い色のアクアマリンが産出します。

通常のアクアマリンと濃い色のサンタマリア・アクアマリンを比較してみると、右の写真の通りです。左側が通常のアクアマリン、右側がサンタマリア・アクアマリンです。

宝石名色の特徴備考
通常のアクアマリン薄い水色明るく淡いブルー
サンタマリア・アクアマリン濃い水色濃いが透明感のある青
ブルー・トパーズ非常に濃い青アクアマリンより明らかに濃い色
この章のポイント
濃く美しい青色を持つ希少なアクアマリン。

レッド・ベリル

ベリル・グループ・ストーンの代表的な宝石は、緑色のエメラルドや水色のアクアマリンです。ベリル・グループの中で異彩を放つ宝石がひとつあります。その宝石がレッド・ベリルです。右の写真(写真はGIA)はレッド・ベリルの一例です。赤色の極めて希な宝石です。世界の中で、アメリカのユタ州とニューメキシコ州しか産出しません。

1904年に鉱物学者・メイナード・ビックスビー(Maynard Bixby)によって発見されました。一時、この宝石はビックスバイト(Bixbite)と呼ばれていましたが、現在ではレッド・ベリルという表示に統一されています。
このレッド・ベリルは、宝石質の大きい原石が産出しません。一般的にカットされたこの宝石の大きさは、0.1カラットから0.2カラットほどです。しかし、小さくても希少性のために非常に高価です。
レッド・ベリルの赤色発色は、マンガン(Mn)とルビジウム(Rb)に原因していると推測されています。

この章のポイント
アメリカのみで産出する非常に希少な赤色宝石。

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まとめ

ベリルは、エメラルドやアクアマリン、モルガナイトなど多くの美しい宝石の「本体」となる鉱物です。不純物の種類によって色が変化し、それぞれが個性的な魅力を持った変種となって市場に流通しています。

コロンビアの鉱山や、濃いブルーが特徴のサンタマリア・アクアマリン、希少価値の高いレッド・ベリルなど、産地や色彩の違いを理解することで、宝石選びの楽しさもより深まるでしょう。

また、超音波洗浄の注意点に見られるように、取り扱いには細心の注意が必要です。本記事が、ベリルという鉱物の奥深さと、多彩な表情を持つその仲間たちを知る一助になれば幸いです。

この記事のまとめ
  • ベリルはエメラルドやアクアマリンの母体鉱物。
  • 色の違いは不純物による変種現象によるもの。
  • エメラルドの有名な産地はムソー鉱山とチボール鉱山。
  • 超音波洗浄はエメラルドには不向きで注意が必要。
  • サンタマリア・アクアマリンは濃い青が魅力。
  • レッド・ベリルは希少で高価、主にアメリカ産。
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