はじめに

アフリカの夜空を閉じ込めたような、深く美しい青紫色が魅力のタンザナイト。その神秘的な輝きは多くの人々を魅了してやみません。しかし、そのエレガントな見た目の裏には、知っておくべきいくつかの重要な性質が隠されています。

「見る角度によって色が変わるのはなぜ?」「指輪として使うのは避けた方がいいって本当?」そんな疑問を抱いたことはありませんか?タンザナイトは、その美しさだけでなく、宝石としての個性も非常に強い石なのです。

この記事では、タンザナイトが持つ4つの重要なキーワード「多色性」「劈開(へきかい)」「低硬度」「希少性」を軸に、その特性をプロの視点から徹底解説します。性質を正しく理解すれば、タンザナイトの本当の価値と、その美しさを末永く楽しむための秘訣が見えてくるはずです。

この記事で分かること
  • タンザナイトの色が青や紫に見える「多色性」の秘密
  • なぜ衝撃に弱い?「劈開」という知っておくべき性質
  • 他の宝石と比べたタンザナイトの硬さと傷つきやすさ
  • ダイヤモンドより希少と言われる理由

見る角度で色が変わる?タンザナイト最大の魅力「多色性」

タンザナイトを覗き込むと、鮮やかな青色の中に紫がチラチラと見えることに気づきます。そして、石を傾けて側面から見ると、今度は紫色が強く見えることがあります。このように、見る方向によって色が優勢に変わって見える現象を「多色性(たしょくせい)」と呼び、タンザナイトの最大の魅力となっています。

実は、市場に出回るタンザナイトのほぼすべては、その色を引き出すために加熱処理が施されています。原石の状態では「青色・紫色・茶色」の3色が見える「三色性」を持っていますが、宝石としては魅力的でない茶色を加熱によって取り除くことで、美しい「青色・紫色」の二色性を際立たせているのです。

多色性は鑑別のヒントにも
この性質は、見た目が似た他の宝石との鑑別にも役立ちます。例えばブルーサファイアは「青色と緑青色」の二色性を示すため、タンザナイトの「青色と紫色」の組み合わせとは異なり、プロはこれを見分けることで鑑別の手がかりとします。

この章のポイント
タンザナイトは、見る角度によって青や紫に見える「多色性」という特徴を持つ。これは加熱処理によって引き出された、石本来の性質である。

指輪は要注意?知っておきたい2つの弱点「劈開」と「低硬度」

タンザナイトはその美しさの一方で、非常にデリケートな性質を併せ持っています。特に注意すべきなのが「劈開」と「低硬度」という2つの弱点です。

1. 衝撃に弱い「劈開(へきかい)」

劈開とは、結晶がある特定の方向に、スパッと割れやすい性質のことです。タンザナイトはこの劈開が「顕著」な宝石に分類され、ダイヤモンドやサファイアに比べて衝撃に弱く、ぶつけたり落としたりすると欠けたり割れたりするリスクが高いと言えます。

2. スリ傷に弱い「低硬度」

宝石の傷つきにくさを示す指標にモース硬度があります。タンザナイトの硬度は6.5。これは、代表的な宝石と比べると低い数値です。空気中の塵にも含まれる石英(水晶)の硬度が7であるため、日常生活の中で知らないうちに細かいスリ傷がついてしまう可能性があります。

表1:代表的な宝石とのモース硬度比較
宝石名モース硬度傷つきやすさの目安
ダイヤモンド10最も硬い
ルビー、サファイア9非常に硬い
エメラルド7.5~8硬い
石英(水晶、アメシストなど)7一般的(空気中の塵の硬さ)
タンザナイト6.5やや軟らかい(石英より傷つきやすい)

取り扱いの結論
これらの性質から、タンザナイトは衝撃や摩擦の機会が多い指輪(リング)での日常使いにはあまり向いていません。もし指輪として使用する場合は、石の周りを地金でしっかりと囲むなど、衝撃から保護するデザインを選ぶことが非常に重要です。ペンダントやピアスであれば、比較的安心して楽しむことができます。

この章のポイント
タンザナイトは「衝撃で割れやすく(劈開)」「スリ傷がつきやすい(低硬度)」という弱点を持つため、取り扱いには注意が必要である。

ダイヤモンドより希少?世界で唯一の産地がもたらす価値

宝石の価値を決める三大要素は「美しさ・硬度(耐久性)・希少性」と言われます。タンザナイトは耐久性の面でやや劣りますが、それを補って余りあるのが「希少性」です。

ダイヤモンドが南アフリカ、ロシア、カナダなど世界中の複数の国で産出されるのに対し、タンザナイトの商業的な産地は、世界で唯一、アフリカ大陸のタンザニアにあるメレラニ鉱山のみです。地球上でごく限られた、特殊な地質学的条件下でしか生成されない奇跡の宝石なのです。

この「一つの国の一つの鉱山でしか採れない」という極めて高い希少性が、タンザナイトの価値と人気を支える大きな要因となっています。

この章のポイント
タンザナイトは世界で唯一、タンザニアの特定地域でしか産出しないため、産地の多様性という点ではダイヤモンドよりも希少性が高い宝石である。

まとめ

タンザナイトは、見る角度で表情を変える「多色性」という類まれな美しさと、タンザニアでしか採れないという「希少性」を併せ持つ、非常に魅力的な宝石です。その一方で、「劈開」と「低硬度」というデリケートな性質を持つため、その取り扱いには少しだけ注意が必要です。これらの特性を正しく理解し、デザインや用途を選ぶことで、タンザナイトの神秘的な輝きを末永く安全に楽しむことができるでしょう。

この記事のまとめ
  • 多色性:見る角度で青と紫の色合いが変化するのが最大の特徴。
  • 2つの弱点:衝撃で割れやすい「劈開」と、スリ傷がつきやすい「低硬度(6.5)」を持つデリケートな宝石。
  • 取り扱い:衝撃や摩擦の多い指輪よりも、ペンダントやピアスでの使用がおすすめ。
  • 希少性:産地が世界でタンザニア一ヶ所のみであり、極めて希少価値が高い。
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