合成ダイヤモンドは「本物」ではないのか

宝石専門店での会話です。「母から譲り受けたこのダイヤモンドは本物ですか?」と女性客が店長に尋ねています。ルーペを取り出し、観察した店長は「良質なダイヤモンドです。本物です」と応えました。
ここで、一度、「本物とは何か?」を深堀したいと思います。本物に対比する言葉として「偽物(にせもの)」があります。本物や偽物を確定、定義付けるには、一般的に「広辞苑」(岩波書店)を引用します。
広辞苑によると、「本物とは、その名に値する本当のもの」です。「偽物とは、似せてつくったもの」です。
宝石における本物及び偽物について、広辞苑では深堀できません。本物と偽物が話題になる世界として絵画、陶磁器などが挙げられます。しかし、宝石の世界は、絵画、陶磁器などの世界とも異なります。宝石は地球という大自然が造り出したものを対象にしています。宝石独自の本物、偽物を確定、定義する必要があります。
宝石における本物とは、人の手を介さないで、自然界で生まれた鉱物、岩石及び有機物をいう。このように定義付けられます。
今、ダイヤモンドを例に挙げると、合成ダイヤモンドが話題になっています。合成ダイヤモンドは、人の手を介して製造しています。ですから本物の定義から外れます。偽物になってしまいます。
ここで、ある人は言います。「合成ダイヤモンドを偽物とは言わないでしょう。天然とまったく同じ成分でできており、硬さも屈折率(輝き)も同じです。偽物ということ自体がおかしいでしょう」と反論されてしまいます。さあ、どうしますか?
確かに、合成ダイヤモンドを偽物扱いにするには、少々、酷な扱い、荒い扱いにも感じます。しかし、本物か偽物かの二者択一を迫られたら、偽物と判定せざるを得ないと考えます。本物とは、人の手を介さないで、大自然界で生まれたものを指します。ですから、合成ダイヤモンドは本物と言えません。
だからと言って、合成ダイヤモンドは偽物、と断定するには少しばかり違和感があります。合成ダイヤモンドは、二者択一(本物か、偽物か)で割り切れないものがあります。
やはり合成石という分類に入れることが相応しいと思われます。

装飾石の分類

現在、装飾用に使われる石は以下のように分類されています。(日本ジュエリー協会)

装飾石 天然石 →本物
人工石 合成石 →?
人造石 →偽物
模造石 →偽物

補注:天然→ナチュラル(Natural)、人工→アーティフイシャル(Artificial)、合成→シンセティック(Synthetic)、人造:マン・メイド(Man-made)、模造→イミテーション(Imitation)などの英語表示が使われています。

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