乳白色の柔らかな光を纏う石

ムーンストーンという名前は多くの人に知られています。柔らかい乳白色の本体の中に、一筋の幅広い淡い白色線が浮かび出る独特の外観を示す石です。淡い白色線は方向によっては見えないこともあります。そして本体の色は時に青白いこともあります。

右の写真は普通に見られるムーンストーンを示しています。
ムーンストーンは優しく柔らかな雰囲気を持ち、手頃な価格で入手できることから人気がある石のひとつです。日本名(和名)は月長石(げつちょうせき、げっちょうせき)と呼ばれています。

多くのムーンストーンの色は乳白色です。そして淡い白色線が見られます。時に本体の色が淡い青色のブルー・ムーンストーンも見られます。ムーンストーンの独特な外観は他の宝石では見られません。
ですから、ムーンストーンは他の宝石にない特別な構造を持っていると予想されます。手掛かりは日本名の月長石にあります。ムーンストーンは「長石」という鉱物でできていることを意味しています。

ムーンストーンだけではない光沢をもつ「長石」

鉱物愛好家にとって、長石という用語は聞き慣れているかもしれません。しかし宝石を身につけて楽しんでいる多くの人にとって、長石という用語はほとんど耳にしたことがないと思われます。
ムーンストーンの他にラブラドライト、サンストーン、アマゾナイトなどを少し深堀すると、直ぐに長石という用語が出てきます。ムーンストーンやラブラドライトなどは長石と深く関わっていることが推測できます。
長石は身近に多く存在しています。大地(地殻、地表から約35kmまでの固体層)の約60%は長石で構成されています。ですから、大地を歩くといつも長石を踏んでいる確率が高いといえます。身近で見られる長石の外観は白色、灰色、褐色などです。長石の中の美しい色がムーンストーンなどの宝石となります。
ウェブサイトでの宝石の表示はほとんどカタカナです。しかし、長石については漢字の長石が多く見られます。長石は英語でフェルスパー(feldspar)と表示されます。
英語のフェルスパーは「野原に転がっている光沢のある石」といった意味です。確かにフェルスパー(長石)は大地に広く分布している石です。特定の面で割れ易く、光沢面を示す石です。英語のフェルスパーに対して、明治期の鉱物学者が長石の漢字を充てました。

組成で分類できる長石の種類

長石は種類が多く、カリウムを含む長石、ナトリウムを含む長石、カルシウムを含む長石、バリウムを含む長石、ストロンチウムを含む長石、ルビジウムを含む長石などが長石グループを形成しています。
宝石に関係する長石は主に3種類です。カリウムを含む長石(以後、正長石と表示)(その他にカリ長石、カリウム長石とも表示、英語ではオーソクレース、orthoclase)、そしてナトリウムを含む長石(以後、曹長石と表示)(その他にナトリウム長石、ソーダ長石とも表示、英語ではアルバイト、albite)、さらにカルシウムを含む長石(以後、灰長石と表示)(その他にカルシウム長石とも表示、英語ではアノーサイト、anorthite)の3種類です。
これらの3種類の長石、正長石(せいちょうせき)と曹長石(そうちょうせき)と灰長石(かいちょうせき)はお互いに混じり合って混合体(固溶体)を形成します。ただし、正長石と灰長石は混じり合いません。
3種類の長石が混じり合って、次のような2つの系列の新たな長石類を形成します。正長石と曹長石が混じり合ってアルカリ長石類、曹長石と灰長石が混じり合って斜長石類(しゃちょうせきるい)を形成します。

長石 アルカリ長石類 この長石の中でムーンストーン、アマゾナイトが生成します。
斜長石類 この長石の中でラブラドライト、サンストーンが生成します。

薄層により生み出される長石の色

ムーンストーンの独特な淡い白っぽい色はなぜ生まれるのでしょうか? それは正長石と曹長石が交互に薄い層を形成しているからです。その薄層が極めて薄く、光の波長に近いとき、光が干渉して淡い白っぽい干渉色を発します。ムーンストーンの積層は正長石と曹長石でなく、アルカリ長石と曹長石という文献もあります。

ラブラドライトの本体も長石です。美しい青色や緑青色も曹長石と灰長石の積層による干渉色と思われます。しかし、ある方向で一瞬にきらめく閃光現象は平板状の金属片が深く関わっていると推測されています。右上段の写真はラブラドライトです。(写真出所:indiaMART)サンストーンやアマゾナイトの本体も長石です。
右中段の写真はサンストーンです。右下段の写真はアマゾナイトです。
サンストーンは曹長石と灰長石の混合体(斜長石類)の中に金属銅や赤鉄鉱や針鉄鉱の結晶が無数に分布すると赤色をを示します。
アマゾナイトは正長石と曹長石の混合体(アルカリ長石類)です。緑色の発色は鉛(Pb)と水分の結合体が原因と推測されています。

ムーンストーンやラブラドライトなどの本体は長石で構成されています。そして宝石に関係する長石は、正長石と曹長石と灰長石の3種類です。これらの3種類の長石は、2種類同士が相互に混じり合って混合体(固溶体)をつくります。高温の溶融状態から低温に下がるとき、2種類の長石が薄層となって積層し、この薄層で光が干渉して、他の宝石では見られない独特の色と雰囲気(外観)を生み出しています。

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