はじめに
爽やかなオリーブグリーンの輝きで、古くから人々に愛されてきたペリドット。その色合いは「イブニング・エメラルド」という異名を持つほど、時に最高級の緑色の宝石エメラルドにもたとえられます。しかし、なぜペリドットの色はサファイアやトルマリンのように多彩なバリエーションを持たず、一貫して緑色系の色合いを保っているのでしょうか?
その答えは、ペリドットが「自色宝石」という特別な性質を持つことに隠されています。この記事では、宝石の色が決まる根本的な仕組みを解き明かしながら、ペリドットの色の秘密に迫ります。
オリーブの実や和名の「カンラン石」との深い関係、そして古代エジプトの女王クレオパトラとエメラルド、ペリドットをめぐる歴史ミステリーまで、色という切り口からペリドットの魅力を徹底的に掘り下げます。
- ペリドットの色がオリーブにたとえられる理由
- なぜペリドットは色のバリエーションが少ないのか(自色宝石と他色宝石)
- ペリドットの鉱物名「オリビン」や和名「カンラン石」の由来
- クレオパトラが愛したエメラルドとペリドットにまつわる歴史の謎
オリーブから生まれた宝石 – ペリドットの色の由来
ペリドットの色を表現する際、最もよく使われるのが「オリーブグリーン」という言葉です。その名の通り、ペリドットの黄緑色は熟す前のオリーブの実にそっくりです。この色の類似性は、ペリドットにまつわる様々な名前に深く関わっています。
- 鉱物名「オリビン」:宝石名が「ペリドット」であるのに対し、鉱物学的な名前は「オリビン(Olivine)」です。これは、まさに「オリーブ」に由来する言葉です。
- 和名「カンラン石」:ペリドットの和名は「カンラン(橄欖)石」ですが、この「カンラン」とはオリーブの和名です。ペリドットの色がオリーブに似ていることから、この名前が付けられました。
ペリドットの色合いは、黄色みがかった明るいグリーンから、深く濃いグリーンまで幅がありますが、市場ではより緑色が強く、鮮やかなものほど価値が高いと評価される傾向にあります。

ペリドットの色はオリーブの実にたとえられ、それが鉱物名「オリビン」や和名「カンラン石」の由来となっている。緑色が濃いものほど高評価。
なぜ色は変わらない?「自色宝石」ペリドットの秘密
サファイアには青、黄、ピンクなど多彩な色があり、トルマリンに至っては虹のすべての色が見つかると言われています。なぜこれらの宝石は色が変化するのに、ペリドットは一貫して緑色系なのでしょうか。その理由は、宝石の色が決まる根本的な仕組みの違いにあります。
- 他色宝石(たしょくほうせき):サファイアやトルマリン、エメラルドなど、ほとんどの宝石がこれに属します。本体の鉱物は無色透明で、そこに微量の「不純物」(クロム、鉄など)が混入することで、様々な色に発色します。混入する不純物の種類や量によって色が変わるため、カラーバリエーションが豊富になります。
- 自色宝石(じしょくほうせき):ペリドットはこちらに属します。色の原因となる「鉄(Fe)」が不純物ではなく、自分自身の体を構成する必須成分として含まれています。そのため、外部から入る不純物の影響を受けにくく、鉄がもたらす緑色系の色合いから大きく逸脱することがないのです。
ペリドットは、生まれながらにして美しい緑色をその身に宿す、特別な宝石なのです。この「自色」という性質こそが、ペリドットの色の安定性の秘密です。
ほとんどの宝石は不純物で色づく「他色宝石」だが、ペリドットは必須成分の鉄で色づく「自色宝石」。そのため色のバリエーションが少ない。
クレオパトラが愛したのはエメラルド?それとも…
古代エジプト最後の女王、クレオパトラ。彼女がエメラルドをこよなく愛したという話は有名です。しかし、一部の宝石学者の間では、彼女のコレクションの中には、実は高品質なペリドットが「エメラルド」として含まれていたのではないか、という説が長年ささやかれています。
その根拠として、当時から現在に至るまで、エジプトに近い紅海のセント・ジョンズ島で、エメラルドと見紛うほど美しい緑色の上質なペリドットが産出することが挙げられます。古代の鑑別技術では、この2つの緑色の宝石を正確に区別することは困難だったでしょう。地理的な近さと外観の類似性から、クレオパトラが愛した宝石の中にペリドットが混じっていた可能性は非常に高いと考えられています。
この歴史ミステリーは、ペリドットが時に最高級の宝石エメラルドに匹敵するほどの美しさを持つことの、何よりの証拠と言えるかもしれません。現代においても、私たちの目の前にある緑色の輝きが、実はペリドットである可能性は十分にありえるのです。
クレオパトラが愛したエメラルドには、実は高品質なペリドットが含まれていた可能性が高い。これはペリドットの美しさを示す歴史的な逸話。
まとめ
ペリドットの魅力は、その一貫したオリーブグリーンにあります。その色はオリーブの実にたとえられ、鉱物名や和名の由来ともなりました。そして、多くの宝石と一線を画す最大の特徴は、不純物ではなく自らの必須成分である鉄によって色づく「自色宝石」であること。この性質が、ペリドットに安定した美しさをもたらしています。その輝きは、時にエメラルドと見間違えられるほどであり、古代の女王クレオパトラをめぐる歴史ミステリーを生むほどでした。手頃な価格でありながら、その背景には豊かな物語と科学的な裏付けが隠されています。ペリドットを選ぶことは、そんな深く、変わらない魅力を持つ宝石を手に入れることなのです。
- ペリドットの色はオリーブにたとえられ、鉱物名「オリビン」、和名「カンラン石」の由来となった。
- 色のバリエーションが少ないのは、自身の必須成分「鉄」で発色する「自色宝石」だから。
- ほとんどの宝石は、不純物で色が変わる「他色宝石」である。
- 高品質なペリドットはエメラルドと酷似し、クレオパトラも愛した可能性がある。
