生物起源のサンゴは人に作ることはできない

サンゴ(珊瑚)は生物起源の宝石です。海底から採取される海の宝石です。そのサンゴは「サンゴ虫」が造り出します。サンゴ虫は英語でコーラル・ポリプ(Coral polyp)と呼ばれ、海に生息する小さな生物です。
サンゴは生物起源の宝石ですから、細部を観察すると、人為的に真似ることができない組織や構造をしています。この組織や構造の特徴をつかむことが鑑別に役立ちます。
一般にサンゴは4種類に分けられます。赤(赤色)サンゴと桃(桃色)サンゴ、白(白色)サンゴ、黒(黒色)サンゴです。さらに赤サンゴは血赤サンゴ、赤サンゴ、紅(紅色)サンゴに細分されます。
本物のサンゴに対して、プラスチックまたはガラスで造られた模造品が市場にたくさん出回っています。これらの素材を使って、赤色やピンク色などに着色して赤サンゴや桃サンゴなどに似せています。

ルーペで見れば一目瞭然

サンゴ模造品(プラスチック製やガラス製など)は一見するとサンゴに似ています。しかし、ルーペ(10倍)で細部を観察すると、生物起源の精緻な特徴は見られません。

本物のサンゴには、生物でしか造れない精緻な特徴が見られます。右上図には、赤色をベースに縦に平行な白い細い線が描かれています。この模式図のようにほぼすべての本物のサンゴには「白色平行線」が見られます。
この白色平行線をルーペで観察しても、直ぐに探し出すことは難しいです。ルースに仕上げられたサンゴ(例えば、オーバル・カボッション・カット)を前後左右に少しだけ傾けて、探し出す工夫が要ります。
白色平行線は明瞭に浮き出ているわけではありません。赤色の中に埋没して存在している感じです。
右上図に描かれているように長軸方向に平行に存在しています。
白色平行線の色は真っ白ではありません。赤色ベースの中では赤色味を帯びた白色という感じです。赤色ベースの中に埋没しいるので、採光を工夫しながら、探し出す必要があります。
白色平行線と共に本物のサンゴでは、右下図に示したような年輪模様も見られます。年輪模様の色は白色平行線と同じです。模式図に描かれている典型的な年輪の他に、年輪の一部が部分的に見られることも多いです。

本物のサンゴには、白色平行線や年輪模様の他に比較的大きな不定形の白い個所(フと呼ばれている個所)が存在することも多いです。余りに目立つ「フ」は加工のとき、このフが裏側になるように処理されます。
ガラスで造られた模造品の中には、均質な赤色でなく、わざわざ白いフを部分的に付け加えたものもあります。赤色ガラスと白色ガラスを柔らかい状態で溶着させた手の込んだものもあります。しかし、どんなに真似ても赤色ガラス製模造品の中に白色平行線を造り込むことはほぼ不可能です。ですから、赤色ガラスの偽物と本物のサンゴを識別するには、白色平行線の存在を確認することで可能です。
赤サンゴも桃サンゴも白サンゴも白色平行線の存在が識別の決め手です。白サンゴに見られる白色平行線の色は、本体の白色よりもさらに白色ですから検知はできます。

平行線や年輪のない黒サンゴであっても鑑別は比較的容易

ここで、黒サンゴの鑑別について話を進めます。黒サンゴは赤サンゴなどの他の色のサンゴと特徴がかなり異なります。赤サンゴなどの本体は無機物の炭酸カルシウム(カルサイト)で構成されています。しかし、黒サンゴの本体は有機物のタンパク質(コラーゲン)で構成されています。化学成分の違いや成長過程の違いから、黒サンゴには白色平行線や年輪模様が見られません。

黒サンゴでは右図に示したような茶色の筋(図中の下側)や粒々の点(図中の上側)が見られます。
黒サンゴを真似た模造品が市場にたくさん出回っています。プラスチック製やガラス製です。プラスチック製模造品は金型で大量に生産されます。生産時点でピン孔(ドリル孔)が造られます。このピン孔の周囲をルーペで観察すると、わずかな窪みやプラスチック素材を注入した小径の痕跡が見られます。

プラスチック製模造品の表面を観察しても、茶色の筋や粒々などはなく、全体が均質です。多少、スリ傷が見られる程度です。ガラス製模造品についても茶色の筋や粒々は見られません。
偽物(模造品)と本物を見分ける場合、手に持ったときの重さを比較して区別することもあります。プラスチック製模造品は相対的に軽いです。プラスチックの比重は一般的に0.91~0.96です。赤サンゴなどの比重は2.68、黒サンゴの比重は1.36です。
ガラス製模造品の比重は2.5~2.6ですから、赤サンゴなどとの区別は難しいです。黒サンゴとガラス製模造品の区別は、手に持ったときの重さの感覚で判ります。
赤色やピンク色、黒色に染色された処理サンゴの看破は難しいです。鑑別機関が保有している専門の分析機器(赤外分光光度計など)を利用する必要があります。
サンゴは海底に生息しているサンゴ虫(コーラル・ポリプ)という生物が造り出した宝石です。生物起源の宝石には鑑別の手助けとなる独特の特徴があります。
赤サンゴなどには白色平行線や年輪模様があります。これらの特徴は人為的に造ることができない精緻さを持っています。長い年月をかけて、サンゴ虫と呼ばれる生物が造り出した独特な特徴です。

本稿は無断転載禁止です。ヴィサージュジャパン 株式会社