サンゴは虫からできている

サンゴ(珊瑚)は真珠と共に「海の二大宝石」と呼ばれています。そして両宝石とも生物起源宝石です。生物起源宝石とは、生物によって生み出される宝石のことです。生物起源宝石は、サンゴや真珠の他に象牙(生物は象)やべっ甲(生物は海亀)、ジェット(生物は樹木)などが挙げられます。
サンゴを生み出す生物は「サンゴ虫(サンゴちゅう)」と呼ばれています。英語ではコーラル・ポリプと表現されています。サンゴ虫は深い海底に生息しているために簡単に観察できません。そのためにサンゴ虫の生態は不明なことも多いです。
サンゴは大きく分類すると二種類に分けられます。それは造礁(ぞうしょう)サンゴと宝石サンゴ(または貴重サンゴ)です。それぞれを造り出すサンゴ虫も異なります。
サンゴと聞けば、多くの人は南の美しい海に見られるサンゴ礁をイメージすると思います。このサンゴ礁を造るサンゴ虫は、六放サンゴ虫と呼ばれています。一方、宝石サンゴを造るサンゴ虫は、八放サンゴ虫と呼ばれる異なる生物です。

赤いサンゴは数百年かけて成長している

赤サンゴを例にしてサンゴの本質を探ります。

本質を探るには下図に示した三層特性図を利用すると便利です。下図の本質特性の中に生成源はサンゴ虫という項目があります。
そして、そのサンゴ虫の生息域は海底と記載されています。海底に棲んでいるそのサンゴ虫とはどんな生物でしょうか。
サンゴ虫はイソギンチャクやクラゲを極端に小さくしたイメージです。
直径が1mm前後の円盤状で、8本の触手があります。
栄養源は海水中のプランクトンなどです。
そして海水中のカルシウムイオンと重炭酸イオンを摂り込んで、サンゴの本体である炭酸カルシウムを形成します。

海底に着床したサンゴ虫は炭酸カルシウムの非常に小さな骨片を造り出します。骨片の大きさは30ミクロン(0.03ミリ)ほどです。その骨片が長い年月を経て堆積し、樹木状のサンゴの原木を形成します。図中の固有特性枠に記載されている炭酸カルシウム骨片集合体です。
固有特性枠にカロテノイド摂取という項目があります。赤サンゴの発色はこのカロテノイド有機物に原因しています。さらに詳しくは、カロテノイドの中のカンタキサンチン(Canthaxanthin、C40H52O2)によって発色していると推測されています。
サンゴの赤色発色は有機物(カンタキサンチン)に原因しています。一方、ルビーやアルマンディン・ガーネットの赤色は微量に含まれている無機物(クロム元素や鉄元素)に原因しています。生物起源の宝石であるサンゴの赤色は、他の赤色の宝石と異なる発色原因です。
固有特性の中に超低成長(樹木状)という項目があります。宝石サンゴの成長は極めて遅いです。ある研究(長谷川浩氏、岩崎望氏)では成長軸の断面、半径の成長速度は1年で0.15ミリと報告されています。
この数値から単純に計算すると、大人の小指の太さ(約1.5センチ)までに成長するには、50年ほどかかることになります。

生き物がゆえに、傷つきやすい

固有特性の中に低硬度という項目があります。サンゴの本体は炭酸カルシウム(カルサイト)ですから、モース硬度は3ということになります。宝石の専門書では3.5という数値が掲載されています。サンゴの本体は純粋な炭酸カルシウムだけでなく、炭酸マグネシウムやタンパク質などが含まれていることから、モース硬度をわずかに高めにする作用が働いていると推測されます。
サンゴのモース硬度は低いですから、耐スリ傷性も低いです。日常使用でスリ傷が発生しやすいと言えます。また強い衝撃に対しても弱いです。サンゴの耐衝撃性と不透明性を考慮して、サンゴのカット・スタイルはほとんどカボッションやビーズが採用されています。

生き物がゆえに、作り出せない

表面特性の中に生物痕跡という項目があります。これはカットされたサンゴの表面に見られる年輪模様や白色平行線のことです。これらは微細で精緻です。これらの特徴はサンゴとサンゴ模造品を識別するときに有効です。サンゴ模造品に精緻な年輪模様や白色平行線を造り込むことは極めて困難です。
生物が造り出す海の二大宝石である真珠とサンゴ、両者とも細部を観察すると、人工的に造り出すことができない構造、組織を持っています。真珠においては極めて薄いアラゴナイトと呼ばれる結晶が積層している構造です。サンゴにおいては赤色地の中に精密な年輪模様や白色平行線が分布している組織です。
赤サンゴを例に話を進めましたが、桃サンゴも白サンゴも基本的には同様な本質特性、固有特性、表面特性を持っています。生物であるサンゴ虫(コーラル・ポリプ)がサンゴの生成源です。さらに黒サンゴもサンゴ虫が造り出しています。そのサンゴ虫は直径が数百ミクロンの円盤状で6本の触手を持ち、外観の色は黒色あるいは暗褐色の生物です。黒サンゴの本体は無機物でなく、有機物(タンパク質、コラーゲン)です。
そして黒サンゴのサンゴ虫にはアカウズと呼ばれる針状の生物が共生しています。この針状の生物(長さは1ミリ未満、直径は1~2ミクロン)は黒サンゴの成長を早め、サンゴ虫を外敵から守る役目をしている、と推測されています。
生物(サンゴ虫)が鉱物(炭酸カルシウム、カルサイト)を造り出す作用は、バイオミネラリゼーションと呼ばれています。ただし、黒サンゴは有機物ですから除外されます。

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