この記事で分かること
  • サファイアの青色が生まれる科学的メカニズム
  • サファイアとルビーの意外な関係性
  • 青色以外のサファイアの種類と特徴
  • サファイアの本質特性、固有特性、表面特性の関係
  • 専門家が見るサファイアの魅力とは

サファイアの青はどこからきたのか?

鮮烈な青色を示すサファイア(ブルー・サファイア)とは、どのようなもので造られているのでしょうか? あの青色の発色原因は何によるのでしょうか? そして青色のサファイアと赤色のルビーは同じものである、ということを初めて聞くと、多くの人は驚かれます。

1783年、フランスの鉱物学者・ロメ・ド・リールはブルー・サファイアとルビーは成分が同じである、と発表しました。この頃にブルー・サファイアとルビーの本質が突き止められたものと推測されます。ブルー・サファイアの本質は次の2項目にあります。

(1)成分:コランダム(酸化アルミニウム)
(2)発色:鉄とチタン

ブルー・サファイアの成分(宝石を構成している元素の割合)は比較的単純です。アルミニウムと酸素の二つの元素のみで構成されています。ブルー・サファイアの基本的な構成成分である酸化アルミニウムは、通常、宝石業界、鉱物業界ではコランダムと呼ばれています。工業界ではアルミナと呼ばれています。

ブルー・サファイアの青色の発色は、コランダムの中に微量に含まれている鉄とチタンに原因しています。ルビーの赤色の発色は、コランダムの中に微量に含まれているクロム(クロミウム)に原因しています。ブルー・サファイアとルビーは色が違っても本体は同じです。両者とも本体はコランダムで構成されています。

ですから、ブルー・サファイアとルビーの親はコランダム、ブルー・サファイアとルビーは兄弟姉妹の関係といえます。ブルー・サファイアは兄、ルビーは妹といった関係です。

宝石名基本成分発色原因
ブルー・サファイアコランダム
(酸化アルミニウム)
鉄とチタン鮮烈な青色
ルビーコランダム
(酸化アルミニウム)
クロム赤色
パパラチア・サファイアコランダム
(酸化アルミニウム)
クロムとマンガン橙ピンク色
この章のポイント
サファイアの青はコランダムに含まれる鉄とチタンが原因

青ではないサファイアが存在する

ここまでは青色のブルー・サファイアのみを取り上げましたが、サファイアにはこの他にオレンジ・サファイア、イエロー・サファイア、グリーン・サファイアなど様々な色が産出します。これらのサファイアも基本の成分はコランダムです。

国際的な約束事で、赤色のコランダムをルビーと呼ぶことにしています。赤色以外のすべての色のコランダムをサファイアと呼ぶことにしています。そしてサファイアの場合は、サファイアの前に色の名前付けることが決まりです。

ですから、青色であれば、ブルー・サファイアと表示されます。オレンジ色であれば、オレンジ・サファイアと表示されます。

サファイアはいろいろな色があります。ここではサファイアの代表として青色のブルー・サファイアを主に取り上げて話を進めます。

サファイアの色呼称特徴
青色ブルー・サファイア最も一般的で人気のあるサファイア
ピンク色ピンク・サファイア淡いピンクから濃いピンクまで様々
黄色イエロー・サファイア鮮やかな黄色から黄金色まで
緑色グリーン・サファイア青緑から黄緑まで様々な色調
橙色オレンジ・サファイア温かみのある橙色
無色ホワイト・サファイア透明で不純物をほとんど含まない
紫色パープル・サファイア紫色から紫青色まで
この章のポイント
赤色以外のコランダムはすべてサファイアと呼ばれる

ブルー・サファイアの特性

ブルー・サファイアの本質は、成分がコランダムで、発色が鉄とチタンということになります。この二つの項目を便宜上、本質特性と呼ぶことにします。

ですから、ある宝石がブルー・サファイアであることを証明するには、この本質特性を捕まえれば良いということになります。本体がコランダムであることを確かめ、不純物として鉄とチタンが含まれていることを確認できれば、ブルー・サファイアと証明されます。

宝石の本質特性を解き明かせば、確実に宝石の名称にたどり着くことができます。しかし、本質特性に迫ることは容易でありません。宝石の鑑別機関が所有している蛍光X線装置が必要です。主力の成分であるアルミニウム元素を検出する必要があります。そして着色成分である鉄とチタンを検出する必要があります。

宝石に強い関心がある人でも、個人的に蛍光X線装置を保有している人は誰も居ません。ですから、一般にある宝石がブルー・サファイアあることを証明するには、別な特性を調べることになります。

その特性は固有特性です。固有特性とは、本質特性から生まれる高屈折率などの特性を言います。ブルー・サファイアの固有特性を挙げますと、この高屈折率の他に複屈折性、高硬度、吸収分光(吸収ライン及び吸収バンド)、高密度などです。

これらの固有特性は、比較的安価な器具を使って検査することができます。例えば、ブルー・サファイアの屈折率は、市販されている屈折計を使えば、正確な数値が得られます。ブルー・サファイアの屈折率はダイヤモンドと比較すると低い数値ですが、他の宝石と比べると高屈折率と言えます。

宝石を購入される多くの人は、宝石を目で見て、色が美しいとか、輝きがあるとかの判断をします。ブルー・サファイアを目で見て、私達はどのような特性をとらえているのでしょうか?

私達が目でとらえられる特性を表面特性と言います。ブルー・サファイアの鮮烈な青青色、ブルー・サファイアの良好な「テリ」、ブルー・サファイアを側面から観察すると、青色と緑青色の二色が見られる二色性と呼ばれる特性など、これらは表面特性です。

さらにブルー・サファイアのリング(指輪)などを日常的に使用していても表面に簡単にスリ傷がつくわけではありません。ブルー・サファイアは強い耐久性があります。見て直ぐに気付くことではありませんが、耐久性は長い期間で気付く特性です。これも表面特性です。

サファイアの特性図

右図は本質特性と固有特性と表面特性が三層関係になっていることを図示化したものです。ブルー・サファイアの本質は、コランダムで構成されており、発色は鉄とチタンに原因しています。この本質特性から固有有特性が生まれます。この固有特性から表面特性が生まれます。

図中の表面特性の中に「良好なテリ」という特性があります。これはブルー・サファイアを見たときの輝きを意味しています。テリとは宝石業界の特有な用語です。宝石の美しさを表す重要な用語のひとつです。テリとは宝石の表面からの光の反射と宝石の内部から現れる光の合計による輝きを言います。このテリは宝石自身の屈折率と透明性、カット・スタイルなどに影響されます。宝石業界では、「この石はテリがいいですね」と言った会話が交わされます。

そして図中の表面特性の中に「二色性」という特性があります。これはブルー・サファイアの方向を変えると、青色と緑青色が見られる現象を言います。ブルー・サファイアは青色と表現されますが、詳しく観察すると、特に側面から観察すると、青色の他に緑色味を帯びた青色が存在していることに気付きます。

この二色性は肉眼または10倍のルーペでブルー・サファイアのガードル部(側面部)から観察すると、クラウン部またはパビリオン部に現れます。青色と緑青色の二色が見られたら、ブルー・サファイアと判定できます。この二色の色相は、他の青色の宝石には見られないものです。

特性の種類具体例確認方法
本質特性・コランダム成分
・鉄とチタンによる発色
蛍光X線装置などの専門機器
固有特性・高屈折率
・複屈折性
・高硬度
・吸収分光
・高密度
屈折計や硬度計などの一般的な宝石鑑別器具
表面特性・鮮烈な青色
・良好なテリ(輝き)
・二色性
・耐久性
肉眼や10倍ルーペでの観察
この章のポイント
サファイアの特性は本質・固有・表面の三層構造

サファイアの原石と産地

サファイアの原石は六角柱状の形をしています。これはコランダムの結晶構造に由来するものです。世界各地で産出されますが、特に有名な産地はミャンマー(旧ビルマ)、スリランカ、カシミール(インド、パキスタン国境地帯)、マダガスカル、タイなどです。

産地によってサファイアの色や品質が異なることがあります。例えば、カシミール産のサファイアは深い青色と絹のような光沢で知られ、最も高価なサファイアの一つとされています。ビルマ産のサファイアは鮮やかな青色で、「ロイヤルブルー」と呼ばれる色調が特徴です。

産地特徴的な色評価
カシミールコーンフラワーブルー(青紫がかった青)最高級とされる
ミャンマー(ビルマ)ロイヤルブルー(濃い鮮やかな青)非常に高評価
スリランカコーニッシュブルー(明るい青)高品質で多様なサイズ
マダガスカル様々な青(淡い青~濃い青)比較的新しい産地だが良質
タイ濃い青(やや暗め)耐久性が高い
モンタナ(米国)青~青緑特徴的な色調で人気
この章のポイント
産地によって異なる特徴を持つサファイア

おすすめのサファイアジュエリー紹介

まとめ

サファイアの美しい青色は、コランダム(酸化アルミニウム)の中に含まれる微量の鉄とチタンによって生まれています。このメカニズムが発見されたのは18世紀末で、フランスの鉱物学者ロメ・ド・リールによってサファイアとルビーが同じ鉱物であることが明らかにされました。

サファイアとルビーは「コランダム兄弟」とも呼べる関係で、同じ基本成分を持ちながら、含まれる微量元素の違いによって全く異なる色を示します。赤色のコランダムはルビー、それ以外の色はすべてサファイアと呼ばれ、サファイアには青色以外にも黄色、緑色、オレンジ色など様々な色のバリエーションが存在します。

サファイアの特性は三層構造になっています。最も根本的な「本質特性」(コランダム成分と鉄・チタンによる発色)から、「固有特性」(高屈折率、高硬度など)が生まれ、さらにそこから私たちが目で確認できる「表面特性」(鮮やかな青色、良好なテリ、二色性など)が導かれます。

世界各地で産出されるサファイアは、産地によって色調や品質が異なります。カシミール産の青紫がかった青色、ミャンマー産の濃い鮮やかな青色、スリランカ産の明るい青色など、それぞれに特徴があり、鑑定士や愛好家はこれらの特徴から産地を推測することができます。

サファイアは美しさだけでなく、高い硬度(モース硬度9)と耐久性を持つことから、日常使いのジュエリーとしても適しています。宝石としての魅力と科学的な特性の両面から見ても、サファイアはダイヤモンドに次ぐ人気と価値を持つ宝石と言えるでしょう。

この記事のまとめ
  • サファイアの青色は鉄とチタンが原因
  • サファイアとルビーは同じコランダムからできている兄弟関係
  • 赤色以外のコランダムはすべてサファイアと呼ばれる
  • サファイアには青以外にも黄色、緑色、オレンジ色など多彩な色がある
  • サファイアの特性は本質・固有・表面の三層構造になっている
  • 二色性(青色と緑青色)はサファイアを識別する重要な特徴
  • 産地によって色調や品質が異なり、カシミール産が最高級とされる
  • 高い硬度と耐久性を持ち、日常使いのジュエリーにも適している
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