サファイアとルビーは宝石界の双璧として長く愛されてきました。これらの宝石は実は「同じ鉱物」であることをご存知でしょうか?青と赤という対照的な色彩を持ちながらも、共にコランダムという鉱物からなる「親戚」なのです。しかし、天然石と合成石、さらにはガラス製の模造品も市場に多く流通しており、その見分け方を知ることは重要です。本記事では、サファイアとルビーの共通点と相違点から始まり、特に代表的なブルー・サファイアの鑑別方法について詳しく解説します。宝石を購入する際や、お手持ちの宝石の価値を知りたい方はぜひ参考にしてください。プロの鑑別技術の一端に触れることで、宝石への理解と愛着がさらに深まるはずです。

この記事で分かること
  • サファイアとルビーの共通点と違い
  • 色の違いを生み出す微量元素の役割
  • 天然ブルー・サファイアと合成品の見分け方
  • 二色性とインクルージョンの観察方法
  • ガラス製の模造品を見抜くポイント

青と赤なのに、ほとんど同じサファイアとルビー

サファイアとルビーは同じ組成です。組成とはある宝石の本体を形造っている元素の割合です。この両石は、アルミニウム元素と酸素元素で造られており、本体はコランダムと呼ばれています。コランダム自体は無色透明です。このコランダムに微量の鉄とチタンが含まれると、ブルー・サファイアになります。微量のクロムが含まれると、ルビーになります。

サファイアにはいろいろな色があります。青色のブルー・サファイア、橙色のオレンジ・サファイア、黄色のイエロー・サファイアなどです。赤色はレッド・サファイアと呼ばれるところですが、例外的にこの色をルビーと称する習慣です。

このようにサファイアはいろいろな色で産出しますが、ここではサファイアの代表として青色のブルー・サファイアを取り上げます。

サファイアとルビーは同じもの、コランダムと呼ばれるものでできています。色の違いだけです。赤色をルビーと称し、赤色以外のコランダムをすべてサファイアと呼びます。

サファイアとルビーの色の秘密

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ブルー・サファイア

発色元素:

鉄(Fe) + チタン(Ti)

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ルビー

発色元素:

クロム(Cr)

どちらも主成分は同じコランダム(Al₂O₃)。わずかな不純物の違いが色の違いを生み出します。

知っていましたか?

サファイアという名前は、ギリシャ語の「サフェイロス(青い石)」に由来します。一方、ルビーはラテン語の「ルベウス(赤い)」が語源です。どちらも色に基づいた命名なのです。

この章のポイント
サファイアとルビーは同じコランダムで、色の違いは不純物による

サファイアの代表 天然のブルー・サファイアを見極める

サファイアの代表的な色は、比較的広く知られている青色のブルー・サファイアです。

このブルー・サファイアの鑑別において、課題となることは天然ブルー・サファイアと合成ブルー・サファイアを識別することです。

合成ブルー・サファイアは中国、その他いくつかの国でたくさん造られています。日本の市場にも広く出回っています。

天然ブルー・サファイアの鑑別に当って、先ず鑑別とは、ある石(宝石)が何であるか、本物か偽物か、天然石か合成石かなどを判定することを言います。次に合成石とは、天然石に対比される用語で、天然石と組成が同じだが、人の手によって造られたものをいいます。

天然ブルー・サファイアと合成ブルー・サファイアを比較すると、外観の色はどちらも鮮青色です。一目見ただけでは識別は難しいです。そこで、両石を側面(ガードル部、石の最外部)から肉眼または低倍率の虫眼鏡(3倍~5倍前後)で観察します。このとき、10倍のルーペが手元にあると最適です。

天然ブルー・サファイアを側面から観察すると、青色と緑青色(または黄青色)の二色が見られます。合成ブルー・サファイアでは、ほとんどの場合、青色と淡青色が見られます。ときに青色と淡黄青色が見られます。宝石に二色が見られる特性を二色性といいます。ブルー・サファイアは強い二色性を示します。ですから、比較的、ブルー・サファイアの二色性は観察し易いです。

弱い二色性を持つアメシストなどは、二色性を観察しにくいです。ブルー・サファイア以外の色、オレンジ・サファイア、イエロー・サファイアそしてルビーも二色性を比較的容易に観察できます。

二色性の観察方法

1

準備

10倍のルーペを用意し、明るい場所(自然光が理想的)で観察します。

2

ガードル部の観察

宝石の側面(ガードル部)を通して内部を観察します。

3

回転させる

宝石をゆっくり回転させながら、色の変化を観察します。

4

判定

天然サファイア:青色と緑青色(または黄青色)の二色
合成サファイア:青色と淡青色

この章のポイント
二色性の違いで天然と合成を見分ける

天然だからこそのインクルージョン(異物)

次に天然ブルー・サファイアと合成ブルー・サファイアを識別する方法として、インクルージョンの観察が挙げられます。

インクルージョンとは、日本語では内包物と呼ばれており、石の内部に存在する異物のことです。インクルージョンを観察するには、一般に10倍のルーペを使用します。

天然ブルー・サファイアの内部を10倍のルーペで観察すると、ほぼすべての石でインクルージョンを見つけることができます。

一方、合成ブルー・サファイアでは、ほぼすべての石でインクルージョンが見られません。極めて希に小さな泡が見られることはあります。

このように石の内部にインクルージョンが見られた場合、ほぼ天然石です。見られない場合、ほぼ合成石です。

天然と合成サファイアの違い

天然ブルー・サファイア
  • 結晶状のインクルージョン(内包物)あり
  • 二色性:青色と緑青色(または黄青色)
  • 直線状の成長線や縞模様
  • 自然な色むら
自然が作り出した個性
合成ブルー・サファイア
  • インクルージョンはほぼ無し(稀に気泡)
  • 二色性:青色と淡青色
  • 曲線状の成長線(カーブ・ライン)
  • 均一な色調
人工的な均一性

インクルージョンは「欠点」ではなく、天然石の証明書と考えましょう。

この章のポイント
インクルージョンは天然石の証

ベルヌーイ法で作られた合成石

さらに、天然ブルー・サファイアと合成ブルー・サファイアを確実に識別できる方法もあります。ほとんどの合成ブルー・サファイアは、ベルヌーイ法と呼ばれる方法で造られています。この方法で造られた合成石の特徴を知ることで識別が容易になります。

この方法は1903年頃、フランスで開発されました。この方法によって、安価に合成石を造ることができます。中国やその他の国で合成石が大量に生産されています。

この方法で造られたブルー・サファイアを10倍のルーペで観察すると、曲線状のたくさんの筋が見られます。右の描画の中央に描かれた曲線です。これはカーブ・ラインと呼ばれています。

このカーブ・ラインを写真に撮っても、なかなか判りづらいですから、描画にしています。

カーブ・ラインは合成石に見られる特徴的なものです。一方、天然ブルー・サファイアでは、直線状の筋や直線状の縞が見られます。曲線状か直線状かを見分けることで、合成か天然であるかを判定できます。

ベルヌーイ法による合成サファイアの特徴

製造プロセス

  1. アルミナ粉末を高温の酸素水素炎で溶かす
  2. 溶けた液滴が種結晶の上に落ち、固まる
  3. 鉄とチタンの化合物を加えて青色に
  4. 少しずつ円柱状の結晶が成長

識別ポイント

  • カーブ・ライン:円形または湾曲した成長線
  • 気泡:稀に見られる丸い気泡
  • 均一な色:ムラがなく均一な青色
  • 価格:天然品に比べて非常に安価
合成サファイアのカーブライン
カーブ・ラインは合成サファイアに見られる決定的な証拠。天然サファイアでは直線状の成長線のみが観察されます。
知っていましたか?

ベルヌーイ法は発明者のオーギュスト・ベルヌーイにちなんで名付けられました。この方法は1900年代初頭から使われ続け、今日でも合成コランダム(サファイアとルビー)の主要な製造法となっています。

この章のポイント
合成サファイアではカーブ・ラインが見られる

合成サファイアだけじゃない!ブルー・ガラスの存在

天然ブルー・サファイアの鑑別に当って、合成ブルー・サファイアが一番の課題ですが、市場にはブルー・ガラスもたくさん出回っています。

ブルー・ガラスを側面(ガードル側)から観察して、青色と他の色が混じった青色が存在するかどうかを見ます。例えば、青色と緑色味を帯びた青色などがあるかを見ます。

青色のみが観察されれば、その石はブルー・ガラスです。わずかに薄い青色が観察されますが、他の色味が無い場合は、青色も薄青色も同一とみなします。

このようにブルー・ガラスでは、青色の一色のみが見られるだけです。一色の場合はブルー・ガラスと判定します。

ブルー・ガラスには、しばしば泡(気泡)と脈理(スワール)が見られます。10倍のルーペでガラスの内部を観察すると、丸い小さな泡が見られることも多いです。天然ブルー・サファイアには丸い泡は見られません。また、ブルー・ガラスには脈理も見られます。脈理とは、水の中に蜂蜜を少し垂らして、箸(はし)でかき混ぜたときに見られるモヤモヤとした感じのものをいいます。天然ブルー・サファイアには脈理は見られません。

赤色のコランダムはルビーと呼ばれ、赤色以外の色のコランダムはすべてサファイアと表示されます。そして、サファイアの場合には、サファイアの前に色の名前を付ける、というのが約束事です。例えば、サファイアの代表的な色は青色です。青色のサファイアであれば、ブルー・サファイアと表示されます。

サファイアの代表であるブルー・サファイアの鑑別において、一番の課題は合成ブルー・サファイアをどのようにして識別するかです。先ず、インクルージョンの有無を観察して、次にカーブ・ラインの有無を10倍のルーペで検査することです。

ブルー・サファイアとブルー・ガラスの見分け方

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ブルー・サファイア(天然・合成)

  • 二色性あり:青色と別の青色調が見られる
  • 硬度が高い:モース硬度9(爪では傷つかない)
  • 条痕色:白色
  • インクルージョン:天然では自然なインクルージョン、合成では少ない
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ブルー・ガラス

  • 二色性なし:青色の一色のみ
  • 硬度が低い:モース硬度5〜6(容易に傷がつく)
  • 気泡:丸い小さな気泡が見られる
  • 脈理:水と蜂蜜を混ぜたようなモヤモヤした模様
簡易テスト

ガラスはサファイアより軽く、冷たく感じます。また、ガラスはコインなどで簡単に傷がつきます。

価格差

ブルー・ガラスは極めて安価で、天然サファイアの価格の1/1000以下のこともあります。

輝き

サファイアは「ダイヤモンドライク」な硬質感のある輝きがありますが、ガラスはやや鈍い輝きです。

この章のポイント
ブルー・ガラスには二色性がなく、気泡や脈理が見られる

まとめ

サファイアとルビーは、同じコランダムという鉱物でありながら、微量な不純物の違いによって青と赤という対照的な色を持つようになります。特に人気の高いブルー・サファイアは、美しい色彩で多くの人を魅了していますが、市場には天然石、合成石、ガラス製の模造品が混在しています。天然ブルー・サファイアの見分け方として、二色性の観察、インクルージョンの有無、カーブ・ラインの検出が有効です。天然石の証であるインクルージョンは、欠点ではなく自然の芸術として捉えると、より宝石の魅力が増すでしょう。合成石やガラス製品は価格が安く入手しやすいですが、投資価値や希少性を考えると天然石には及びません。宝石選びの際には、これらの知識を活かして、自分の目的や予算に合った最適な選択をしましょう。

この記事のまとめ
  • サファイアとルビーは同じコランダムで、含有微量元素の違いで色が変わる。
  • 天然と合成のブルー・サファイアは二色性の違いで識別できる。
  • インクルージョンは天然石の証であり、合成石にはほとんど見られない。
  • 合成サファイアはベルヌーイ法で作られ、特徴的なカーブ・ラインがある。
  • ブルー・ガラスには二色性がなく、気泡や脈理が見られる。
  • 10倍のルーペがあれば、基本的な鑑別が可能。
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