はじめに

「キャッツ・アイ」と「アレキサンドライト」。どちらも世界的に有名で、多くの人々を魅了する美しい宝石です。しかし、この全く異なる魅力を持つ二つの宝石が、実は「クリソベリル」という同じ鉱物から生まれることをご存知でしたか?

なぜ同じ鉱物なのに、あるものは猫の目のような神秘的な光を放ち、またあるものは光によって魔法のように色を変えるのでしょうか。その秘密は、宝石が内部に含む微細なインクルージョン(内包物)や元素に隠されています。

この記事では、クリソベリルが持つ三つの顔(キャッツ・アイ、アレキサンドライト、コモン・クリソベリル)を解き明かし、それぞれの宝石が持つ独特の現象の仕組みを分かりやすく解説します。この知識を身につければ、クリソベリルの奥深い世界をより一層楽しむことができるでしょう。

この記事で分かること
  • キャッツ・アイとアレキサンドライトが同じ「クリソベリル」という鉱物であること
  • キャッツ・アイ効果(光条)が現れる仕組み
  • アレキサンドライトのカラーチェンジ(変色性)の秘密
  • 変色性を最大限に楽しむためのライトの選び方

クリソベリルとは?三つの顔を持つ宝石

クリソベリルは、モース硬度8.5と非常に硬く、ルビーやサファイアに次ぐ耐久性を誇る宝石です。宝石に求められる「美しさ・希少性・硬さ」の三条件を兼ね備えており、その中でも特に有名なのが「キャッツ・アイ」と「アレキサンドライト」です。これらは「プレシャス・クリソベリル」と呼ばれ、高い価値がつけられています。

そして、この二つの特別な効果を持たない、淡い黄色や緑黄色をしたクリソベリルは「コモン・クリソベリル」と呼ばれます。際立つ美しさはありませんが、優しく落ち着いた色合いと十分な硬さから、18~19世紀のヨーロッパで愛用されていました。クリソベリルは、その内部構造や含有元素の違いによって、これら三つの異なる顔を見せるのです。

猫の目の一筋の光「キャッツ・アイ効果」の秘密

宝石の表面に現れる、猫の目のような白く鋭い光の帯。この現象を「キャッツ・アイ効果(シャトヤンシー)」、または日本語で「光条(こうじょう)」と呼びます。単に「キャッツ・アイ」と呼ぶ場合、国際的なルールとして、この「クリソベリル・キャッツ・アイ」を指すほど、クリソベリルはこの効果を最も美しく示す宝石として知られています。

では、なぜこのような光の筋が現れるのでしょうか?その条件は二つあります。一つは、宝石の内部に針のように細いインクルージョン(内包物)が、無数に、そして平行に並んでいること。もう一つは、そのインクルージョンに対して直角になるように、宝石がドーム状(カボション・カット)にカットされていることです。

これは、糸巻きの駒に光を当てたときに見える光の筋と同じ原理です。規則正しく巻かれた絹糸がインクルージョン、円筒の形がカボション・カットに相当します。この二つの条件が揃って初めて、光が反射し、美しい一本の光条となって現れるのです。

糸巻き駒に見られる光条の例
糸巻き駒に見られる光条

※トルマリンやクォーツなど、他の宝石にもキャッツ・アイ効果を示すものはありますが、その場合は「トルマリン・キャッツ・アイ」のように、必ず宝石名を頭につけて呼ばれます。

この章のポイント
キャッツ・アイ効果は「平行に並んだ針状インクルージョン」と「カボション・カット」の二つの条件が揃うことで生まれる。

光で色が変わる魔法の石「アレキサンドライト」

クリソベリルの中でも、光源によって劇的に色が変わるものを「アレキサンドライト」と呼びます。この「変色性(カラーチェンジ効果)」こそがアレキサンドライト最大の特徴であり、「昼のエメラルド、夜のルビー」と称される所以です。

この不思議な現象は、クリソベリルの結晶に不純物として微量の「クロム元素」が入り込むことで起こります。クロムを含んだクリソベリルは、太陽光(青色系が強い光)の下では青みがかった緑色に見え、白熱電灯(赤色系が強い光)の下では赤紫色に見えるという、特殊な光の吸収・透過特性を持つようになります。

つまり、アレキサンドライト自体が色を変えているのではなく、当てる光の種類によって、私たちの目に届く色が変化しているのです。この劇的な色の変化こそ、アレキサンドライトが「宝石の王様」とも呼ばれる理由です。

アレキサンドライトの三連双晶の図
不思議な形状のアレキサンドライト原石(三連双晶)

ちなみに、アレキサンドライトの原石は、右の図のような六角形に見える不思議な形状(三連双晶)で産出することが多いのも特徴です。

この章のポイント
アレキサンドライトの変色性は、含有された「クロム元素」と「光源の種類」によって引き起こされる。

変色性を楽しむための必須アイテムとは?

アレキサンドライトの変色性を確認する上で、実は「使うライトの種類」が非常に重要です。近年主流となっている「LEDペンライト」は、省エネで長持ちしますが、その光の波長ではアレキサンドライトの変色性が弱く見えてしまい、本来の魅力を十分に引き出すことができません。

美しいカラーチェンジをはっきりと観察するためには、昔ながらの「豆球(白熱電球)ペンライト」が必須アイテムです。豆球の光は赤色系の波長を多く含んでいるため、アレキサンドライトの赤紫色への変化を劇的に見せてくれます。もしアレキサンドライトをお持ちで、その色の変化を確かめたい場合は、ぜひ豆球ペンライトを用意してみてください。その違いに驚くはずです。

この章のポイント
アレキサンドライトの劇的な変色性を確認するには、LEDライトではなく「豆球(白熱電球)ペンライト」を使うのが最適。

まとめ

クリソベリルという一つの鉱物が、その内部に秘めたわずかな違いによって、「キャッツ・アイ」や「アレキサンドライト」といった全く異なる表情を見せることは、宝石の世界の奥深さと面白さを象徴しています。猫の目のような光条はインクルージョンとカットの芸術であり、光による色の変化は微量元素と光の物理学が織りなす奇跡です。この知識は、あなたが宝石を手に取ったとき、その美しさの裏側にある物語を感じるための素晴らしいガイドとなってくれるでしょう。

この記事のまとめ
  • クリソベリルは、キャッツ・アイ、アレキサンドライト、コモンという三つの顔を持つ。
  • キャッツ・アイ効果は、平行に並んだ針状インクルージョンとカボション・カットによって生まれる。
  • アレキサンドライトの変色性は、クロム元素と光源の特性(太陽光と白熱灯)によって引き起こされる。
  • 変色性を最大限に楽しむには、LEDライトではなく豆球(白熱電球)ペンライトの使用が推奨される。
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