ジェード(玉)
宝石のビジネスにおいて、ヒスイはしばしば玉(ぎょく)と呼ばれています。英語ではジェード(Jade)と表示されます。最近、ウェブサイトでもジェードという表示も見かけられます。
ジェード(玉)の意味は2つあります。ひとつはジェダイト(Jadeite)、もうひとつはネフライト(Nephrite)です。ジェダイトは硬玉と呼ばれ、本ヒスイのことです。ヒスイと言えば、一般に硬玉を意味します。ネフライトは軟玉と呼ばれ、ヒスイではありません。
近代以前は硬玉と軟玉は識別されないで、両石をあわせて玉と呼ばれていました。両石とも外観は似ており、両石とも強い靱性を持ちます。靱性とは粘り強さのことで、彫刻に適しています。
玉の素材に緻密な彫刻を施した工芸品、芸術品が中国でたくさん作られました。緻密な彫刻ができる石は限られます。彫刻のときに欠けが発生する素材は不向きです。
玉と呼ばれるジェダイト(ヒスイ)もネフライトも彫刻に適した特殊な組織をしています。ジェダイトは微細な粒状組織をしています。ネフライトは比較的長い繊維状組織をしています。
粒状組織も繊維状組織も打撃を受けたとき、部分的な破壊が起きるだけで、周囲に破壊が伝播しません。ガラスのような均質体は、表面に打撃を受けると、一気に周囲に破壊が伝播して全体が破損に至ります。
彫刻に適する石には靱性が必要です。玉と呼ばれているジェダイト(ヒスイ)もネフライトも高い靱性を持っており、彫刻に向いています。
粒状組織
ヒスイは落下させても、壁に投げつけても容易に割れることはありません。ヒスイは高い靱性(じんせい、粘り強さ)を持っていることで知られています。この高い靱性はヒスイの粒状組織に原因しています。
均質体の宝石であるクォーツ、均質体の模造石であるガラスなどは外部から強い衝撃を受けると、表面が破壊されます。そして表面の破壊は一気に周辺に伝播します。さらに拡大して全体に波及して破損に至ります。
粒状組織は破壊を粒界で止める性質を持っています。ヒスイは割れにくい宝石のひとつです。
ヒスイは粒状組織をしていることから、染色され易いといえます。粒と粒の集合ですから、粒界が存在します。粒界に染色剤を染み込ませることができます。
薄い緑色のヒスイや白色系のヒスイに濃い緑色の染色剤を浸透させて、外観を良質なヒスイに改変させることができます。
ジェードの識別
ヒスイとターコイズ(トルコ石)の鑑別はなかなか難しいです。プロの宝石商を悩ませる石です。ヒスイの鑑別において、ネフライト(軟玉)が課題となります。
ジェード(玉)という単語はジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)の両方を意味しています。
緑色系のジェード(ヒスイとネフライト)の色を比較すると、ヒスイの緑色はクロム元素による発色で鮮やかです。一方、ネフライトの緑色は鉄元素による発色で暗く鮮やかさに欠けます。そしてネフライトではしばしば割れのような脈や黒緑色の斑(まだら)が見られます。
両石の組織は大きく異なります。ヒスイは粒状組織です。ネフライトは繊維状組織です。両石をルーペ(10倍)で観察すると、違いが判ります。観察には強い光源のペンライトが必要です。石の裏側から光を入れ、ルーペで石の内部を観察します。光が通りにくい場合には、観察個所を変えて、光が通り易い個所を探します。さらに石の厚さが薄いエッジ部(周辺部)に光を当てて観察します。
ヒスイもネフライトも半透明から不透明の石ですから、内部の組織を簡単に観察できるわけではありません。石全体の一部の個所が観察できるだけです。
一部の個所でも観察できれば、粒状か繊維状かを識別できます。ヒスイかネフライトかを識別できます。
ヒスイは中国で産出しません。ネフライトは産出します。ですから、中国で作られたヒスイと表示されている工芸品や土産品の多くは、ネフライトである可能性が高いです。
また、日本において祖母や母から譲り受けたヒスイ製品もネフライトであることが多いです。
フォールス・ネーム
本物ではないですが、外観が本物に似ていることから語尾に本物の名前が付けられて呼ばれることがあります。
(1)台湾ヒスイ
台湾産のネフライトのこと。またはカナダ産のネフライトを輸入して色を改
良処理したもの。
(2)オーストラリア・ヒスイ
オーストラリア産のクリソプレーズのこと。またはオーストラリア産のネフライトのこと。
(3)ニュージーランド・ヒスイ
ニュージーランド産のネフライトのこと。