似ているようで別物のヒスイとネフライト

ヒスイは日本や中国で人気がある緑色系の宝石のひとつです。確かに上質のヒスイを見ると、鮮やかな緑色と優しい半透明の魅力に引き込まれます。
魅力ある美しい宝石ですが、産地はミャンマーなどに限られ、産出量も豊富ではありません。ですから、外観が似ている類似石が古くからヒスイとして取り扱われてきました。代表的な類似石としてネフライトが挙げられます。
ヒスイの彫刻品、工芸品として売買されて来た多くはネフライトであると言われています。ヒスイであると言われて親から譲り受けたいくつかの石を観察すると、ネフライトの場合が多いです。
ヒスイとネフライトは「玉(ぎょく)」と呼ばれています。ヒスイを販売する業者の方は玉という言葉をときどき使います。玉は必ずしもヒスイを指すわけではなく、ネフライトであることもあります。
両者(ヒスイとネフライト)を識別する場合、ヒスイは「硬玉(こうぎょく)」、ネフライトは「軟玉(なんぎょく)」と呼ばれることもあります。

ヒスイの本質とは

ヒスイの本質を知るには三層特性図(右下図)が便利です。この図は本質特性と固有特性と表面特性で構成されています。

本質特性の中を見ると、成分(化学組成)が表示されています。この成分を起点として固有特性、表面特性が形成されます。
固有特性の中の項目を見ると、粒状組織という用語が表示されています。ヒスイの重要な特徴はこの粒状組織と深く関わっています。

詰まった粒の集合体によるさまざまな現象

ヒスイの内部をルーペ(10倍)で観察すると、密に詰まった粒の集合体であることが判ります。隙間なく、ぎっしりと詰まっています。大地の中でヒスイが出来上がるとき、高い圧力を受けていたことが推測されます。
この粒状組織は、表面特性の中に見られる半透明という項目に結び付きます。ヒスイは粒の集合体ですから、光がヒスイに入射すると、粒のひとつひとつの表面で光が反射して、完全に透過することはできません。光が乱反射して半透明となります。半透明はヒスイの特徴のひとつです。粒状組織の結果として現れる現象のひとつです。
粒状組織と深く関わる項目として、表面特性の中に靱性(じんせい)が挙げられています。靱性とは粘り強さのことです。餅(もち)のような粘りではなく、衝撃を受けたときの抵抗性のことです。ヒスイがある物にぶっつけられたとき、割れないで耐える性質のことです。
ヒスイは高い靱性を持っている宝石として知られています。ヒスイを壁に投げつけても、簡単には割れません。最初から割れを持っていたヒスイは別にして、通常のヒスイは容易に割れません。例えば、手元のヒスイのルースを金づちで軽く叩いたところ、割れないで飛び跳ねて行きました。今度は強く叩いたところ、同じく割れないで飛んで行きました。
ヒスイは高い靱性を持っていることから、彫刻に向いているといえます。中国では古くからヒスイの工芸品、彫刻品が作られてきました。ヒスイは微細な彫刻に適合する素材です。長期にわたる保存にも耐える素材です。
ヒスイの粒状組織は、外部からの衝撃に耐える性質を持っています。外部から衝撃を受けたとき、粒のひとつが破壊しても、隣の粒に破壊が伝播することは少ないと推測されます。
一方、弱い靱性の代表的な素材のひとつとしてガラスが挙げられます。ガラスは粒状組織ではありません。全体がひとつの均質素材です。ですから、表面が衝撃を受けてわずかに破壊すると、破壊は直ぐに奥まで伝播して、全体の破壊までに至ります。
粒状組織は粒と粒の集合ですから、境界が存在します。この境界に染色剤を浸透させることができます。流通しているヒスイには染色処理されたものも多いです。また、透明性を向上させる目的で透明なプラスチック液を染み込ませることも行われています。
無処理のヒスイはAヒスイ、透明なプラスチックを浸透させたヒスイはBヒスイ、着色剤を浸透させたヒスイはCヒスイと呼ばれています。
固有特性の中にクロム含有という項目があります。ここでは主に緑色のヒスイについて記述しています。緑色の発色原因はクロム元素によります。クロム元素は鮮やかな緑色に発色させます。ヒスイの類似石としてネフライトが多用されています。ネフライトの発色は鉄元素に原因しています。鉄元素による緑色は鮮やかさに欠け、暗い緑となります。
固有特性の中に中硬度という項目があります。ヒスイのモース硬度は7です。標準的な硬度です。スリ傷に対しては抵抗性があると言えます。ヒスイのルースはほとんどオーバル・カボッション・カットで半透明ですから、スリ傷が発生しても目立ちにくいです。
ヒスイのモース硬度は7で充分とも言えます。実際の日常使用については靱性という性質がより重要と考えられます。
表面特性の中にさざ波状表面という項目があります。ヒスイはヒスイ輝石と呼ばれている鉱物の粒の集合体です。粒の方向によって硬度がわずかに異なることから、研磨のときにわずかな差が生じて、水平に近い方向から観察すると波打つと推測されます。
ヒスイの本質は粒状組織にあります。粒状組織は半透明となり、そして微量のクロム元素が含まれるとき、優しい雰囲気を持つ、鮮やかな緑色の宝石となります。
また、粒状組織は高い靱性を持っており、彫刻に適しています。ヒスイは宝石の他に彫刻品、芸術品として中国や日本で人気があります。

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