美しく輝く青や黄色、そしてピンク――多彩な色を持ち、硬度も高く扱いやすいトパーズは、ジュエリーとしても非常に人気のある宝石です。でも、そんなトパーズの「本当の姿」を知っていますか?
私たちの目を引くその色合いや輝きの裏には、緻密に組み合わさった化学成分や、特徴的な結晶構造が深く関係しています。本記事では、トパーズの主成分や性質を「三層特性」の視点から徹底的に掘り下げていきます。
また、ブルートパーズがなぜ天然ではほとんど産出されないのか、研磨職人の技術がどうトパーズの性質をカバーしているのか、といった専門的でありながらも分かりやすい内容をお届けします。
- トパーズの基本成分と2種類のタイプ(Fタイプ・OHタイプ)
- 高い耐久性や劈開性(割れやすさ)とその対処法
- ブルートパーズが天然に少ない理由と人工処理の技術
- トパーズの三層特性と宝石としての魅力
高い耐久性と透明感が魅力
現在、ブルー・トパーズは宝石市場において人気アイテムのひとつです。トパーズといえば、多くの人は鮮やかな青色を思い浮かべます。明るい青色のトパーズは、小さくても存在感があります。人気の理由は、美しくて存在感があり、宝石の中では比較的手頃な価格にあると思われます。
トパーズは硬い宝石で、日常で使っていても傷が付きにくく、耐久性があります。ブルー・トパーズの表面は艶(つや)やかで、輝きも優れています。その宝石の内部は比較的インクルージョン(内包物、異物)も少なく、透明感があります。
今では身近に接する機会の多いトパーズとはどのような特性を持つ宝石でしょうか? トパーズの本質を探ってみます。
本質を探るには、トパーズの成分(化学組成)を知ることが欠かせません。右図はトパーズの三層特性を図解にしたものです。
この図解では、本質特性と固有特性と表面特性の三層構成になっています。
本質特性の中に成分が記載されています。その成分に注目すると、真ん中にFとOHの記号が見られます。
F(エフ)はフッ素を意味しています。OH(オーエッチまたはオーエイチ、オーハー)は酸素と水素を意味しています。

硬度8と高い透明感で日常使いにも最適
トパーズはフッ素と水素、酸素でできている
トパーズは一般にこのFとOHの両方を含んでいますが、Fをより多く含むトパーズとOHをより多く含む2種類に分けられます。すなわち、次の2種類のタイプがあります。
(1)Fタイプ・トパーズ
(2)OHタイプ・トパーズ
トパーズは多彩な色を持って産出することが知られています。タイプによって産出する色が異なります。Fタイプのトパーズは、無色、淡青色、黄色などです。OHタイプのトパーズは、赤黄色、赤褐色、ピンク色、赤色、黄色などです。黄色は共通していますが、Fタイプの黄色は日光にさらされると、徐々に色が退色する傾向が強いです。
Fタイプ・トパーズは、Fリッチ・トパーズとも呼ばれています。リッチとは優勢、富んでいるという意味です。OHタイプ・トパーズは、OHリッチ・トパーズとも呼ばれています。
両タイプは少し物理的特性(屈折率、比重など)が異なります。例えば、屈折率について、Fタイプ・トパーズの数値は1.61~1.62です。一方、OHタイプ・トパーズの数値は1.63~1.64です。
三層特性図において、高硬度という項目があります。トパーズは高い硬度(硬さ)を持っています。Fタイプ・トパーズとOHタイプ・トパーズに関係なく、トパーズの硬度は8です。一般に硬度はHという記号で表示します。ですから、トパーズの硬度はH=8と表示されます。
この数値であれば、日常の使用で傷が付くことはほとんどありません。耐久性を持つ宝石と言えます。三層特性図の表面特性の中に高耐久性と表示されています。
トパーズの屈折率は、固有特性の中で中程度屈折率と表示されています。屈折率は宝石の中で高い値ではありません。しかし、高硬度に関係していると推測されますが、トパーズはつやつや感があります。トパーズは透明感のある輝きを放ちます。
項目 | Fタイプ・トパーズ | OHタイプ・トパーズ |
---|---|---|
主な成分 | フッ素(F)優勢 | 水酸基(OH)優勢 |
主な色 | 無色、淡青色、黄色 | 赤黄色、赤褐色、ピンク色、赤色、黄色 |
屈折率 | 1.61 ~ 1.62 | 1.63 ~ 1.64 |
呼称別名 | Fリッチ・トパーズ | OHリッチ・トパーズ |
FタイプとOHタイプで性質や色が異なる
特定の方向に割れやすい性質をカバーする研磨工の技
固有特性の中に強劈開という項目があります。この劈開(へきかい)とは、一定以上の力を加えると、ある特定の方向で比較的容易に割れる性質をいいます。
トパーズは強い劈開を示す宝石のひとつです。トパーズの劈開の方向は、原石の柱状形に対して直角の方向に発生します。
トパーズの原石を観察すると、片側端面はしばしば柱状に伸びている結晶に対して直角に平らな面をしています。これはトパーズの原石を採取するときに劈開が生じて、片側端面がきれいな平滑面になったことに起因しています。
ですから、カット(切断研磨)されたトパーズも劈開を起こす可能性があり、丁寧に取り扱うことが必要です。しかし、丁寧な取り扱いといっても難しいことです。
そこで、カッター(研磨工)は一工夫をしています。トパーズに衝撃が加えられても、出来る限る劈開が生じないように工夫しています。トパーズの劈開は原石の伸長方向に対して直角方向に発生するので、カットの際に伸長軸に対してわずかに傾けて切り出す工夫をしています。
表面特性の中に菱形断面という項目があります。これはトパーズの原石に見られる特徴です。宝石鉱物フェアなどでは、しばしばトパーズの無色透明なきれいな面を持った結晶が並べられています。一見、水晶の結晶と思われるかもしれませんが、断面を観察することでトパーズと水晶を識別することが可能です。トパーズの断面は菱形です。水晶の断面は六角形です。
項目 | 内容 |
---|---|
劈開の性質 | 特定の方向に強い劈開性あり(割れやすい) |
劈開方向 | 原石の柱状形に対して直角方向 |
原石の特徴 | 柱状に伸び、端面が平滑になる(劈開面) |
研磨時の工夫 | 劈開を避けるため、伸長軸に対してわずかに角度をつけてカット |
断面の識別形状 | トパーズ:菱形/水晶:六角形 |
劈開を避ける加工法で強度と美しさを両立
天然にはほぼ存在しないブルートパーズ
表面特性の中に多彩発色という項目があります。トパーズはいろいろな色が見られます。
黄色、淡青色、赤黄色、赤褐色、ピンク色、赤色など、そして無色です。トパーズの発色は、微量のクロムを含むことによる赤色系を除いて、特別な微量成分を含むことで発色しているわけではありません。
無色のトパーズを青色に変化させる改変技術、すなわち無色のトパーズに放射線を照射した後に加熱処理すると、青色に変化することが1970年代に発見されました。
天然産の淡い青色のトパーズの発色は、この改変技術のようなことが自然界で起こったと推測されます。三層特性図の中の本質特性に示した成分(化学組成)は、放射線と加熱によって発色を引き起こし易いと言えます。
無色透明な水晶に同じ技術(放射線照射+加熱処理)を用いても青色は得られません。
トパーズ特有の成分が鮮やかな青色を生み出しています。
放射線+加熱で青に変化、天然は希少
おすすめのトパーズジュエリー紹介
まとめ
トパーズは、フッ素や酸素・水素を含む特有の化学組成を持ち、その組成の違いによって「Fタイプ」と「OHタイプ」に分かれます。それぞれのタイプは色合いや物理特性に微妙な違いを持ち、宝石としての多様性を生み出しています。
また、モース硬度8という高い耐久性を誇りながらも、劈開という割れやすい性質を併せ持つため、加工には高度な技術が求められます。この割れやすさに対応するため、研磨職人はカットの角度を工夫することで強度を補っています。
さらに、市場で広く見られるブルートパーズは、実は無色のトパーズに放射線と加熱処理を施したもの。トパーズならではの成分だからこそ可能な処理であり、同様の処理を他の宝石に施しても同じ発色は得られません。
- トパーズはFタイプとOHタイプに分類される
- 高硬度だが特定方向には割れやすい性質を持つ
- 加工時は職人のカット技術で強度を補完している
- ブルートパーズは放射線と加熱による改変によって得られる
- 三層構造(本質・固有・表面)からトパーズの性質を整理できる