「真珠」と聞くと、どんな形を思い浮かべますか?多くの人が想像するのは、つるんと丸く、艶やかな白い球体ではないでしょうか。けれど実は、真珠の世界はずっと奥深く、驚くほど多彩な形と個性に満ちています。

真円の美しさも素晴らしいですが、少しいびつで、自然なゆらぎを持つ形だからこそ、心惹かれるという人も少なくありません。本記事では、海水パール・淡水パール・ケシ・パールに分けて、真珠の形や種類について丁寧に解説します。

真珠がどうして丸くならないのか?その理由を知ることで、あなたの「真珠を見る目」がきっと変わるはずです。自然の偶然が生み出した造形の美に、ぜひ触れてみてください。

この記事で分かること
  • 真珠の形の種類と名前
  • 海水パールと淡水パールの形の違い
  • ケシ・パールとは何か
  • なぜ真珠は「完全な球体」にならないのか
  • 真珠の魅力が「形の不完全さ」にある理由

まんまるだけではない、海水パールのカタチ

百貨店の宝石フロアや街中にある宝石専門店で目にする真珠のひとつひとつの形は、ほとんど丸い形をしています。このような丸い形の真珠は、真円真珠、あるいは真球真珠、ラウンド真珠と呼ばれています。
真珠という名前を聞いて、多くの消費者が思い浮かべる形は真円真珠です。しかし、流通している真珠の形はいろいろあります。日本真珠振興会では、海水真珠について14種類の形に分けています。
流通している真珠の形はいろいろありますが、消費者が実際に出会う形は限られています。海水真珠では、真円真珠、バロック真珠、サークル真珠、ツイン真珠などです。

バロック真珠

バロックとはフランス語で変わったものという意味です。バロック真珠は異形、変形をいいます。右上の写真(日本真珠振興会、以下同様)はバロック真珠を表しています。球状ではありません。出っ張り部分があります。変わった形をしています。
真円と比較すると、変わった形に見えます。ですから、バロックと呼ばれています。

サークル真珠

サークル真珠は、真珠の外周に筋状の線が見られるものをいいます。右中の写真にはいくつもの筋が見られます。真珠は真珠貝の中にある真珠袋と呼ばれる個所で成長します。この真珠袋の中で真珠が回転しながら成長することで、サークルが形成されると考えられています。
サークル真珠は、アコヤ真珠や白蝶真珠よりも黒蝶真珠に多く見られます。

ツイン真珠

ツイン真珠は、ふたつの真珠が合体したような形状です。ひとつの真珠貝の中に複数個の核を入れた場合、成長過程でふたつの核が接近し、くっついたものです。

真珠の形状について、真円真珠がもっとも高価です。ですから養殖真珠をつくる企業は、丸い球状の核(素材は貝殻)を真珠貝に入れて、できる限り多くの真円真珠を生産するように努力してい
ます。
しかし、真珠貝は生き物ですから、すべてが人間の思い通りになるわけではありません。バロック真珠になることもあり、サークル真珠やツイン真珠になることもあります。

真珠の種類特徴備考
真円真珠ほぼ完全な球体。もっとも高価。ラウンド真珠、真球真珠とも呼ばれる
バロック真珠出っ張りやゆがみがある変形真珠。フランス語の「変わったもの」に由来
サークル真珠外周に筋状の線がある。真珠が回転しながら成長することで形成される。黒蝶真珠に多い
ツイン真珠ふたつの真珠がくっついたような形。複数核を入れた際にできる。
この章のポイント
ラウンド以外にも多様な形がある

淡水パールは、どうして球体にならないの?

淡水真珠の形について、日本真珠振興会は14種類に分けています。淡水真珠とは河川や湖で養殖される真珠のことです。海水真珠に対比される用語です。
最近では真円の大粒の淡水真珠が出回ってきました。

しかし、淡水真珠といえば、多くの人は独特の形をイメージすることと思います。確かに淡水真珠といえば、多くはライス形状(米粒形状)をしています。右上の写真はライス真珠を示しています。

淡水真珠はライス形状の他にフラットと呼ばれる薄い平たい形状もあります。右の写真はフラット真珠を示しています。

淡水真珠は一般に無核です。核は丸く球状に仕上げた貝殻のことです。無核とは、この球状の貝殻を入れないことです。淡水真珠は無核ですから、真円になることは難しいです。
しかし、最近では淡水真珠も真円で大粒が増えてきました。有核真珠が増えてきました。有核とは真珠貝に核を入れて養殖し、その結果、真珠の中心部に丸い球状の核があることです。

項目内容
養殖環境河川や湖
主な形状ライス形(米粒型)、フラット形(平たい形)
無核か有核か主に無核(核を入れない)
真円になりにくい理由核を入れないため、成長時に形が不定形になりやすい
最近の傾向真円で大粒の淡水真珠も出回るようになってきた
この章のポイント
無核が多いため球体になりにくい

小粒で核のないケシ・パール

海水真珠と淡水真珠に関係なく、真珠市場ではかなり小粒の真珠がネックレスなどに使われています。この小粒の真珠の形状はいろいろですが、すべてケシ珠、ケシ・パール、単にケシと呼ばれています。右の写真はアコヤ真珠のケシ珠を示しています。

小粒の真珠はケシと呼ばれていますが、その大きさは2ミリ以下をいいます。2ミリ以下の真珠を表すもうひとつの用語としてシードがあります。シードもケシも同義語ですが、シードは養殖真珠が発明(1907年)される前のヨーロッパで使われていた小粒の天然真珠を意味していました。
今、真珠市場ではケシという用語はふたつの意味で使われています。ひとつは2ミリ以下の小粒の真珠をいう場合、もうひとつは 無核真珠をいう場合があります。最近では、ケシは無核真珠という意味で使われることが多いです。

この章のポイント
小粒で個性的、無核も多い真珠

真の球体ではないから、真珠は人を魅了する

無核真珠といえば、天然真珠を思い浮かべますが、養殖の真珠貝でも無核真珠は生まれます。無核の天然真珠と無核の養殖真珠を識別することは難しいです。ほぼできません。
大珠(直径8ミリ以上)や中珠(6ミリ以上8ミリ未満)の養殖真珠には、中心部に球状の核(素材は貝殻)があります。養殖期間中にこの核の周りに真珠層が形成されます。
中心部に丸い核があるので、出来上がった真珠はすべて真円になると思われますが、生き物の真珠貝の中で真珠がつくられるため、なかなか思い通りにはなりません。真円にならないで、バロック(異形)がたくさん出てきます。
真珠は数ある宝石の中でも特異な存在です。真珠を除いて、ダイヤモンドもルビーもその他の宝石もカット(切断、研磨)されて外形が整えられます。真珠は真珠貝から出て来たままの形です。
真珠は生物がつくり出した宝石です。生物がつくり出すゆえに真円真珠といっても、球体のすべての個所で直径が等しいわけではありません。わずかな直径の違いが生物産の柔らかさを生み出しているかもしれません。
工業製品であるベアリング(鋼球)は、直径がほぼ等しい真の真球です。真珠が真の真球でないところにも人は魅かれるかもしれません。

この章のポイント
不完全さこそが真珠の美しさを生む

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まとめ

真珠の魅力は、その形の多様性にあります。確かに、真円真珠の整った美しさは評価が高く、高価であることも事実です。しかし、自然がつくり出す他の形――バロック、サークル、ツイン、そして小さなケシ――には、工業製品にはない不思議な生命感とぬくもりがあります。

特に淡水パールやケシ・パールのように、無核で生まれた真珠は、唯一無二のフォルムを持ち、それぞれが違う表情を見せてくれます。そして、真の球体ではないからこそ、人はそこに自然のゆらぎや個性を感じ、魅了されるのでしょう。

このように、真珠の世界は「完璧さ」ではなく「自然の美しさ」を感じさせてくれる宝石です。真珠の形の違いを知ることで、もっと自由に、もっと自分らしくジュエリーを選ぶ楽しさが広がっていきます。

この記事のまとめ
  • 海水パールには真円以外の多様な形がある
  • 淡水パールは無核が多く、丸くなりにくい
  • ケシ・パールは小粒で個性的な無核真珠
  • 真珠が完全な球体でない理由は生物由来だから
  • 不完全な形が真珠に独自の美しさを与えている
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