宝石好きの方でも、「ジルコン」と聞いてすぐにその姿が思い浮かぶ方は意外と少ないかもしれません。一方で、「キュービックジルコニア(CZ)」という名前にはピンとくる方も多いのではないでしょうか?しかし、この二つはまったくの別物。ジルコンは天然石、CZは人工石。それぞれ異なるルーツと特性を持っています。
この記事では、ジルコンの魅力を「カット」「原石の形状」「輝き方」「硬度の違い」といった側面から徹底的に解説していきます。ダイヤモンドにも匹敵する輝きを放つ天然石ジルコンの世界を、一緒に覗いてみませんか?あなたの宝石観が少し変わるかもしれません。
- ジルコンとキュービックジルコニアの違い
- ジルコンに最適なカットと輝きの理由
- 原石の形状と変化の過程
- 加熱処理による色の変化とステップ・カットの効果
- ジルコンの硬度や加工時の注意点
Contents
ジルコン≠キュービックジルコニア
キュービック・ジルコニア(略称はCZ)は、世界の多くの人にその名前が知られています。そして、そのCZは外観が極めてダイヤモンドに似ていることで知られています。
さらに、CZは人工的に大量に造られ、かなり低価格であることも知っています。
一方、天然産のジルコンは余り知られていません。宝石の歴史の中で、比較的古い歴史を持つこのジルコンの名前は多くの人に知られていません。
初めてジルコンの名前を聞くと、ジルコンとはCZを短縮して表現する言葉である、と解釈する人もいます。
現在、多くの人は次のような認識を持っています。「ジルコンとCZは同義語(同じ意味の言葉)である」との認識です。
ジルコンは天然石であり、CZは人の手によって造られた人造石です。今、流通しているすべてのジルコンは天然産です。天然石のみを取り扱う宝飾品メーカーのオーナーや天然石にこだわりを持つデザイナーにとって、今後、ジルコンは普及の余地がある素材と言えるかもしれません。
項目 | ジルコン(Zircon) | キュービック・ジルコニア(CZ) |
---|---|---|
素性 | 天然石 | 人工石(合成石) |
流通形態 | 天然産のみ | 工場で大量生産 |
見た目の印象 | ダイヤモンドのように輝くことがある | ダイヤモンドに極めて似た外観 |
知名度 | 比較的低い | 世界的に広く知られている |
価格帯 | 天然石ゆえ価格に幅がある | 非常に安価 |
誤認の原因 | 名前の響きが「ジルコニア」と似ている | CZの略称が「ジルコン」と誤解されやすい |
ジルコンは天然石、CZは人工石。
カットは、ダイヤモンドと同じ「ラウンド・ブリリアント・カット」が最適
ジルコンは高い屈折率(光を曲げる力)を持っています。高い屈折率を持つ宝石は強い輝きを放ちます。高い屈折率を持つ宝石の代表格はダイヤモンドです。ダイヤモンドをラウンド・ブリリアント・カットにすると、まぶしく光り輝きます。
図はラウンド・ブリリアント・カットの上面図(上から見た図)です。
ジルコンも高い屈折率を持っていますので、美しさを最大限に引き出すため、一般にラウンド・ブリリアント・カットの形状に仕上げられます。すると、ダイヤモンドのように光り輝きます。
写真の方はラウンド・ブリリアント・カットに仕上げられたブルー・ジルコンです。このカットの形状によって、輝きと青色が引き出され、美しい魅力ある宝石になっています。
カラーレス(無色透明)・ジルコンも同様にラウンド・ブリリアント・カットの形状に仕上げられます。ジルコンは高い屈折率を持っていますので、このカットの形状によって、上からジルコンに入射した多くの光が戻って来て、光り輝きます。
さらにジルコンは比較的強いファイア(虹色効果)を持っていますので、カラーレス・ジルコンではこのファイアが見られ、より一層美しさが増します。


ジルコンの輝きを最大限に引き出す形。
原石はもともと正方柱か正方錘
ジルコンの原石形状について、原石が理想的に自然界の中で成長すると、図の描画のような形状になります。正方柱(断面が正方形で柱のように伸びた形状)と上下の正方錐(底面が正方形で、ピラミッドのような形)の組み合わせです。

しかし、実際に産出するジルコン原石の多くは、石コロのような丸みを帯びた形状です。右の写真は石コロ状のジルコン原石を示しています。産出する多くのジルコンの色は褐色や赤褐色です。
正方柱と正方錐を持っていた初期のジルコンは、数千万年あるいは数億年という長い年月の間に地球の熱や圧力の変動にさらされ、風雨にさらされて、形が丸みを帯びて石コロのように変わってしまいました。

観点 | 理想的な原石形状 | 実際に産出する形状 |
---|---|---|
外観 | 正方柱+正方錘の組み合わせ | 丸みを帯びた石コロ状 |
成因 | 自然界で理想的に成長した状態 | 長年の熱・圧力・風雨の影響を受けた形状 |
典型的な色 | 記載なし(色についての直接の記述なし) | 褐色または赤褐色 |
解説のニュアンス | 図に描かれるような理想的な姿 | 写真に示された、現実の石コロ状 |
自然の力で丸みを帯びた形に変化。
ステップ・カットでも輝きを放つ
ジルコンは多彩な色を持っています。市場で流通しているジルコンの色はブルー(青色)が主力です。この他にカラーレス(無色)も見られます。
市場で見られるほとんどのブルー・ジルコンやカラーレス・ジルコンは、加熱処理されたものです。
写真にある褐色あるいは赤褐色の原石を加熱処理すると、ブルー(青色)やカラーレス(無色)が得られます。
最近では、原石を加熱処理しないで、原石の色である褐色や赤褐色をしたラウンド・ブリリアント・カットのジルコンも流通しています。このカット形状にすると、かなりの輝きが得られ、外観はブラウン・ダイヤモンドに似ています。下の写真はブラウン・ジルコンを示しています。
ジルコンは高い屈折率を持つことから、カット形状はラウンド・ブリリアント・カットにすると、その特質を最大に引き出すことができます。
ジルコンのカット形状はラウンド・ブリリアント・カットが多いですが、市場にはステップ・カットも見られます。
右の写真(最下段)は黄褐色のジルコンです。ジルコンは屈折率が高いので、ステップ・カットの形状にしても他の宝石よりは輝きを放ちます。


加熱処理で色が変化し輝きが増す。
ダイヤモンドのように堅くはない。
ジルコンの外観はダイヤモンドに似ていますが、ダイヤモンドのような硬さと靱性(じんせい、粘り強さ)はありません。
ですから、ガードル(最大外径の個所)の厚さを余り薄くすることは好ましくありません。
またラウンド・ブリリアント・カットにおいて、パビリオン(ガードルの下部)にあるキュレット(先端個所、右図参照)の形状を鋭利にすると、欠けを生じる恐れがありますので、少し鈍角(どんかく、緩やかな角度)にする工夫が必要です。
その工夫のひとつにファセット(平らな研磨面)を追加することがあります。キュレットの周りに8面のファセットを追加すると、キュレットが鈍角になり、欠けを防ぐ役目をします。

ジルコンは宝石の中で最も年齢が古いと考えられています。約40億年前に生まれたと推測されています。ダイヤモンドは約10億年前から約30億年前の間に生まれたと考えられています。
ジルコンは地球が誕生してから間もなくして生まれた宝石と言えます。ダイヤモンドよりも先輩の宝石です。
今、流通している人造石であるCZ(キュービック・ジルコニア)は、1年前あるいは5年前、さらに10年前、さらに数十年前に造られたかもしれませんが、いずれも歴史は浅く、年齢は若いです。
天然石であるジルコンは、CZを圧倒するほどの歴史、年齢を持っています。ペンダント・トップやイアリングに使用されたブルー・ジルコンの青色の奥には、長い地球の歴史が秘められている、という想いを馳せると、ジルコンを見る価値観が変わるかもしれません。
硬度が低いため加工時には工夫が必要。
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まとめ
ジルコンは、その名前の響きから人工石と混同されがちですが、実は地球上で最古ともいわれる天然石です。ラウンド・ブリリアント・カットを施せば、ダイヤモンドに匹敵するほどの美しい輝きを放ち、ファイア(虹色効果)まで楽しめます。加熱処理による色の変化、そしてステップ・カットによる多彩な表現も魅力のひとつです。
一方で、ジルコンはダイヤモンドのような高い硬度を持たないため、カット時には欠けやすさに配慮が必要です。適切な加工が施されていれば、その美しさは十分に保たれ、ジュエリーとして高い価値を発揮します。
ジルコンの持つ歴史的背景と自然が育んだ造形美は、ただの代替石では語れない深い魅力を秘めています。
- ジルコンは天然石、CZは人工石で異なるもの。
- 最も輝きを引き出すのは「ラウンド・ブリリアント・カット」。
- 原石は正方柱や正方錐で、自然により丸く変化。
- 加熱処理で色が変化し、ステップ・カットでも輝く。
- 硬度が低いため、加工には細心の注意が必要。