はじめに

まるで農具の「楔(くさび)」のような、平たくシャープな形。それが、華やかな輝きを放つ宝石「スフェーン」の、生まれ持った原石の姿です。

ダイヤモンドが正八面体、ルビーが六角柱であるように、宝石の原石の形は、その石が何であるかを示す重要な手がかりとなります。スフェーンという名前も、この特徴的な「楔形」に由来しているのです。

この記事では、スフェーンの語源となった原石の形から、その宝石としての「硬度」という、もう一つの重要な特性までを掘り下げて解説します。なぜスフェーンは柔らかいと言われるのか?ジュエリーとして楽しむにはどんな工夫が必要なのか?この記事を読めば、スフェーンの成り立ちと物理的な性質を理解し、より賢く、そして安全にその輝きを楽しむ方法を知ることができるでしょう。

この記事で分かること
  • スフェーンの名前の由来となった「楔(くさび)形」の原石
  • ダイヤモンドやルビーなど、他の宝石の原石の形との違い
  • スフェーンが「柔らかい宝石」と言われる理由とモース硬度
  • スフェーンをジュエリーとして安全に楽しむための選び方

名前の由来となった「楔(くさび)」形の原石

スフェーン(Sphene)という名前は、ギリシャ語で「楔(くさび)」を意味する “Sphenos” に由来します。その名の通り、スフェーンの原石は、平たくて端が尖った、特徴的な楔の形をして産出することが多いのです。

スフェーンの理想的な原石形状
スフェーンの理想的な原石形状
ダイヤモンドの原石形状(正八面体)
ダイヤモンドの原石形状

これは、ダイヤモンドの原石が正八面体、ルビーやエメラルドが六角柱で産出するのと同様に、その鉱物固有の結晶構造を反映しています。かつて分析機器が未発達だった時代には、こうした原石の形が、石の種類を特定する重要な手がかりとされていました。

この章のポイント
スフェーンの名前は、その特徴的な「楔(くさび)形」の原石に由来する。原石の形は、宝石の種類を特定する手がかりとなる。

スフェーンの硬度 – なぜ「柔らかい」と言われるのか –

スフェーンは、その華やかな輝きとは裏腹に、物理的な性質として「柔らかい」という特徴を持っています。これは、宝石の傷つきにくさを示す「モース硬度」が関係しています。

宝石として日常的に使用する上で望ましい硬度の目安は「7」とされています。これは、空気中のホコリなどに含まれる石英(クォーツ)の硬度が7であるため、それより硬ければ傷がつきにくいと考えられるからです。

スフェーンのモース硬度は「5.5」。これは、硬度の目安である7を大きく下回ります。そのため、スフェーンは他の多くの宝石に比べてスリ傷がつきやすく、「柔らかい宝石」と位置づけられているのです。

モース硬度代表的な宝石硬度のレベル
10ダイヤモンド非常に硬い
9コランダム(ルビー、サファイア)硬い
7クォーツ(水晶)日常使いの目安
6.5ペリドットやや柔らかい
5.5スフェーン、ガラス柔らかい
表1:主な宝石のモース硬度の比較
この章のポイント
スフェーンのモース硬度は5.5と低く、日常使いの目安である硬度7を下回るため、「柔らかく傷つきやすい」宝石に分類される。

特性を活かしたジュエリー選びのポイント

スフェーンの「柔らかさ」を考慮すると、その輝きを長く楽しむためには、ジュエリーの選び方に少し工夫が必要です。また、その柔らかさは、カットされたルースの形状にも影響を与えます。

硬度や靱性(割れにくさ)が高くないため、スフェーンは先端が鋭利なスクエアカットやトリリアントカットにされることは少なく、欠けにくいラウンド(丸)、オーバル(楕円)、クッション(角丸四角)といった形状が多く見られます。

ジュエリーとして身に着ける際は、最も衝撃を受けやすいリング(指輪)は、どうしても傷のリスクが高くなります。そのため、スフェーンの輝きを最も安全に楽しむには、ペンダント・トップやイアリング、ピアスがおすすめです。

もしリングとして楽しみたい場合は、フォーマルな場など、非日常的な場面での使用に留めるか、石の周りを地金でしっかりと保護するようなデザインを選ぶと良いでしょう。

この章のポイント
スフェーンは柔らかいため、欠けにくい丸みのあるカットが多い。ジュエリーは、衝撃の少ないペンダントやピアスが最適。

まとめ

スフェーンは、その名前の由来となった「楔形」の原石から生まれる、ユニークな成り立ちを持つ宝石です。その最大の魅力である圧倒的な輝きの一方で、モース硬度5.5という「柔らかさ」も併せ持っています。

このはっきりとした長所と短所を理解することが、スフェーンという宝石の真の個性を知る鍵となります。そのデリケートな性質を理解し、ペンダントやピアスなど、適したジュエリーとして大切に扱うことで、スフェーンの比類なき輝きは、長くあなたの日常を彩ってくれることでしょう。

この記事のまとめ
  • スフェーンの名前は、特徴的な「楔(くさび)形」の原石に由来する。
  • モース硬度は5.5と低く、傷がつきやすい「柔らかい」宝石である。
  • そのため、ルースは欠けにくい丸みのある形状にカットされることが多い。
  • ジュエリーとして楽しむなら、衝撃の少ないペンダントやピアスが最もおすすめ。
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