ムーンストーンだけではない、「長石」の形
宝石にあまり興味がない人でも、ムーンストーンという名前はどこかで聞いたことがあると思います。ダイヤモンドと共にムーンストーンは広く知られている宝石のひとつです。ムーンストーンは他の宝石で見られない独特の外観を持っています。
ムーンストーンの日本名(和名)は「月長石」と呼ばれています。ここで使われている長石は鉱物の一種です。長石は大地に広く分布しています。ムーンストーンの本体は長石で構成されています。長石で構成されている宝石は、ムーンストーンの他にラブラドライト、サンストーン、アマゾナイトなどがあります。
ムーンストーンやラブラドライトの本体は長石で構成されています。長石は強い劈開を示します。劈開とはある一定の力が加えられると、特定の方向で容易に割れる性質のことです。ですから平らな面を持つファセットよりも丸みをもたせた形状が力を分散させ、割れの発生を抑える役割を果たします。
塊状に算出する原石
ムーンストーンやラブラドライトの原石の形状について、水晶の原石のように美しく成長した形状の原石はほとんどありません。劈開で部分的な平らな面を持っていることはありますが、下記写真のように塊状で産出します。
ムーンストーン | (写真出所:GIA) |
ラブラドライト | (写真出所:AliExpress) |
サンストーン | (写真出所:Etsy) |
アマゾナイト | (写真出所:GeryParent) |
いずれの原石も部分的に平滑面を示している個所はありますが、ほとんどが塊状で産出します。
薄層が積み重なったラメラ構造
ムーンストーンの本体は長石で構成されています。そしてラブラドライトやサンストーン、アマゾナイトも本体は長石です。
特にムーンストーンやラブラドライトは、他の宝石で見られない独特な外観(色)を示します。この独特な外観は長石に原因していると推測されます。鉱物学者達や宝石学者達は、これらの宝石の中で長石が特殊な構造(形状)をしている、ということを解明しました。それはラメラ構造と呼ばれているものです。
ラメラ(Lamella)とは薄層という意味です。ここではムーンストーンの内部を細かく観察してみます。
右上図はカボッション・カットされたムーンストーンの断面図です。長方形の個所の細部を観察すると、右下図のように薄層が積み重なっている構造です。
宝石に関係する長石は3種類あります。正長石と曹長石と灰長石です。ムーンストーンにはこれらの中の2種類、正長石と曹長石が深く関わっています。
右下図において、白色薄層は正長石を表しています。灰色薄層は曹長石です。図のように正長石と曹長石が交互に積層、いわゆるラメラ構造を形成しています。
各薄層の干渉により生み出される美しい光
そして各薄層が光の波長(400~700ナノメーター)に近い薄さになると、この薄層に入射した光は干渉を起こします。ムーンストーンの薄層は比較的厚めですので、干渉色は白っぽくなります。青色のムーンストーンの薄層は比較的薄めと思われます。
日常で容易に観察できる干渉色はシャボン玉の色です。シャボン玉は水の薄層に空気が接しています。屈折率が異なる水の薄層と空気が接すると、光が干渉して干渉色が見られます。シャボン玉の干渉色は多彩(赤色、橙色、黄色など)です。水の薄層の厚さでいろいろな色が見られます。
ムーンストーンも異なる屈折率を持つ正長石と曹長石の薄層が接しています。ですからシャボン玉のように光が干渉を起こします。しかし両長石の薄層の厚さが比較的厚く、干渉色は白っぽい色になっています。
ムーンストーンの内部は薄層が積層した形状(構造)になっています。ムーンストーンの内部は特殊な構造をしています。異なる組成の長石が薄層で接しています。
ムーンストーンの構成鉱物である正長石と曹長石は、高温の状態では完全に混じり合っていますが、徐々に冷却される過程で正長石と曹長石の薄層となって分離します。
ムーンストーン他のラブラドライトやサンストーン、アマゾナイトも異なる2種類の長石で構成されています。これらの石も高温から徐々に冷却される過程で異なる長石の薄層に分離します。
異なる組成の薄層が接していると、干渉現象が起こります。干渉現象が起こると、干渉色が見られます。干渉色は薄層の厚さによって白っぽくなったり、青色味、さらに虹色になったりします。ムーンストーンやラブラドライトなどの内部は、大自然の中でつくられた薄層が積層しています。この薄層構造(形状)が私達に美しさを提供しています。