アデュラレセンス

ムーンストーンにおいて、本体から少し浮いたように見える乳白色や淡青色を示す現象のことです。角度を変えて見ると、中央の乳白色のぼんやりした帯がわずかに移動することもあります。この移動はモバイル・リフレクションまたは浮動性と呼ばれています。
ムーンストーンに見られる光の独特な現象は光の干渉に原因しています。ムーンストーンの本体は正長石と曹長石で構成されています。
高温状態において両長石は均一に溶融していますが、温度の低下と共に両長石が分離して極めて薄い層を形成します。この層は正長石と曹長石が交互に積層した構造となります。各層の厚さは光の波長(400nm~700nm)に近い極めて薄い層です。
屈折率が異なる薄層が接していると、光の干渉現象が起こります。この現象の身近な例としてシャボン玉が挙げられます。
シャボン玉は極めて薄い水の層と空気が接しています。水の屈折率は1.33、空気の屈折率は1.00で屈折率が異なります。シャボン玉に光が入射すると、光が干渉して虹色が見られます。
ムーンストーンも屈折率が異なる正長石と曹長石が薄層で接しています。シャボン玉と同じ原理でムーンストーンでも光が干渉して発色します。しかし、薄層が少し厚いと白色になります。より薄くなると、青色が見られるようになります。
シャボン玉では時間の経過と共に水の層が薄く変化し、その過程で虹色が見られます。
しかし、ムーンストーンでは本体を構成している両長石の厚さの変化はありません。時を経ても厚さは変化しません。ムーンストーンを構成している両長石の厚さは、両長石が生まれたときの初期の厚さのままです。両長石の厚さはシャボン玉と比較すると、かなり厚いと思われます。それゆえ、虹色に発色しないで乳白色となります。両長石が生成するときにより薄い層であれば、美しい青色が見られます。
アデュラレセンスは正長石と曹長石の薄層による光の干渉で起こる現象です。ムーンストーンは、数ある宝石の中でも珍しい現象を持つ宝石と言えます。

ラブラドレセンス

ラブラドライトにおいて、青緑色や青色、緑色の閃光(瞬間的、特定方向できらめく光)を示す現象のことです。ラブラドライトの発色と閃光はなぜ起こるのでしょうか。
発色はムーンストーンと同じ光の干渉です。ラブラドライトは灰長石と曹長石の薄層で構成されています。
宝石に深く関係する長石は3種類です。正長石と曹長石と灰長石です。ムーンストーンは正長石と曹長石で構成されています。ラブラドライトは灰長石と曹長石で構成されています。
ラブラドライトを構成する両長石(灰長石と曹長石)は高温状態では均一に溶け合っています。低温になる過程で離溶し、灰長石と曹長石の薄層を形成します。
この薄層はムーンストーンの薄層よりも薄いと推測されます。より薄くなると、白色とならないで青緑色などに発色します。
しかしラブラドライトが閃光を示すことは、灰長石と曹長石の薄層による干渉色だけでなく、他の原因も推測されます。
ラブラドライトには微細な板状のインクルージョン(酸化鉄)がよく見られます。こ板状のインクルージョンに光が当たると、特定の方向に反射されます。特定の方向で反射光が見られることは閃光を意味しています。

ラメラ構造

ラメラ(Lamella)とは薄層という意味です。ラメラ構造とは薄層が積層している状態のことです。ムーンストーンやラブラドライトの特殊な光の効果の原因はラメラ構造に因ります。

右図はムーンストーンやラブラドライトの内部を拡大した模式図です。下側の図を見ると、白色の薄層と灰色の薄層が交互に積層しています。
例えば、ムーンストーンにおいては白色薄層が正長石、灰色薄層が曹長石となります。ラブラドライトにおいては白色薄層が灰長石、灰色薄層が曹長石となります。

ただしムーンストーンの場合、白色薄層はアルカリ長石という指摘もあります。ラブラドライトの場合、灰色薄層はアンデシンという指摘もあります。
異なる化学組成の物質が相互に接して、薄層の場合は光の干渉現象が起こります。身近な例ではシャボン玉が挙げられます。シャボン玉は石鹸水の薄層と空気が接しています。石鹸水の薄層が光の波長に近くなると、虹色が見られます。
シャボン玉と同じく異なる長石同士が薄層で接すると、光の干渉現象が起こります。
長石の薄層が光の波長に近い厚さになると、虹色現象が生じます。しかし、厚さが少し厚いと白色となります。
ムーンストーンもラブラドライトもラメラ構造を持っています。この構造が独特な光の効果を生み出しています。

長石

長石は石英と共に大地を構成する重要な鉱物です。長石には多くの種類があります。しかし、宝石に密接に関係する長石は3種類です。正長石と曹長石と灰長石です。
正長石はカリウム長石とも呼ばれ、カリウム(K)成分を含んでいます。曹長石はナトリウム長石とも呼ばれ、ナトリウム(Na)成分を含んでいます。灰長石はカルシウム長石とも呼ばれ、カルシウム(Ca)成分を含んでいます。
正長石と曹長石はお互いに溶け合ってアルカリ長石を形成します。灰長石と曹長石は相互に溶け合って斜長石を形成します。正長石と灰長石はほとんど溶け合いません。

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