エメラルドに代わるグリーンの宝石

ペリドットは手頃な価格の緑色系の透明な宝石として広く知られています。緑色系の代表的な宝石はエメラルドです。エメラルドは多くの人に知られていますが、高価格であるために容易に購入できる宝石ではありません。
そこで、緑色系の宝石が欲しいと考えているユーザーにとって、比較的安価なペリドットが購買の対象になってきます。メーカー側は需要に応えて、市場にさまざまなペリドットの宝飾品を投入しています。
緑色系の透明な宝石はペリドットやエメラルドの他にグリーン・ダイオプサイド、グリーン・トルマリン、グリーン・ジルコン、グリーン・サファイアなどが挙げられます。
ペリドット以外の緑色系の宝石は、エメラルドを除いてあまり名前が知られていません。価格の点でも手頃な価格のペリドットに及びません。

ペリドットの色といえば、一般に黄緑色です。黄色を帯びた緑色です。ペリドットの色は古くからオリーブの色にたとえられて来ました。英語の書籍ではペリドットの色をオリーブ・グリーンと表示していることが多いです。右の写真はオリーブの実を示しています。確かにペリドットの色はオリーブの実の色に似ています。
ペリドットの色の標準は黄緑色ですが、少し黄色寄りとかなり緑色寄りも産出します。右の写真は黄色寄りのペリドットとかなり緑色寄りのペリドットを示しています。
市場での需要は黄色寄りよりも緑色寄りが高いです。価格も緑色寄りがより高いです。

比較的珍しい自色宝石

宝石業界で使われるペリドットの名前は、鉱物業界ではオリビンと呼ばれています。オリビンはオリーブから生まれた言葉です。ペリドットとオリビンとオリーブは色においてそれぞれ密接に関係しています。
ペリドットの日本名(和名)はカンラン石です。カンランの漢字は難しいですが、その漢字はオリーブを意味しています。オリーブの英語に対してカンランと名付けたのは幕末の頃でした。以後、現在までオリーブの漢字はカンランという表記になっています。漢字の元である中国でもカンランはオリーブを表します。ペリドットの色がオリーブに似ていることから、日本名はカンラン石と呼ばれるようになりました。
ペリドットの色は黄緑色を中心にして余り変化しません。変化しても緑色を帯びた黄色から濃い緑色までです。宝石の中では比較的珍しいことです。
例えば、ルビーとサファイアの本体は同じコランダムと呼ばれる組成で構成されています。この無色透明なコランダムに微量のクロム元素が混入すると、赤色のルビーになります。そして無色透明なコランダムに微量の鉄元素とチタン元素が混入すると、青色のブルー・サファイアになります。
その他にエメラルドとアクアマリンの本体は同じベリルと呼ばれる組成で構成されています。無色透明なベリルに微量のクロム元素が混入すると、緑色のエメラルドになります。そして無色透明なベリルに微量の鉄元素が混入すると、水色のアクアマリンになります。(クロム元素は本体の構造によって、赤色に発色したり、緑色に発色します。)
多くの宝石は本体が同じでも、赤色や青色、緑色や水色とかなり異なる色で産出します。
特にサファイアはブルー・サファイア、イエロー・サファイア、バイオレット・サファイアと多様な色に変化します。またトルマリンにおいてもレッド・トルマリン(ルベライト)、ピンク・トルマリン、グリーン・トルマリン、ブラウン・トルマリンなど多種類の色が見られます。
多くの宝石の色は、本体に微量の不純物(クロム、鉄など)が混入することによって生じます。ところが、ペリドットの発色は異なります。ペリドットは本体自身によって発色しているのです。このような宝石は自色宝石と呼ばれています。宝石の中では珍しい存在です。自色宝石はペリドットの他にターコイズ(トルコ石)やマラカイト(孔雀石)などが挙げられます。
自色宝石の対比語として他色宝石があります。ほとんどの色がついた宝石は他色宝石に該当します。本体に他のもの(不純物)が混入することで発色します。ルビーもサファイアもエメラルドもアクアマリンも他色宝石です。
ペリドットの発色は鉄に原因していますが、その鉄は不純物として存在しているわけでなく、本体を構成しています。それゆえに自色宝石と呼ばれています。鉄の割合によって緑黄色から緑色まで変化すると推測されています。鮮やかな緑色のペリドットは、鉄の他にニッケルが存在することで、発色が助長されていると考えられています。

上質な緑のペリドットは、エメラルドと酷似

宝石業界では、時に黄色味が強いペリドットをクリソライトと呼ぶこともあります。以前にペリドットのことを欧米ではクリソライトやオリビンと呼んでいましたが、その後に統一されてペリドットと呼ぶようになりました。その名残でクリソライトが使われ続け、黄色系のペリドットに対してのみ、クリソライトと呼ぶ宝石業者もいます。
緑色のペリドットは外観がエメラルドに似ています。昔、クレオパトラ(古代エジプトの女王)が好んだといわれる多くのエメラルドの中にペリドットが混入していたのではないか、と指摘する宝石学者もいます。
確かに昔も今もエジプトに近い紅海にあるセント・ジョーン島で緑色の上質なペリドットが産出します。地理的にはエジプトに近いこと、外観的にはエメラルドに似ていることなどを考えると、古代ではエメラルドの中にペリドットが混じっていた可能性は高いと推測されます。
現代においても対面の方の胸に光る緑色のペンダント・トップを見て、エメラルドと思っても、実はペリドットかもしれません。

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