キャッツアイだけではない、光条によるスター効果

宝石を上から観察すると、楕円形のカボッション・カット(山形形状)の表面に白い光の帯が複数本(2本以上)見られることがあります。スター(星)のような感じを受けることから、このような石はスター・ストーンと呼ばれています。
石の表面にスターが見られる現象はスター効果、日本語では「星彩効果」と呼ばれています。キャッツ・アイ効果と共に宝石に見られる特殊な効果のひとつです。特殊な効果ですから、あらゆる宝石に普通に見られる現象ではありません。

スター・ストーンとして最も知られている宝石はスター・ルビーです。赤色の地色の上に6本の白い帯が現れます。中心から6本の白い帯が外に放射状に伸びています。この白い帯は光条(こうじょう)と呼ばれています。右図は赤色の地色に白い光の帯、光条を模式的に表したイラスト図です。
右下の写真は実際にカボッション・カットされたスター・ルビーを示しています。(写真出所:GIA)
この写真での地色はパープル(赤紫色)に見えますが、ルビーに分類されています。
透明度が高く、より鮮やかな赤色は天然においては極めて希です。

光条がはっきりしていることは高い評価につながります。そして光条が周辺部まで長く伸びていることも評価を高めます。
赤色の発色原因は微量に含まれるクロム元素によります。この他にチタン元素や鉄元素などが含まれています。チタン元素は細長いルチル結晶となって光条を発現する役目を果たしています。他方、チタン元素は鉄元素と共に青色の発色原因にもなります。それゆえ、このチタン元素と鉄元素の存在は鮮やかな赤色に発現することを妨げていると推測されます。

美し過ぎる合成スター・ルビー

スター・ルビーについて、合成スター・ルビーも市場に流通しています。鮮やかな赤色をしています。そしてスターの発現がより明瞭です。ですから、多くの人は合成スター・ルビーを一目見たとき、美しくて珍しいと感じます。天然スター・ルビーと比較して、合成スター・ルビーは美し過ぎるほど美しいです。
合成スター・ルビーではかなり透明度があるものも造られています。その石は天然スター・ルビーでは見られない透明感があります。そしてスターもシャープです。
天然スター・ルビーを長年にわたって取り扱っている方には、天然と合成の差異が容易に判ります。初めての方でも天然と合成の差異について、説明を受ければなるほどと納得されると思います。
天然スター・ルビーと合成スター・ルビーの差異について、外観では赤色の鮮やかさが違います。合成スター・ルビーは鮮やかな赤色をしています。そして合成スター・ルビーは石全体に透明感があります。天然スター・ルビーはこれらの点においてかなり劣ります。
天然スター・ルビーと合成スター・ルビーを見分けるひとつの方法として、赤色の鮮やかさの程度や透明感の違いの他に、形状を見比べることが挙げられます。
天然スター・ルビーのすべてはダブル・カボッション・カットです。一方、合成スター・ルビーのほとんどはシングル・カボッション・カットです。
ダブル・カボッションとはガードルの上下とも山形をしていることです。シングル・カボッションとは上部が山形で、ガードルの下部は平面です。故意に欺く意図でカットしない限り、合成スター・ルビーはシングル・カボッション・カットにすることが一般的なことです。

3方向に分布するルチル結晶

ここで少しスターが発現する理由について述べます。細長いルチル結晶が3方向に分布すると、6本のスターが現れます。この原理の説明にはしばしば糸巻き駒が引き合いに出されます。

糸巻き駒に巻かれた絹糸を観察すると、右の写真のように1本の光条が見られます。
水平方向に青い細い糸が無数に巻かれています。この糸の方向に直角に白い帯(淡い青色を帯びた白い帯)が見られます。
宝石においては、この糸をインクルージョン(異物)に置き換えます。スター・ルビーの場合、インクルージョンは細長いルチル結晶です。ルチル結晶が平行にたくさん分布していると、その結晶に直角に光条が現れます。

実際のスター・ルビーにおいてはルチル結晶が3方向に分布しています。ですから3方向に分布しているルチル結晶に対してそれぞれ直角に光条が現れます。その結果、6本のスターが出現します。

赤いスター・ルビーと青いスター・ブルー・サファイア

スター・ストーンの代表的な宝石としてスター・ルビーの他にスター・ブルー・サファイアが挙げられます。

右の写真は天然の美しいスター・ブルー・サファイアです。(写真出所:Chip Clark)
地色は鮮やかな青色です。そして透明感もあります。6本スターが明瞭で周辺まで伸びています。
この石の白い光条は多数の筋を伴っています。ルチル結晶の分布が少し粗いと推測されます。筋状の光条は天然石の証しとも言えます。

スター・ストーンとして赤色のスター・ルビーや青色のスター・ブルー・サファイアはよく知られていますが、この他に外観が黒色のスター・ブラック・サファイアは廉価な価格で広く出回っています。また低価格の黒色のスター・ダイオプサイドにも出会う機会が多いと思われます。
スター・ストーンは宝石の中でも特異な存在です。平行なインクルージョンが2方向以上に分布する必要がありますので、自然界の中でもなかなか機会は少ないと推測されます。スターが現れる石に私達が接したとき、この石の奥に大自然が造り出したインクルージョンが平行に分布していることを知ると、ますます石の不思議さに魅了されるかもしれません。

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