はじめに

サファイアのような深い青、タンザナイトのような神秘的な紫。アイオライトは、そんな高級宝石にも見劣りしない美しい色合いを持ちながら、比較的手に入れやすい価格で注目を集めている宝石です。

しかし、その見た目が似ているがゆえに、「この石は本当にアイオライト?」「サファイアやタンザナイトとはどう違うの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

実は、これらの宝石を見分けるには、プロが使う確かな「コツ」があります。その最大の鍵を握るのが、アイオライトが持つ「多色性」という特別な性質です。

この記事では、アイオライトと、ブルー・サファイア、タンザナイト、アメシスト、さらにはガラスの模造石まで、それぞれの違いと見分け方を徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたも宝石のプロのように、それぞれの石が放つ個性を見抜けるようになるでしょう。

この記事で分かること
  • アイオライト鑑別の最大の鍵「多色性」の観察方法
  • アイオライトとブルー・サファイアの決定的な違い
  • ペンライトで簡単に見分ける、アイオライトとタンザナイトの違い
  • アメシストやガラス模造石との簡単な見分け方
  • プロも使う鑑別ツール「二色鏡」の便利な使い方

VS ブルー・サファイア │ 見極めの鍵は「淡黄色」の有無

まず、アイオライトとブルー・サファイア。どちらも美しい青色ですが、色の質や性質に明確な違いがあります。

サファイアの青が鮮やかであるのに対し、アイオライトの青は少し落ち着いた、すみれ色がかったような色合いが特徴です(鉄とチタンを含む場合はサファイアに近い色になることもあります)。

しかし、最も確実な見分け方は「多色性」を観察することです。多色性とは、石を見る角度を変えると異なる色が見える現象を指します。アイオライトとサファイアは、どちらも強い多色性を持ちますが、見える色が異なります。

アイオライトブルー・サファイア
多色性の種類三色性二色性
見える色青色、紫青色、淡黄色青色、緑青色(または黄青色)
鑑別の決め手石の側面から淡黄色が見える淡黄色は見られない
表1:アイオライト vs ブルー・サファイア 多色性の比較

10倍ルーペなどで石の側面(ガードル)から覗き込んだとき、はっきりと淡い黄色が見えたら、それはアイオライトの決定的な証拠です。この「淡黄色」の有無が、両者を見分ける最大のポイントになります。

この章のポイント
アイオライトとサファイアは、多色性で見える色が異なる。石の側面から「淡黄色」が見えたらアイオライト。

VS タンザナイト │ ペンライトで一目瞭然

次に、紫がかった青色が美しいタンザナイトとの見分け方です。この2つの石の鑑別には、白熱電球のペンライトを使うと非常に効果的です。

白い紙の上に2つの石を置き、ペンライトの光を当ててみましょう。光の種類によって色が変わって見える「変色効果」を持つタンザナイトは、赤みのある光の下で紫色が強く現れます。一方、アイオライトに色の変化は見られません。

アイオライトタンザナイト
ペンライト(白熱灯)色の変化なし紫色が強く見える
多色性(側面から)淡黄色が見える淡青色、青紫色などが見える
鑑別の決め手ペンライトで色が変わらず、多色性に淡黄色が見えるペンライトで紫色が強くなり、多色性に淡黄色は見られない
表2:アイオライト vs タンザナイト 鑑別ポイントの比較

さらに多色性を確認すれば、鑑別はより確実になります。タンザナイトの多色性には、アイオライトのような淡い黄色は現れません。ペンライトでの反応と、多色性での「淡黄色」の有無。この2つのステップで、両者を簡単に見分けることができます。

この章のポイント
ペンライトを当てるとタンザナイトは紫色が強くなるが、アイオライトは変化しない。多色性でも「淡黄色」の有無で区別できる。

VS アメシスト&ガラス │ 多色性の「強弱」と「有無」で判別

紫色が強いアイオライトはアメシストに、また安価なガラス模造石も市場には存在します。これらの見分け方も、やはり「多色性」が鍵となります。

アイオライトアメシストガラス(模造石)
多色性の有無有り(強)有り(弱)無し
見える色青、紫青、淡黄色紫、赤紫変化なし
鑑別の決め手はっきりとした多色性(特に淡黄色)が見える多色性が弱く、肉眼ではほぼ分からないどの角度から見ても色が全く変わらない
表3:アイオライト vs アメシスト・ガラス 鑑別ポイントの比較

アメシストにも多色性はありますが、その変化は「弱」く、肉眼で捉えるのは困難です。アイオライトのようなはっきりとした色の変化、特に淡黄色が見られることはありません。

ガラス製の模造石は、そもそも結晶構造を持たないため、多色性もありません。どの角度から見ても色は全く変化しないため、簡単に見分けることができます。

プロのツール「二色鏡」

二色鏡(ダイクロスコープ)の外観

より正確に多色性を見るための便利な携帯ツールが「二色鏡(ダイクロスコープ)」です。これを覗くと中に2つの四角い窓が見え、多色性のある宝石では、この2つの窓に異なる色が現れます。アイオライトなら「紫青色」と「淡黄色」がはっきりと分かれて見えるため、鑑別が非常に容易になります。

この章のポイント
アメシストは多色性が弱く、ガラスには多色性がない。アイオライトの強くはっきりとした多色性(特に淡黄色)が決定的な違いとなる。

まとめ

アイオライトと、見た目が似ている他の青紫系の宝石たち。一見すると見分けるのが難しいように思えますが、その最大の鍵はアイオライトが持つ「強く、はっきりとした多色性」、そしてその中に現れる「淡黄色」にありました。

このポイントさえ押さえておけば、サファイアやタンザナイト、アメシスト、そしてガラスの模造石との違いを自信を持って見分けることができます。宝石を観察するとき、ぜひ角度を変えてみてください。そこに隠された色の変化を見つけ出すことは、宝石の知識を深める大きな一歩であり、その石が持つ本当の個性を知る楽しみにも繋がります。

この記事のまとめ
  • アイオライト鑑別の最大のポイントは、多色性に見られる「淡黄色」。
  • vsサファイア:サファイアの多色性には淡黄色は見られない。
  • vsタンザナイト:ペンライトで紫色が強くなるのがタンザナイト。
  • vsアメシスト・ガラス:アメシストは多色性が弱く、ガラスには多色性がない。
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