サンゴは真珠と並び「海の二大宝石」と称され、どちらも生物が生み出す大変貴重な宝石です。生物起源宝石には、象牙やべっ甲、ジェットなどもありますが、サンゴは「サンゴ虫(コーラル・ポリプ)」という小さな生物によって、長い年月をかけてゆっくりと形成されます。この記事では、サンゴがどのようにしてできるのか、その成長の秘密、美しさの源、そして宝石としての特性について深く掘り下げていきます。一般的に知られる造礁サンゴと宝飾品に使われる宝石サンゴの違いから、赤いサンゴが数百年もの歳月をかけて成長する過程、デリケートで傷つきやすい性質、さらには天然サンゴと模造品を見分けるポイントまで、サンゴの魅力を余すところなくご紹介します。最後までお読みいただければ、サンゴの奥深い世界を知り、その価値をより深くご理解いただけることでしょう。

この記事で分かること
  • サンゴを生み出す「サンゴ虫」とは何か?
  • 赤いサンゴが数百年かけて成長する驚きの過程
  • サンゴが傷つきやすく、取り扱いに注意が必要な理由
  • 天然サンゴと模造品を見分けるためのポイント
  • 様々な種類のサンゴとその特性について

サンゴはサンゴ虫からできている

サンゴ(珊瑚)は、真珠と共に「海の二大宝石」と呼ばれ、どちらも生物が生み出す生物起源宝石です。生物起源宝石には、他にも象牙(象)、べっ甲(海亀)、ジェット(古代の樹木)などがあります。サンゴを生み出す生物は「サンゴ虫(サンゴちゅう)」、英語ではコーラル・ポリプと呼ばれます。サンゴ虫は深い海底に生息しているため、その生態を直接観察することは難しく、まだ不明な点も多いのが現状です。

サンゴは大きく二種類に分類されます。一つは美しい海の景観を形作る「造礁(ぞうしょう)サンゴ」、もう一つは宝飾品として利用される「宝石サンゴ(または貴重サンゴ)」です。これらを作り出すサンゴ虫も種類が異なります。一般的に「サンゴ」と聞いて多くの人がイメージするのは、南国の浅い海に見られるサンゴ礁でしょう。このサンゴ礁を造るサンゴ虫は「六放サンゴ虫」と呼ばれます。一方、私たちがアクセサリーなどで目にする宝石サンゴを造るのは「八放サンゴ虫」という、異なる種類の生物なのです。

この章のポイント
サンゴはサンゴ虫という生物が作る宝石で、景観を作る造礁サンゴと宝飾品になる宝石サンゴではサンゴ虫の種類が異なる

赤いサンゴは数百年かけて成長している

ここでは赤サンゴを例にとり、その本質を探ってみましょう。サンゴの特性を理解するためには、その生成過程や構造を知ることが重要です。サンゴ虫は、イソギンチャクやクラゲを極端に小さくしたような姿をしており、直径1mm前後の円盤状の体に8本の触手を持っています。主な栄養源は海水中のプランクトンなどです。そして、サンゴ虫は海水中のカルシウムイオンと重炭酸イオンを体内に取り込み、サンゴの主成分である炭酸カルシウムの硬い骨格を形成します。

海底の岩などに着床したサンゴ虫は、まず非常に小さな炭酸カルシウムの骨片(大きさ約0.03ミリ)を作り出します。これらの骨片が気の遠くなるような長い年月をかけて堆積し、少しずつ成長することで、私たちが目にする樹木状のサンゴの原木が形成されるのです。これが、いわゆる「炭酸カルシウム骨片集合体」です。

赤サンゴの美しい赤色は、サンゴ虫が摂取するカロテノイドという有機物に由来します。より詳しく言うと、カロテノイドの中でもカンタキサンチン(Canthaxanthin、化学式 C₄₀H₅₂O₂)という色素が発色に関与していると推測されています。これは、ルビーやガーネットの赤色がクロムや鉄といった無機元素によるものであるのとは対照的で、生物起源の宝石であるサンゴならではの発色メカニズムと言えるでしょう。

宝石サンゴの成長速度は極めて遅く、ある研究(長谷川浩氏、岩崎望氏による報告)では、成長軸の断面において半径が1年でわずか0.15ミリしか成長しないとされています。この数値から単純計算すると、大人の小指ほどの太さ(直径約1.5センチ)になるまでに、およそ50年もの歳月が必要となるのです。大きなサンゴがいかに貴重であるかが分かります。

サンゴの三層特性図
項目内容
生成源サンゴ虫(コーラル・ポリプ)
サンゴ虫の生態直径1mm前後、8本の触手を持つ。海水中のプランクトンを栄養源とする。
サンゴの形成海水中のカルシウムイオンと重炭酸イオンを摂り込み炭酸カルシウムの骨片を形成。骨片が堆積し樹木状に成長する。
赤色の発色原因カロテノイド(特にカンタキサンチンと推測される)という有機物。
成長速度非常に遅く、半径0.15mm/年程度。小指大に成長するのに約50年を要する。
この章のポイント
赤いサンゴはサンゴ虫がプランクトンを栄養に炭酸カルシウムの骨格を作り、有機物の色素で赤く色づき、非常にゆっくりと成長する

生き物がゆえに、傷つきやすいデリケートな宝石

サンゴの主成分は炭酸カルシウム(カルサイト)であるため、モース硬度は3程度と非常に低いです。宝石の専門書によっては3.5と記載されていることもありますが、これは純粋な炭酸カルシウムだけでなく、炭酸マグネシウムやタンパク質などがわずかに含まれることで、硬度が少し高まっているためと考えられます。

モース硬度が低いということは、サンゴが非常に傷つきやすいことを意味します。日常的に使用する中で、他の硬い物と接触すると簡単にスリ傷がついてしまう可能性があります。また、強い衝撃にも弱いため、落下させたりぶつけたりしないよう注意が必要です。このようなサンゴの性質(耐衝撃性の低さや不透明であること)を考慮し、サンゴの宝飾品は、表面を滑らかに研磨したカボションカットや、丸いビーズの形に加工されることがほとんどです。

この章のポイント
サンゴは主成分が炭酸カルシウムのため硬度が低く、傷や衝撃に弱いため取り扱いに注意が必要

生き物が生み出す証:模造品との違い

カット・研磨されたサンゴの表面をよく観察すると、微細で精緻な「年輪模様」や「白色の平行線」が見られることがあります。これらはサンゴが成長する過程で形成される生物特有の痕跡であり、天然サンゴであることの証となります。このような複雑な模様は、サンゴの模造品で精巧に再現することは極めて困難であるため、真贋を見分ける際の重要な手がかりとなります。

海の二大生物起源宝石である真珠とサンゴは、どちらも細部を観察すると、人工的には作り出せない特有の構造や組織を持っています。真珠の場合、アラゴナイトと呼ばれる極めて薄い結晶が何層にも重なり合って真珠層を形成しています。一方、サンゴの場合は、赤色の地の中に、前述したような精密な年輪模様や白色の平行線が分布しているのが特徴です。これらはまさに、生命の神秘が織りなす美しさと言えるでしょう。

この章のポイント
天然サンゴには成長過程でできる年輪模様や白色平行線があり、これらは模造品との識別に役立つ

多様なサンゴとそのユニークな特性

これまで赤サンゴを中心に解説してきましたが、桃サンゴや白サンゴも基本的には同様の本質的特性、固有的特性、表面的特性を持っています。これらもすべて、サンゴ虫(コーラル・ポリプ)という生物が生成源です。さらに、黒サンゴもまたサンゴ虫によって作り出されますが、そのサンゴ虫は直径が数百ミクロン(1ミクロンは0.001ミリ)の円盤状で6本の触手を持ち、外観は黒色または暗褐色をしています。そして特筆すべきは、黒サンゴの本体が無機物の炭酸カルシウムではなく、タンパク質やコラーゲンといった有機物で構成されている点です。

また、黒サンゴのサンゴ虫には「アカウズ」と呼ばれる針状の生物が共生していることが知られています。このアカウズ(長さ1ミリ未満、直径1~2ミクロン)は、黒サンゴの成長を早めたり、サンゴ虫を外敵から守ったりする役割を担っていると推測されています。このように、サンゴの世界は非常に多様で、種類によって異なる興味深い特性を持っています。

サンゴ虫のような生物が、炭酸カルシウム(カルサイト)のような鉱物を体内で作り出す作用は、「バイオミネラリゼーション」と呼ばれています。ただし、黒サンゴの場合は本体が有機物であるため、この定義からは除外されます。

この章のポイント
サンゴには赤・桃・白・黒など様々な種類があり、特に黒サンゴは有機物で構成されるなどユニークな特性を持つ

まとめ

サンゴは、サンゴ虫という小さな生物が長い年月をかけて作り上げる、まさに自然の芸術品です。海の景観を彩る造礁サンゴとは異なり、宝飾品として珍重される宝石サンゴは、主に八放サンゴ虫によって形成されます。特に赤サンゴは、その成長に数百年という途方もない時間を要し、その鮮やかな赤色はカロテノイドという有機物によってもたらされます。

一方で、サンゴはモース硬度が低く非常にデリケートな宝石であり、傷や衝撃には注意が必要です。その生物ならではの成り立ちから、天然サンゴには模造品では再現できない年輪模様や白色平行線といった特有の痕跡が見られます。赤サンゴ以外にも桃サンゴ、白サンゴ、そして有機物で構成される黒サンゴなど、種類によって異なる魅力と特性を持つのもサンゴの奥深さです。

サンゴの美しさとその背景にある生命の営みを知ることで、私たちはこの海の宝石の価値をより深く感じることができます。一つ一つのサンゴが持つ個性と、それが育まれた悠久の時間に思いを馳せながら、サンゴジュエリーを選んでみてはいかがでしょうか。

この記事のまとめ
  • サンゴは「サンゴ虫」という生物によって作られる生物起源宝石である。
  • 宝石サンゴの成長は非常に遅く、赤サンゴの色は有機物(カロテノイド)に由来する。
  • サンゴは硬度が低くデリケートなため、傷や衝撃、酸や熱に注意が必要である。
  • 天然サンゴには、年輪模様や白色平行線など、模造品にはない生物特有の痕跡が見られる。
  • サンゴには赤、桃、白、黒など様々な種類があり、黒サンゴはタンパク質などの有機物で構成される。
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