フェルスパーとはクォーツと並ぶよく知られた鉱物

一般の方にとって、フェルスパーという言葉は余り聞き慣れてないと思います。ムーンストーンやラブラドライトについて少し知識を得ようとするとき、フェルスパーという言葉が出て来ます。
フェルスパーの和名(日本名)は「長石」と呼ばれています。鉱物分野の人にとって、フェルスパーはクォーツ(石英)と共によく知られています。
ムーンストーンの柔らかい乳白色、浮いているような淡い青色を生み出しているのはフェルスパーが原因しています。ラブラドライトの青緑色の閃光(一瞬、きらめく光)もフェルスパーが原因しています。
フェルスパーはいくつかの種類があり、それらの種類をまとめてフェルスパー・グループと呼ばれています。宝石に深く関係するフェルスパーは3種類です。
ひとつはオーソクレース(正長石、カリウム長石)、そしてアルバイト(曹長石、ナトリウム長石)とアノーサイト(灰長石、カルシウム長石)です。

フェルスパーの組成を探る

フェルスパーの本質を探るとき、化学組成(成分)を知ることが基本となります。フェルスパーの化学組成はXAlSi3O8またはYAl2Si2O8という式で表示できます。
XはK(カリウム)やNa(ナトリウム)などです。YはCa(カルシウム)などです。化学組成を本質特性として、次にフェルスパーが持つ固溶体、ラメラ構造などの固有特性が続きます。さらにアデュラレッセンスやラブラドレッセンスなどの表面特性を見ることができます。これらの特性(本質特性、固有特性、表面特性)の相互関係は下図のように三層特性図としてまとめることができます。

フェルスパーの化学組成は比較的簡単な式で表せます。
オーソクレースはXの部分にK(カリウム)を入れるだけです。アルバイトはXの部分にNa(ナトリウム)を入れるだけです。
アノーサイトはYの部分にCa(カルシウム)を入れるだけです。

固溶体ってなんだろう?

オーソクレースとアルバイトとアノーサイトはフェルスパーの中の端成分と呼ばれており、お互いに似たような化学式をしています。化学式が似ていると、高温で混じり合うことが知られています。
お互いに混じり合うことは固溶体と呼ばれています。固有特性の中に固溶体という単語が出ています。
3種の端成分は高温で固溶体を形成し、冷却過程で3種は薄層となって分離する現象が見られます。薄層が交互に積層した構造は、ラメラ構造と呼ばれています。このラメラ構造が美しいムーンストーンやラブラドライトを生み出しています。

固有特性では美しい輝きも光沢も見られない

三層特性図の固有特性において、中程度屈折率という単語が挙げられています。フェルスパーの中の端成分(オーソクレース、アルバイト、アノーサイト)は高い屈折率を持っていません。混じり合っても同様に高い屈折率ではありません。ですから、美しい輝きや高い光沢は得られません。
さらに中程度硬度という単語が挙げられています。フェルスパーのモース硬度は6です。目安の硬度7より少し低いです。耐スリ傷性は少し低いですが、ムーンストーンやラブラドライトなどは半透明ですから、スリ傷が発生して余り目立ちません。
結果として、三層特性図の表面特性では光沢普通、耐スリ傷性普通という単語で表示されています。

鍵を握るのは表面特性の「干渉」

三層特性図の表面特性に干渉色という単語が挙げられています。フェルスパーの中の端成分であるオーソクレース、アルバイト、アノーサイトは本質特性に示したように化学式が似ています。類似の化学式を持つ物質は高温で溶け合います。そしてフェルスパーの端成分は冷却過程で薄層となって分離する性質があります。
ムーンストーンではオーソクレースとアルバイトが交互に薄層となって積層し、ラブラドライトではアノーサイトとアルバイトが交互に薄層となって積層します。
異なる化学組成(異なる屈折率)の物質が薄層で接すると、干渉色(虹色)が発生します。干渉色の身近な例はシャボン玉です。シャボン玉は空気と石鹸水の薄膜が接しています。薄膜の厚さが変化する過程で美しい虹色が見られます。
ムーンストーンでは乳白色や淡い青色の干渉色が見られます。この現象はアデュラレッセンスと呼ばれています。ラブラドライトでは青緑色などの閃光色、干渉色が見られます。この現象はラブラドレッセンスと呼ばれています。
干渉色は優しく浮き上がったような感覚を与える不思議な色相です。干渉色を持つ宝石はごく限られています。ムーンストーンやラブラドライトの他に真珠が挙げられます。
真珠の表面は真珠層でおおわれています。真珠層は薄いアラゴナイトと呼ばれている結晶とコンキオリンと呼ばれているタンパク質で構成されています。
2種類の物質(アラゴナイトとコンキオリン)が薄い層で接していると、干渉色が発生します。
身近な宝石として人気があるムーンストーンやラブラドライトの本体はフェルスパーで構成されています。20種類ほどあるフェルスパーの中で、宝石と深く関係しているフェルスパーは3種類です。オーソクレース(正長石)とアルバイト(曹長石)とアノーサイト(灰長石)です。この3種類が薄層となって交互に重なり合っていることに最大の特徴があります。薄層が積層することで干渉色が発生し、私達は美しいムーンストーンやラブラドライトを楽しむことができています。

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