この記事で分かること
  • エメラルドとアクアマリンの共通点と違い
  • ベリルグループに属する様々な宝石の特徴
  • 原石の六角柱の形状が生まれる理由
  • 宝石の色を最大限に引き出すカット技法
  • 希少なトラピチェ・エメラルドの特徴と魅力

エメラルドとアクアマリンの原石は六角柱

緑色のエメラルドと水色のアクアマリンは見た目が大きく異なります。最も明らかな違いはその色彩です。しかし、興味深いことに、これらの宝石の本体は同じものでできています。本体とは宝石自身を形造っている組成(構成しているいろいろな元素の割合)のことです。
エメラルドもアクアマリンも本体は同じベリルと呼ばれるものでできています。不純物を含まないベリルは無色透明であり、その化学式はBe3Al2Si6O18です。
無色透明なベリルが不純物としてクロムという元素を微量に含むと、鮮やかな緑色のエメラルドになります。一方、無色透明なベリルが不純物として鉄の元素を微量に含むと、澄んだ水色のアクアマリンになるのです。ですから、エメラルドとアクアマリンは兄弟姉妹の関係であり、ベリルは親という位置付けになります。

エメラルドとアクアマリンの原石を観察すると、両石とも同じような形をしていることがわかります。断面が六角形で柱状に長く伸びているのです。色はそれぞれ緑色と水色ですが、外観の形は非常に似ています。どちらも六角柱状という特徴的な形状を持っています。

エメラルドの原石

右の写真はエメラルドの原石を示しています。写真の左端の六角形をした黒色味を帯びた緑色の石がエメラルドです。六角形以外は母岩と呼ばれる部分です。母岩とは、エメラルドが地球の中で成長するとき、エメラルドの周りを取り巻くように共に成長した鉱物や岩石のことです。

アクアマリンの原石

右の写真はアクアマリンの原石です。右下から左上に長く伸びた透明な結晶がアクアマリンの原石です。この原石の断面も六角形をしています。この原石以外は母岩です。この写真では、アクアマリンの原石が母岩を貫いているように見えます。
平らな面で囲まれた宝石の原石の断面は特別な形をしています。限られた形をしているのです。

宝石の原石の断面は、三角形、四角形、六角形しかありません。
例えば、トルマリンの原石の断面は三角形です。
ダイヤモンドの原石の断面は四角形です。六角形の断面を持つ宝石の原石は、ここに挙げたエメラルドやアクアマリンです。この他にルビーやブルー・サファイア、水晶などの原石も断面は六角形です。
宝石の原石に見られる美しい形を活かして、原石のままペンダント・トップに用いた宝飾品も流通しています。原石の魅力、自然の魅力を感じている愛好家の方も居られます。

原石の六角柱イメージ

原石の六角柱のイメージは、右の描画の通りです。断面は六角形で柱状に縦に長く伸びています。エメラルドやアクアマリンの原石は、右図のような形状で産出します。地球という大自然が創り出す造形美です。

宝石の種類原石の断面形状主な特徴
エメラルド、アクアマリン六角形ベリルグループに属し、同じ化学組成を持つ
ルビー、サファイア六角形コランダムグループに属し、同じ化学組成を持つ
トルマリン三角形多彩な色のバリエーションを持つ
ダイヤモンド四角形炭素のみで構成された最も硬い宝石
水晶六角形二酸化ケイ素で構成された鉱物
この章のポイント
同じベリルから生まれた兄弟宝石の六角柱形状

カラーを活かすステップカット

エメラルドもアクアマリンも色に特長があります。鮮烈な緑色のエメラルド、さわやかな涼しさが漂う水色のアクアマリン。それぞれの色彩が、これらの宝石の最大の魅力となっています。

ステップカットのイメージ

この色を最大限に美しく引き出せるカット・スタイルはステップ・カットです。ステップ・カットは別名でエメラルド・カットとも呼ばれています。
ステップ・カットの形は右図の通りです。右上図はエメラルドをイメージした描画です。右下図はアクアマリンをイメージした描画です。一般に上から見ると、長方形です。そして長方形の4つの角は、日常使用での欠けを防止するために角落としを施しています。
エメラルドやアクアマリンの色の美しさは、平らな板状でも充分に伝わりますが、光の輝きを加えることで一層映えます。このために右図に見られるような階段状のファセット(平らな研磨面)が付加されています。

多くのインクルージョン(内包物、異物)を含み、透明度が落ちるエメラルドやアクアマリンは、このステップ・カットの形状でなく、丸みを持つカボッション・カット(山形)の形状にされます。透明度が落ちるエメラルドやアクアマリンに対しては、トルコ石に見られるような山形のカット・スタイルが適用され、市場にも流通しています。

カットスタイル特徴適した宝石の状態
ステップカット
(エメラルドカット)
長方形の形状で階段状のファセットを持つ透明度が高く、色鮮やかな石
カボッションカット
(山形)
丸みを帯びた形状で、表面が滑らか透明度が低く、インクルージョンが多い石
ブリリアントカット多数の三角形のファセットを持つダイヤモンドなど高い屈折率を持つ石
この章のポイント
宝石の色を最大限に引き出すステップカット技法

自然の造形美 トラピチェ・エメラルド

トラピチェ・エメラルド

天然産のエメラルドの中に不思議な形をしたエメラルドが、1960年代、南米のコロンビアで発見されました。右の写真のような緑色のエメラルドの本体に6本の黒い線が見られる不思議な形、珍しいエメラルドでした。(写真の出典はGIA)
この不思議な形をしたエメラルドは「トラピチェ・エメラルド」と呼ばれています。トラピチェとはスペイン語で歯車という意味です。この写真を見ると、確かに歯車のように思われます。トラピチェ・エメラルドは、写真のような形の他に中心部に小さな六角形が存在しているものなど、いくつかの違った形も発見されています。

私達が住むこの地球は、私達が予期しない珍しい形をした宝石を創り出し、私達を楽しませてくれます。トラピチェ・エメラルドは、美しいという魅力よりも希少性に価値があります。宝石のコレクターにとっては、今まで集めた宝石の中にさらにトラピチェ・エメラルドを加えたい、と願っている方も多いと思います。

この章のポイント
歯車模様が特徴の希少なエメラルド

ベリル・グループ・ストーンの多様性

ベリル・グループ・ストーンは、ベリルと呼ばれる共通の組成を持っています。無色透明のベリルに微量のクロムが混じると緑色のエメラルドになります。微量の鉄が混じると水色のアクアマリンになります。
ベリル・グループ・ストーンにはこの他に黄色から黄金色のヘリオドール、ピンク色のモルガナイトなどがあります。
ベリル・グループ・ストーンの原石の形状は、いずれも六角柱状です。三角や四角の柱状になることはありません。

ベリルの種類含有不純物
エメラルド鮮やかな緑色クロム
アクアマリン澄んだ水色
ヘリオドール黄色~黄金色鉄(異なる原子価)
モルガナイトピンク色マンガン
ゴシェナイト無色透明不純物なし
マキシクス・エメラルド青緑色クロムと鉄
レッド・ベリル赤色マンガン(高濃度)
この章のポイント
不純物によって多彩な色を見せるベリルの仲間たち

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まとめ

ベリルグループに属するエメラルドとアクアマリンは、見た目の色は全く異なりますが、実は同じ鉱物の「兄弟」であることがわかりました。不純物として含まれる微量元素の違いが、エメラルドの鮮やかな緑色やアクアマリンの爽やかな水色を生み出しています。

これらの宝石の原石は六角柱という特徴的な形状を持ち、地球が生み出す幾何学的な美しさを体現しています。この形状は、ルビーやサファイア、水晶などにも共通して見られる特徴です。

また、エメラルドやアクアマリンの美しい色を引き立てるためには、ステップカット(エメラルドカット)が最適であり、透明度の低い石にはカボッションカットが適していることも理解できました。

特に興味深いのは、1960年代にコロンビアで発見されたトラピチェ・エメラルドの存在です。歯車のような模様を持つこの希少なエメラルドは、地球が創り出す驚くべき造形美の一例として、多くのコレクターを魅了しています。

ベリルグループには、エメラルドやアクアマリン以外にも、ヘリオドール、モルガナイト、ゴシェナイトなど多彩な宝石があり、それぞれが独自の魅力を持っています。これらの宝石の特性を理解することで、より深くその美しさを楽しむことができるでしょう。

この記事のまとめ
  • エメラルドとアクアマリンは同じベリルから生まれた兄弟関係の宝石
  • 不純物として含まれる元素の違いが、それぞれの特徴的な色を生み出している
  • 原石は共に六角柱状という特徴的な形状を持つ
  • 色を最大限に引き出すにはステップカット(エメラルドカット)が最適
  • トラピチェ・エメラルドは歯車模様が特徴の希少な宝石
  • ベリルグループには様々な色彩の宝石が存在する
  • 透明度が低い石にはカボッションカットが適している
  • 宝石の特性を理解することで、その美しさをより深く楽しめる
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